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「1つの部に3人の部長」体制を考える(2)

日本の人事部サイトで「職務を分担することで、求められるミッションを推進 管理職の成果を高める、日揮グループの「管理職分業」」というタイトルのインタビューコラムが掲載されました(4月9日付)。

管理職の負担が年々重くなっていると言われている環境下で、管理職に期待される機能を複数人で分業することを制度化しようとするものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

これまで日揮グループでは、部門運営を行う管理職は「部長」と「部長代行」が担ってきましたが、2022年4月より日揮グローバルでは部長代行職を廃止。「部長」と人材育成やキャリア開発のミッションを担う「CDM(キャリアデベロップメントマネージャー)」、遂行中の各プロジェクトの管理や人員配置などのミッションを担う「PCM(プロジェクトコーディネーションマネージャー)」の三位一体で行う体制に変更しました。

グループを取り巻く事業環境が劇的に変化する中、これからも持続的に成長していくためには、自らを変革していく必要があります。そこで2040年に向けて、パーパスである“Enhancing planetary health”を道しるべに、「ビジネス領域」「ビジネスモデル」「組織」をトランスフォーメーションしていく計画を立てています。

2040年のありたい姿を実現するためには、経営陣が一丸となって取り組んでいく必要がありますが、経営陣と社員を結ぶ結節点である「部長職」が担う役割も重要です。特に部門の将来像・ビジョンをしっかりとつくり、実現に向けた道筋を示してリードしていくことに加えて、育成や遂行中のプロジェクトへの適切な配員は「2040年ビジョン」を達成するために欠かせない部長の仕事です。

ただ、すべてのミッションを部長が一人だけで達成することは、負荷が高すぎつぶれかねないとの危機感をCHROが抱き、それぞれのミッションを明確にする形で、ビジョンを実現するために欠かせない人材育成やキャリア開発を「CDM」が、日揮グローバルの事業特性上欠かせない大規模プロジェクトの管理や人材配置を「PCM」がメインに担う体制に変更したのです。

現在は、日揮グローバルの主要30組織にCDMやPCMを設けています。規模としてはおよそ一部門あたり30~40名の組織です。規模の小さな部門やプロジェクトへの配員管理の必要性が低い部門は、部長とCDMのみを置いているケースもあります。

以前からビジネス環境の変化に伴って、部長職の役割が大きくなりすぎていた側面はあったと思います。同時にミッションも複雑化し、部長職に求められるレベルが高くなっていました。

管理職支援には、管理職研修の実施、組織マネジメントの負担を軽くするツールやシステムの導入など、さまざまな方法があります。それらは当然重要ですし、当社もこれから積極的に行っていきますが、それだけでは管理職の業務自体は減りません。ミッションを明確にし、業務自体を絞らなければ、余白は生まれないからです。業務の負担が減らなければ、それぞれのミッションの達成も難しいままになってしまいます。

また、CHROへの日揮グローバルのマネジメントからの意見も、管理職改革の方向性のヒントになったと聞いています。部長をバックアップする部長代行は、職責がわかりにくく、もっとミッションを明確にしたほうが、本人も、周囲も、ミッションの実現に向けて動きやすくなるのではないかと。当社における管理職分業は、「部長と、部長を支える部長代行のミッションの明確化」とも置き換えられます。

同社の管理職分業の取り組みについては、以前にも取り上げたことがあります。その際にも、1人の人材がマネジメントに必要な機能を全役担う必要はない(役者を分担してもよい)ということについて考えました。

冒頭の記事からは改めて、「管理職」や「マネージャー」の仕事について、以前と比べてその範囲がより広く、より多面的に、より難易度が高くなっていることが伺えます。そして、事業を取り巻く環境変化のスピードが速くなっていることが挙げられます。それに伴って、1人の人材が管理職業務のすべてに対応することが難しくなっていると言えます。

加えて、おさえておきたいのは、多くの人がその難易度の高い職務を行ううえで十分な能力開発をしてきたわけではない、ということです。

以前であれば、年功序列的に、主任、班長、係長、課長補佐、課長、部長補佐、のように、時間をかけて管理職の準備を経験しながら次第にその職責範囲を広げていくというやり方をしている企業も多かったはずです。

その中から全員が課長や部長になるわけではなく、適任だという人材を選び出して、任せていくことも可能でした。こうした構図は、事業やビジネスモデルが長期に安定し、人材が一定数安定して組織に流入し続けることが前提となります。

今では、事業やビジネスモデルの長期安定を前提にできない企業も多いはずです。加えて、潤沢な労働市場から安定して人材採用できる環境でもありません。多少見切り発車ではあるものの、成果を上げてきた人材を抜擢して組織を任せるという判断の増えている企業も多く見られます。

よく言われていることに、名プレイヤーと名マネージャーは異なります。マネージャーには不向きで本人も志望しない名プレイヤーをマネージャーにアサインしてうまくいかないという状況も、以前より起こりやすくなっていると言えます。

同社の例も参考にすると、解決の方向性として大きく2つ考えられそうです。分業し役割の範囲を絞ることと、マネジメントに必要な能力を身につける機会を増やすことです。

役割の範囲を絞ることは、役割を明確にすることに通じます。同社の分業の例では、各管理職の役割を絞り何に責任と機能を追うのか、管理職間でどのような連携をとってマネジメントを推進していくのかについて、明確にしているのではないかと伺えます。

また、組織内からもその効果を評価する声が大きいようです。同記事では次のように紹介されています。(一部抜粋)

部長職から、役割を明確化することに対する批判的な声はほとんど聞かれません。部門の最終決裁者は従来通り、部長が担っています。CDMとPCMは対等な立場で、人材育成やプロジェクト管理など、それぞれのミッションについて部長級の立場で意思決定に関わっています。

部門が抱える課題の解決には、三位一体で取り組みます。CDMとPCMは立場上、相反する関係になることもありえますから、三権分立の関係ともいえるかもしれません。

人数が増えれば、コミュニケーションコストは増えます。一人ですべての部長業務を担えるのであれば、一人のほうが早いでしょう。ただ、一人では回しきれない現在の複雑・困難な状況を踏まえると、三人それぞれが職責を全うしようとすることで、仕事の質は上がるものと信じています。

一人の部長が日々の業務をかじ取りし、人材育成やプロジェクト配員すべてを管理していた頃よりも、それぞれの機能をきちんと果たせるようになってきたという声も聞こえています。

とくにCDMが担う人材育成・キャリア開発の面では、組織への好影響がわかりやすく出ています。CDMができることで、キャリアの希望をヒアリングしたり、希望のポストに就くために必要なスキルや経験に関する相談やアドバイスをしたりできるようになっています。ある部門のアンケート調査では、部員の8~9割が新しい制度を「評価している」と答えています。上長の役割が明確なほうが、メンバーも仕事や相談がしやすいのでしょう。

マネジメントに必要な能力を身につける機会については、企業と個人の側が共通の目的をもったうえで、日々の業務を通して能力開発につながる機会づくりを進めていくことがその推進力になります。同社の例では、CDMがその機能においてカギとなっているように見えます。

また、AIや各種アプリなど、いろいろな学習ツールも増えています。マネジメントの総合力の体得がこうした学習ツールで完結するわけではありませんが、多くの管理職がマネジメントに関する基礎情報のインプットに不足があることも指摘されています。知識や情報のインプットについては、こうした学習ツールを積極的に一層活用していくことも必要だと考えます。

管理職分業を導入しようとした場合、導入するのに適正な規模の組織なのか、それぞれの職位の役割は明確に定義できるかが、ポイントになりそうです。自社でも同様に部長を分業する、と単純に模倣するわけにはいかないと思いますが、同社の例は今後の管理職業務のあり方について考えるうえで参考になりそうです。

<まとめ>
管理職業務の難易度は高くなっている。

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