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百貨店 外商の活路

9月2日の日経新聞で、「百貨店外商、40代以下に的」というタイトルの記事が掲載されました。ユニクロなどの専門店が台頭する中で百貨店という業態が衰退し、コロナ禍以前から売上低迷が指摘されていました。その百貨店で新たな活路を見出そうという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

百貨店で「外商」と呼ぶ富裕層向けサービスの顧客若返りが進んでいる。伊勢丹新宿本店では44歳以下の購入額が新型コロナウイルス禍前の5倍に拡大。大丸松坂屋百貨店では、新設したオンライン窓口経由の入会者の6割を44歳以下が占めた。訪日外国人客の特需が消えるなか、各社は残された強みである富裕層の顧客拡大に注力する。

「最初は半年かかるって言われたけど、誕生日に間に合わせてくれました」。海外ブランドのアクセサリーを手に笑顔の30代女性医師は、2021年に三越伊勢丹の外商顧客になった。「オンラインでは販売していない商品もそろえてくれる」と、高級品分野の商品調達力を評価する。

外商は武家屋敷を回って注文を聞いた江戸時代の呉服屋にルーツがあり、専任販売員が顧客宅まで通って要望に手厚く応じる。三越伊勢丹では旗艦2店の合計売上高の2割を外商が占める。各社は顧客の基準を公表していないが、購入額や資産額などを基準に勧誘しているようだ。「若い層では起業家などが多い」(三越伊勢丹ホールディングス)という。

コロナ禍からの回復局面では株式などの資産価値が上がった。一方で旅行は制限されたため、膨らんだ富裕層の消費意欲は時計や宝飾品などの高額品に向かった。

特に伸びが著しかったのが30~40代の比較的若い層だ。伊勢丹新宿本店で21年度に購入額が1千万円以上だった外商顧客のうち、44歳以下の合計購入額はコロナ前の19年度比で5.4倍に増えた。4割増だった55~64歳、65~74歳の伸び率を大きく上回る。

外商顧客の若返りに取り組むのは、百貨店の収益構造が揺らいでいるためだ。好立地の大型店でかつては小売りの王として君臨したが、専門店やネット通販の台頭で斜陽に。訪日外国人特需もコロナ禍で消えた。残された強みが富裕層顧客だが、若い世代を引き込まなければ先細りになる。

富裕層は複数の百貨店の外商を使い分けることが多く、他社との差異化も欠かせない。三越伊勢丹は顧客の要望に応じ、イタリアの高級ブランドへのオートクチュールドレスの発注を実現した。日本の百貨店向けでは前例がないという。既製品にとどまらない調達力を磨く。

今後は深い接客力が再浮上のカギになる。三越伊勢丹は全若手社員に外商の研修を必須とする方針だ。

「三越伊勢丹では旗艦2店の合計売上高の2割が外商」とあります。外商強化の取り組みのみをもって会社全体の収益問題が解決するほどのインパクトの大きさでもないはずですが、店の存在意義とお客さまへの付加価値を高める有力な方策のひとつだろうと思われます。

冒頭の顧客層の伸び方を見ても、30~40代の若い富裕層は開拓余地の大きさが感じられます。関連記事を見ると、改めてそのことが認識できます。(以下一部抜粋)

世界の家計資産は21年で472兆ドル(約6京5400兆円)と、16年から4割以上増えた。日本は同期間で1割強しか増えていない。年収水準が30年にわたって横ばいの日本は、中間層の消費力が成長していないことがうかがえる。

ただ、富裕層に目を転じると状況は違う。日本で資産を100万ドル(約1億3800万円)以上保有する富裕層は21年時点で365万人。米国(746万人)に次ぐ世界2位で、3位にも2倍以上の差をつける。

日本が経済成長していないため、日本国内の家計資産の合計も他国との相対比較で増えていないことが改めて分かります。その中で、富裕層は着実に資産を積み上げていることが想像できます。意外にも、国の人口全体に対する100万ドル保有者の割合では、日本(365万人/約1億2千万人)は米国(746万人/約3億3千万人)より高くなっています。想像以上に資産格差が広がっている印象です。

逆に言うと、富裕層に満足いただくことで消費を引き出し、社会に還元する余地は大きいということです。冒頭の30代女性医師の例は、そのイメージの典型です。

このような起業家などの若手富裕層のニーズとしては、「スピード」「選ぶことへのこだわり」「費用はあまり気にしない」といったことが挙げられるのではないかと想像します。中高年の富裕層以上に時間の制約がより大きいため、「何かの購入になるべく時間をかけたくない」というニーズは高いでしょう。また、高級感もさることながら、ESGの観点からも「自分が納得できる商品を選びたい」というニーズも高いのではないかと想像します。

こうしたニーズに対して、百貨店に出向く必要なく家まで来てくれて、オンライン検索の必要もなく、自分の嗜好や意図に合ったピンポイントの商品を説明し提案してくれるサービスは、有望ではないかと考えます。

100万ドル保有者の365万人がつくる富裕層市場のうち、外商が既に取り込めているパイはごく一部のはずです。拡大余地はまだまだありそうだと思われます。外商で今後の課題のひとつは、基幹店舗から離れた地方の若手富裕層にまでどこまで安定的にサービスを届けることができるのか、でしょうか。

百貨店業界を、従来の「1等地に出店し様々なアイテムを集めて売る」という業態の枠や「中高年が主なターゲット」という顧客の枠で捉えたままだと、じり貧が続いていくのでしょう。業態や顧客はだれかの定義、商品・サービスの在り方の見直しで打開の余地があるということの好例ではないかと感じました。

<まとめ>
業態や主な顧客の定義を見直し、強みを生かせる領域を探す。

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