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環境整備について事例から考える(4)

前回は、BizHint記事「「5年後、潰れますよ」と諭され目が覚めた。“掃除”を徹底したらV字回復した町工場の話」(2023年12月18日(月)掲載)で、枚岡合金工具株式会社の環境整備について取り上げました。リーダーとして改革を牽引した古芝保治会長の取り組みで、「外の世界を知る。先行事例を学ぶ」ことが成果を上げた要因のひとつではないかと考えました。今回も続きを考えてみます。

・目標や管理項目を絞る

同記事の一部を抜粋してみます。

古芝:職場環境整備の合言葉として5S(3Sに「清潔」「躾」を加えたもの)がありますが、中小企業では管理する項目ができるだけ少ないほうが成功しやすいと聞き、3Sを行うことに決めました。そして「守ることを決め、決めたことを守る」を徹底し、活動が習慣化するように努めました。

「シンプルイズベスト」と言われるように、私たちは複雑なことよりも簡素なこと、マルチイシューよりシングルイシューに絞ったほうが、うまくいきやすくなります。たくさんのウサギを一度に追いすぎると全部取り逃してしまいがちなのは、「二兎を追う者~」のことわざの通りです。

「設定する業務目標は最大3つまで」「5つまで」と数を制限している会社があります。いくつの数にするのが正解というのはありませんが、目標や管理項目を絞って優先順位高いものに集中させ成果を上げたほうがよいという、上記の考え方によります。これは中小企業に限ったことではなく、どのような規模の企業でも共通して言えることです。

「3Sの基盤がある程度あるが、徹底されているとは言えない」というような状況であれば、この活動開始当初から合言葉を5Sにすることが適切かもしれません。しかし、同社様は3Sの概念皆無の状況だったのが、前回の内容からもうかがえます。あるべき姿と現状のギャップ=問題に対して、自分たちの現状を踏まえた上で適切な目標数、それに見合った管理項目数を設定するのが大切だというのを、同社様の取り組みからも改めて感じます。

・承認の機会をつくる

これは、前回取り上げた「見学者の受け入れ」に通じることです。同社様の環境整備活動を見に来た見学者から、自分たちの取り組みを認められる機会になるためです。また、「フィードバックを謙虚に受けとめる」の前提となる「フィードバックを受ける機会があること」にもなります。

私たちには、自分の存在や行動、成果を他者から認められたい「承認欲求」をもっています。いくら自分たちに強い信念があっても、その信念だけで物事を続けていける人はわずかです。やはり、自分以外の他者から、自分たちのことを的確に認めてもらえたという喜びがあることで、その取り組みをやり続けていけます。

「他者」には、他の人や社会だけでなく、モノやデータも含まれると考えてよいでしょう。同記事には次のようにあります(一部抜粋)。このような、自分たちが取り組んでいることの効果を実感できることで、その取り組みをさらに進めていこうとします。

古芝:たとえば工場内の工具。工具があちこちに散乱していたことから、目的のものを探し出すため60秒~200秒かかっていました。工場長と協力して、工具の置き場所を決め、一定の方向に配置するようにコンビニ棚で仕組み化したところ、探し出すまでの時間はわずか3秒に短縮できました。

ちなみに整頓を始める前は、社内で目的のものを探すために、社員一人当たり一日平均30分もムダ時間を費やしていました。一人当たり年間130時間以上の削減に成功しています。このように整頓を徹底することで、ムダをなくしていくこともできます。また、どこに何があるのかが明確になるので、余剰発注といったミスも防げます。

人材不足の悩みも解消しました。以前は、採用しても数日で辞める人が後を絶たず、若手社員が定着しなかったんです。しかし、 3S活動をスタートしてからメディアへの露出で知名度が上がり、大卒や大学院卒の若手が「枚岡合金工具に就職したい」と希望してくれるようになりました。社員は12名から24名に増え、離職率はわずか4.5%。働きやすい環境を整えた効果は大きいと感じています。

現在の年商は約3億円、社員たちの頑張りはボーナスという形で還元できています。バブル崩壊後に売上低迷が続き、潰れるのは時間の問題だと危機を抱いていた頃とは大違いです。

・反対勢力の存在と一定の入れ替わりを予め想定する。

同記事の一部を抜粋してみます。

古芝:しかし、3S活動をスタートして2年が経過した頃、ターニングポイントが訪れます。あるベテラン社員が「わしは掃除をするために何十年も働いてきたわけじゃない」「ひとつでも多く金型をつくって給料を上げてくれ!」と苦言を呈してきました。共に会社を良くしたい気持ちは同じである一方、方向性は異なっていた のです。この時、社員の足並みが揃っていないことを思い知らされました。つまり3Sが目的になっていたことに気付かされたことでした。

実際、社員の3S活動に対する意向は、反対2割、賛成2割、どちらでもないが6割。このまま進めてもうまくいかないだろうし、本当の意味で改革は成功しない…そう感じ、冒頭にお話しした、3S活動の目的の再定義に至ったわけです。

(中略)しかし残念ながら、会社を去った社員も少なくありません。会社の風土が変わるとなじめない人が出てくるのは当然です。新陳代謝が起こり、会社は生まれ変わっていきました。

一番嬉しいのは、社員が変化を恐れなくなったこと。以前は職人気質で、与えられた職務以上のことはしない者が多かったものの、 3S活動をきっかけに主体的に動ける社員が増えました。

10人いれば10人が同じ価値観、目指しているものが同じだとは限りません。メンバーが去るのは残念ですが、組織として妥協できないミッションやビジョン、それも社会的に正当だと言えるものに賛同できないメンバーは、去るしかありません。

既にそういうものが明確で、メンバーの加入時にそれらへの共鳴を取り付けていれば、途中でその組織から離れるという事象を減らすことができます。しかし、同社様のように既にいるメンバーに対してそのような考え方・取り組みを新たに導入するのであれば、離れるという事象が増えてしまうことになります。

長期戦にもなり辛抱が必要で、簡単でもありませんが、そうした過程を乗り越えた先に、同社様のような成果が待っているということなのだと思います。

<まとめ>
組織変革を行い文化にまで高めるには、長期戦を前提とする。

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