経営指標の定義
先日、ある企業様とのミーティングで、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard, BSC)の考え方に沿って、同社様に合った経営指標をどのように設定すべきかがテーマになりました。
ウィキペディアでは、BSCについて次のように説明されています(一部抜粋)。
~~この概念は、従来の財務的指標中心の業績管理手法の欠点を補うものであり、戦略・ビジョンを4つの視点(財務の視点・顧客の視点・業務プロセスの視点・学習と成長の視点)で分類し、その企業の持つ戦略やビジョンと連鎖された財務的指標、及び非財務的指標を設定する必要がある。
財務の視点:株主や従業員などの利害関係者の期待にこたえるため、企業業績として財務的に成功するためにどのように行動すべきかの指標を設定する。
顧客の視点:企業のビジョンを達成するために、顧客に対してどのように行動すべきかの指標を設定する。
業務プロセスの視点:財務的目標の達成や顧客満足度を向上させるために、優れた業務プロセスを構築するための指標を設定する。
学習と成長の視点:企業のビジョンを達成するために組織や個人として、どのように変化(改善)し能力向上を図るかの指標を設定する。~~
言ってみれば、自社にとってのKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を設定する上で、拠り所となる切り口を4つの視点で提示してくれているものです。冒頭の企業様では、この4つの視点を手がかりに、今後の経営計画でどんな指標をKPIとすべきかを見出そうとしているわけです。
その際に意見交換・確認したポイントは、次の4つでした。
1.売上は最終的な結果と考える。
売上という指標は、自社がお客様・社会にもたらすことができた価値・影響度の大きさを表すものです。企業活動を行う以上、こだわり続けるべきもので、基本的に増え続けることを目標にするべきものです。なぜなら、売上が伸びずに一定レベルでずっととどまっているということは、お客様・社会に提供できていることの度合いが変わっていないということになるからです。
社会は常に発展・前進し続けています。売上の大きさが変わらないということは、社会の発展・前進から遅れているという意味で、現状維持ではなく衰退と言えます。よって、「高利益体質を維持できるなら、売上は据え置きでよい、あるいは減ってもよい」という考え方は、(それが一時的に必要な局面、環境はあるとして)基本的には経営の王道とは言えないでしょう。
また、今の日本にいるとあまり自覚しませんが、基本的に物価は上がっていくものです。よって、少なくとも物価の上昇率(世界標準での)+α以上の売上成長率を目標として設定するのが、売上という指標の基本だと言えるでしょう。
しかしながら、売上は「自社がこれだけ増やしたい」と言って自由に増やせるものではありません。あくまで、お客様や社会から支持された結果として実現できるものです。お客様や社会からの自社に対する投票結果と言い換えてもいいでしょう。目標とする売上高を設定するのはよいとして、重要なのはそれを実現するために何に取り組んでいくのかということです。
その観点も含めて、上記4つの視点のうち、「財務の視点」は最終的な結果指標であり、「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」を、その結果指標を生み出すための方法と考えるべきだということが言われます。つまりは、財務の視点の目標達成は、下記に取り組んだ結果として認識するということです。
・お客様のために何をどのように提供するのかを決めて実行する
・どんな業務プロセス構築するのか、どのように改善するのかを決めて実行する
・組織や個人がどのような能力を身に着けていくべきか、決めて実行する
冒頭の企業様は現在、グループ会社がメイン顧客の受注生産型企業です。グループ内の顧客企業からの発注によって仕事量が決まります。株主もすべてグループ会社で占められています。よって、売上目標を自社の意志で設定することには無理があります。
他方、今後の環境変化や会社の発展を考えると、顧客企業から受け取る注文以外に自社発で提案する案件の増加や、グループ外顧客を開拓することにも注力しようとしています。これらの環境下であることを踏まえて、経営方針・計画を設定していく必要があります。
同社様では、「財務の視点」では「売上高」といった指標は設定せず、自社でコントロール可能な原価管理等の設定にとどめます。そして、「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の各視点で、上記の環境に合った適切な指標(例:グループ外企業○社に△を提案)を設定していきます。このような考え方・やり方であれば、独立系の企業でない組織であっても、その組織なりの目指すべき指標を設定していくことがしやすくなります。参考になる組織も多いのではないでしょうか。
残り3つのポイントについては、次回以降取り上げてみます。
<まとめ>
財務上の成果を生み出すための指標を、「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の視点で設定していくこともできる。