見出し画像

夏の金曜とプレミアムフライデー

9月1日の英フィナンシャル・タイムズ電子版で、「米国の金曜、仕事ほどほど 在宅勤務増で拍車」というタイトルの記事が掲載されました。金曜日の午後早めに仕事を切り上げる動きが進んでいると紹介している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

米企業が5月下旬のメモリアルデー(戦没将兵記念日)から9月上旬のレーバーデー(労働の日)までの金曜日午後、従業員に数時間早く帰ることを認め始めたのは1960年代のことだ。ニューヨークで働く企業幹部が郊外の高級別荘地に交通渋滞を避けて行けるようにするためだったといわれている。

この「夏の金曜」と呼ばれる慣習は、限られた人のうらやましい特権となってきた。しかし頻繁に自宅から仕事をすることで、一年を通して金曜日の仕事を早く切り上げる従業員が増えている。

ウォール街で働くあるアナリストは金曜の仕事のスケジュールについて「チームズ(米マイクロソフトの会議アプリ)にログインし、メールをチェックしたら、さあ自分の時間だ」と話す。「問題に備えて仕事用の携帯電話は持ち歩いている」という。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まってから、米国人の働き方は進化してきた。2020年の終わりごろには企業が従業員に再びオフィスに出社するよう要請し始めた。スタンフォード大学で職場のデータを研究するニック・ブルーム経済学教授によると、実質的な週休3日体制になってしまうことを恐れた一部の企業は金曜に出社するよう求めた。

しかし人手不足で労使の力関係が労働者側に有利な状況になると、一部の従業員は特に金曜に関して、自宅での仕事を会社と交渉できるようになった。そして金曜に柔軟な勤務が認められる人が次第に増えていった。「金曜は人けのない日になってしまった」とブルーム氏はいう。

オフィスビルの入退出システムを管理する米キャッスル・システムズによると8月下旬の全米10都市でのオフィスビル利用率は、火曜がコロナ禍前の55.9%の水準で、金曜が31.3%にとどまった。ニューヨークは金曜のオフィス利用率が20.5%だった。

ハイブリッドな勤務を受け入れる企業が増えるにつれ、オフィスでの仕事は週半ばに集中するようになった。重要な仕事や会議は火曜、水曜、木曜に設定されるようになっているという。

日本でも、月の最終金曜日に早い時間帯で仕事を切り上げることを奨励する「プレミアムフライデー」という運動が2017年に叫ばれていましたが、まったく聞かなくなりました。上記はまさにプレミアムフライデーの毎週版の印象です。経緯は存じ上げませんが、国外でそのような習慣があることに多少なりともヒントを受けての運動だったのではないかと推察します。

同記事から考えたことを2つあげてみます。ひとつは、努力義務を伴わない、各人の自主性に委ねる一律の運動は、社会的に流行りにくいのではないかということです。

実行しない場合に罰則を伴う義務や、罰則を伴わないまでも努力義務とされることは、「守らなければならない」と相応に身構えて具体的な行動変容を考えるものです。一方で、そこまで至っておらず「そうするのもいいよね」という位置づけにとどまるスローガンであれば、私たちには大して響かないのかもしれません。

加えて、例えば地球環境問題に直結することや大きな社会問題にかかわることなど緊急度の高いテーマであれば、放っておくとまずいという危機感に訴えかけられて動き方が変わってくるのかもしれませんが、プレミアムフライデーは緊急度が高いとは言えません。反応しにくいテーマだと言えます。

この点については、同記事によると米国では相応に根付いているようですので、国や文化圏の差もあるのかもしれません。

もうひとつは、現状以上に一律で仕事をしないルールをつくるのは無理があるのではないかということです。

日本は世界でも最高レベルで休日が多い国です。土日に加えて日数の多さで世界トップレベルの祝日があり、既に相当数の3連休が配置されています。他にも、多くの会社で夏季休暇、年末年始休暇があり、会社が定める記念日も休みになっている場合があります。

OECDによるデータ「2022年 年間労働時間(全就業者)」によると、調査対象国で最も労働時間が長いのはコロンビアで2,405時間となっています。2位はメキシコの2,226時間、5位は韓国1,901時間、12位が米国で1,811時間。イタリア、スペイン、ポルトガルなどヨーロッパの国もいくつか20位台までに出てきて、日本は30位で1,607時間となっています。

もちろん、北欧諸国など日本より労働時間の短い国も他にありますが、OECD平均1,752時間を下回って、日本は既に労働時間が短い国の一角となっています。20世紀後半に日本が世界トップレベルで長い労働時間の国だった頃から、まったく違う社会環境に変わっていると言えます。一律につくる「不就労の時間」は、もう限界近くまできているのかもしれません

米国は依然として長時間労働国の一角なわけです。さらなる連休への需要の余地があるのかもしれません。こうした背景の違いをおさえずして「米国でプレ金が広がっているから日本でも」のように考えると、的を外してしまうかもしれないと思います。

ちなみに、これは私見であって裏どりできていませんが、米国で労働時間が長い一因は、アメリカンドリームを夢見ながら渡ってきて労働意欲旺盛な移民が、全体の労働時間を押し上げている結果ではないかと想像します。

日本で必要なのは、一律に休む時間のルールをこれ以上設定することよりも、各人に裁量を持たせて就労・不就労の時間を決める自由度を増やすことではないかと考えます。つまりは、規律のある自由とそれを自己管理しながら成果を上げる習慣づくり、というイメージです。

<まとめ>
プレ金の広がるエリアと広がらないエリアは、そもそもの社会背景も違う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?