物価高への対応と物価手当の効果
先日、ある経営者様から次のような問いかけがありました。「自社ではこの4月も積極的にベースアップしたが、物価高で社員にとってはその効果がほとんど感じられなくなっている。再度のベースアップも考えたいが、一度月例給を上げると簡単には下げられないため迷っている」 同様の状況の企業も多いことと思います。
7月23日の日経新聞で、「ノジマ、物価対策で手当 月1万円、年度内は継続」というタイトルの記事が掲載されました。
同記事の一部を抜粋してみます。
物価高が生活に与える影響を緩和するために特別手当を毎月支給するのは、好ましい取り組みだと言えます。そのうえで、「その特別手当は期間限定の一時金であって、永続的なものではない」という認識を、社員としっかり共有しておく必要があると言えます。
その理由は、大きく2つあります。ひとつは、従業員に既得権益のように認識されると、労働者保護の観点から廃止するのが難しくなる可能性があることです。
従業員が毎月受け取る月例給与には、「基本給」「勤続給」「通勤手当」など、各社各様で呼ばれている項目によって構成されています。これらについて、従業員は毎月の労働の対価として、支給されて当然のような感覚でもらっています。物価手当が長期間継続し、これらと同じような位置づけだと認識されると、労働者にとっての既得権益とみなされて取り除くことが難しくなるかもしれません。(正式な見解は、ケースによるのと、社労士等の判断が必要になりますが)
もともと会社が好業績の時にだけ従業員に還元する趣旨で支給していた決算賞与が、業績低迷時にもそのまま支給され続けたために、従業員の既得権益とみなされてしまい、支給停止が難しくなったという話を時々聞くことがあります。これも上記のことが当てはまる例です。
2つ目は、従業員のモラルダウンを生み出す可能性があることです。上記の法令や社会通念上の観点はクリアしたとしても、「これからももらえると思っていたものがもらえなくなる」と認識されると、経営や人事、職場に対する不満になりかねません。
私たちは、給料が増えたり生活水準が上がったりすると、それが当たり前の状態になります。元の状態に戻れと言われても、難しいものです。一度上げてまた下げて元の状態に戻るのなら、何もせずそのままにしたほうがまだよい、というのが、一般的な法則です。
望ましくない形で廃止をアナウンスすると、一時期間だけでも従業員に配慮して特別手当を支給したつもりが、支給しただけ不満を増やしてしまったという、まったく効果のない投資になりかねません。
よって、経営の考えと、同手当がどういう条件下で支給されるのか、どうなったら支給がなくなるかの、導入時の丁寧な説明が大切だと思います。その点がクリアされれば、同記事が言うように有効な手段のひとつになりそうです。
また、視点を変えると、冒頭の問いかけに関する一つの回答例になるかもしれないと考えます。すなわち、次の通りです。
・直近でベースアップしたばかりの自社で、またすぐにベースアップするのは、人件費総額増加が経営に与える影響を長期的に考えると懸念が大きい
・しかし、一定期間という約束をした上で、期間限定で人件費を上げるのであれば、懸念は和らぐ。
・一定期間経過後、やはり継続的な賃上げが難しいと判断されれば、約束通り支給を終了する。あるいは、一定期間経過後も、経営戦略・計画と十分な収益性の見通しが立ち、継続的な賃上げが可能だと判断されれば、同手当を終了するが相当分をそのままベースアップに変える。
物価高対策の特別手当という試みは、趣旨を明確にして工夫を加えることで、柔軟性のある面白い方法論になるかもしれません。
<まとめ>
一時金を支給する場合、経営の考えと、同手当がどういう条件下で支給されるのかを明確にしておく。
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