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組織のフラット化を考える

7月19日の日経新聞で、「リスキリング、身近な話題から」というタイトルの記事が掲載されました。リスキリング(学び直し)という言葉を聞かない日のほうが少ないぐらい、一般的な言葉になりましたが、学び直しの本質について一考している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

経営の世界で「VUCA(ブーカ)」という言葉が注目されて久しい。これは先々の展開を予想するのが難しく、例えば昨今の生成AI(人工知能)の登場のように「想定外」が発生してしまうような混沌とした状況のことを指す。VUCA時代を生き抜くためには、「課題設定力」と「関連づける力」を身につけることが必要だ。

近年、国を挙げて推進されるリスキリング(学び直し)だが、私は多くのビジネスパーソンがリスキリングを難しく考えすぎているように思う。例えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル技術を活用して企業文化や風土を変革し、競争優位性を確立することを指す。

そのため、DX関連のリスキリングは、必ずしも技術を習得することだけを意味しない。だが、多くの人が「プログラミングなどの技術を習得しなければ」と感じてハードルを上げてしまう。

DXで重要なのは技術を用いて変革をもたらすことだ。そしてそのために必要なのが、「関連づける力」だ。一見無関係な複数の事柄を関連づけることで新たなアイデアが生まれ、変革が生まれる。

では、関連づける力を備えているのはどのような人なのだろうか。長年、人事部で人材戦略に携わってきた私の感覚では、自分自身の仕事やその周辺だけでなく、広く社会に関心を持っている人に多い。生活の中の身近な話題でも興味を持って自ら調べ、関連する本を読み、考えや課題をまとめる習慣がついている。

常に社会の中で複数の分野に自らの課題を設定し、それらを関連づけることがビジネスの難局を突破するきっかけとなる。新しい技術の習得も必要だが、身近なテーマについて知識を深めることも立派なリスキリングの一つ。そう考えると学び直しは難しいことではなくなってくる。

「課題設定力」と「関連づける力」が、これからの環境下ではますます重要であり、高付加価値を生み出す源泉となっていく。ひとつの専門領域や業務で閉じられた空間だけに没頭するのではなく、以前「学際的」と言われていたようなイメージで、他の領域や組織と行き来しながら多方面の知見を有することの意義がさらに高まる。同記事からはそのように感じます。

とはいえ、専門領域を掘り下げることの重要性も変わらないのだと思います。示唆としては、少し前から叫ばれている「学び直し」が専門領域の掘り下げ、それも特定の領域で強調される嫌いがあるが、そのことだけが「学び直し」の対象となるのではない、ということなのだと思います。

7月21日の日経新聞記事「生成AIと経済社会(中) 組織、縦割りからフラットに」では、生成AIの浸透もあって、今後組織がさらにフラット化することが避けられないことを考察しています。以下、一部抜粋してみます。

生成人工知能(AI)が世界を揺り動かしている。端緒はディープラーニング(深層学習)技術の発達である。人間が与えたルールを学習して答えを出すのではなく、AIがデータからパターンを自ら生成・認識し、それを活用して答えを導き出すようになった。

学習済みパターンを組み合わせるとより複雑なパターンを生成できるので、加速度的に発展する可能性がある。それが自然言語処理の世界に広がったのが大規模言語モデル(LLM)だ。

生成AIが経済社会にもたらすインパクトは何か。
どの職種が生成AIにより仕事を奪われるかという議論が多いが、職種を問わず分業に革新を起こすととらえる視座が重要だ。

LLMのサービスを使う経験は、職場で調べ物を依頼する経験に近い。ローレンス・レッシグ米ハーバード大教授が挙げる例を英誌エコノミストから引用すれば、複雑な法律案件には大量の弁護士スタッフを抱える大手法律事務所だけが対応できるという制約がなくなる。この流れが広がれば、ピラミッド型組織に基づいた仕事がなくなり、組織がよりフラットでコンパクトになると考えられる。

分業の革新は、組織が行ってきた情報処理や意思決定のプロセスを分解し、その一部を生成AIなどのデジタル技術が代替することで起きる。

分業の革新が進むと、人間の仕事は情報処理の前提になる課題、ビジネスでいえば顧客のニーズに近づく。ニーズは専門分野の縦割りに収まらないので、企業はチーム編成を自由に変更できた方がよい。それが実践できると時々の課題に合わせてチームを編成し新たなサービスを生む組織になる。

生成AIを生かす組織とそこで働く人の発想も縦割りにとらわれず、創発的である必要がある。これまでは自動車などの完成品がまずあり、その生産をどう分担するかが分業の核心だった。まさにピラミッド型である。生成AIの時代には異なる発想が求められる。以上は企業内の分業の革新だが、生成AIは企業間の分業も革新する。

生成AI全盛となる環境下で、人に期待される主な役割がどのようになっていくのかは想像の域を出ませんが、上記も手がかりにすると次のように言えるのかもしれません。

・これまでは、ある領域について一部の限られた人が持ちうる情報や知識、経験を効率的に集約し、商品・サービスに反映させるために縦割り組織が有効な環境が多かった。これからは、頻繁な組織の変更も含めた柔軟な組織のほうが有効な環境が増える。

・これからは、情報や知識の集約はある程度生成AIが代行できる。よって、業種や職種に関係なく、「学び直し」というより「新たな学び」として、生成AIを使いこなす能力を身に着けることは必須となっていく。

・人への主な期待は、AIによる情報処理の前提となる方針の立案や判断、「情報処理」と「情報処理」をつないだうえでの判断、その結果を反映させて人を動かすなどを、領域の制約なく行うことになるのではないか。その意味では、ジェネラリストの市場価値はますます高まっていくかもしれない。

・生成AIが発達することで、生産性が上がり新たなニーズも増えて、社会全体での付加価値は大きくなっていく。一方で、生成AIは手作業や細かい物理的な動きを担ってくれるわけではない。ホワイトカラーの仕事は一定程度減る一方で、ブルーワーカーの仕事は増えるかもしれない。今後ホワイトカラーからブルーワーカーへの労働移動も考えられる。

前回の投稿で、フラットな組織づくりを方針として掲げている社長の話について取り上げました。今後の環境変化も踏まえた上での、本質的な方針と言えるのかもしれないと考えます。

<まとめ>
縦割り型の硬直した組織より、柔軟な組織のほうが有効な場面が、今後ますます増えるかもしれない。


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