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物価高と販売価格への転嫁は根付くか

1月14日の日経新聞で、「三菱UFJ銀、紙通帳に手数料年550円」という記事が掲載されました。日本の銀行では、慣例的に通帳発行やキャッシュカードの発行が無料、口座維持管理料も無料ですが、諸外国では手数料・管理料を取るのは日常的です。ついに、日本の銀行でも過剰な無料サービスはやめる時代になったのかもしれません。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~三菱UFJ銀行は4月から、新規に口座を開設して紙の通帳を発行する場合は年間550円の手数料を徴収する。通帳発行コストを抑え、デジタルサービスへの移行を促すのが狙い。通帳に関する手数料は三井住友銀行やみずほ銀行、地方銀行も設けている。サービス維持のために適正な対価をとる。

すでに三菱UFJ銀は2年以上、利用されていない休眠口座からは維持手数料として年間1320円を徴収しているが、通帳発行への手数料はとってこなかった。スマートフォンで入出金を管理できるシステムが整っており、記帳のニーズは薄れている。一方、通帳は1口座あたり年間200円の印紙税がかかっており、銀行にとって無視できないコストになっている。~~

今まで一部の銀行でもこの動きは見られましたが、最大手の三菱UFJが公式にアナウンスし舵を切った影響は今後大きいでしょう。

同日付の新聞で、「長年続いた安値競争に終止符を」という記事もありました。こちらも一部抜粋してみます。

~~資源や部品類などの価格が広範かつ大幅に上昇している。収束時期は不透明であり、エネルギー高については、脱炭素に向けた化石燃料への投資手控えなど長引く要因も影響していそうだ。米欧では川下段階の物価上昇が目立つ。直近の消費者物価(総合)の前年比上昇率は、米国が7%程度、ユーロ圏が5%程度。一方、日本では0.5%程度と低位にとどまる。

米欧と日本の物価上昇率の違いには、経済の回復度合い、エネルギーのウエート、日本における官製的な通信料金の引き下げなど、様々な相違点が影響する。ただ根本的には、人々の「物価観」の違いによるものだ。

米欧の企業は、サービスを含め当たり前のようにコスト高を販売価格に転嫁する。一方、日本の企業は、円安も加わりコスト上昇が大きいが、価格転嫁に消極的だ。日本では「サービス」という言葉が労働などの提供だけでなく「値引き」という意味も含むことがよく知られており、長期的なデフレの経験もあって値上げに踏み切りにくい。

ただ、日本企業の価格設定にも変化の兆しがある。日銀短観の価格判断をみると、過去の同様の局面に比べ、コスト高を販売価格に転嫁する動きがやや目立つ。

2021年12月調査における仕入れ価格はプラス43と大幅な資源高となった07~08年(最大でプラス57)を下回る一方で、販売価格はプラス10と同局面(最大でプラス4)を上回り、00年以降のピークを記録した。

振り返ると07~08年には、中小企業を中心にコスト高を販売価格にさほど転嫁できず、賃金抑制で収益を確保しようとする動きが拡大した。

日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によれば、値上げに対する抵抗感は根強いが、購入の際に特に重視することとして、コロナ前と比べ「価格の安さ」が低下。「安全・信頼」や「環境や社会に配慮」などが上昇している。~~

2つの記事から考えたことは、大きく2つです。ひとつは、消費者の間で物価上昇に対する耐性が根付きつつあるのではないかということです。

上記意識調査結果にもあるように、コロナ禍による社会構造の変化や脱炭素を求める動きの高まりなど環境変化も受けて、「社会的に必要な領域については、応分の負担をせざるを得ない」という考え方が広まってそうです。

通帳の有料化も、利用者の抵抗があまりに強いようだと、上記のようなアナウンスはできないでしょう。ここにきて受け入れ耐性が整ったと判断されたのではないかと推察します。

もうひとつは、銀行というビジネスモデルが限界にきているかもしれないことです。銀行の主業務はざっくり、預金という形で各方面から集めてきた資金を融資し、融資に応じた謝礼をもらって稼ぐモデルです。モノづくりで言うと預金が仕入れに当たるわけですので、当然安く仕入れたいわけです。

一方で利益の源泉となる融資に応じた謝礼が、低金利で下がり続けたまま上がりません。いまだと貸出金利1%でもよいほうかもしれません。1%であれば、融資先の99件で期日通りに融資元金を回収しても、残り1件が回収不能となれば利益ゼロです。その状態では当然人件費含めた固定費を捻出できませんので、営業赤字となります。だとすると、融資の成功率はいったい何%なければ成り立たないかという話になります。相当厳しい数字であることが推察されます。

多くの銀行ではおそらく、これだけでは組織として成り立たないため、他の商品販売や助言サービスなどで稼ぎ、トータルで利益を確保しビジネスとして成り立ってきたのでしょう。しかし、融資での利益が下がりすぎたために、年を追うごとに状況が厳しくなっているというわけです。

現在の異常な低金利はいずれ修正されるとしても、かつてのような高金利まで戻るのは、経済の予測から見込みが薄いと想定されています。また、最近はクラウドファンディングなど資金調達の多様化も進みつつあります。このモデルがこの先も有効なのかが問われているところだと思います。

当面はひとまず、利益を確保するために、仕入れである預金調達のコストを下げる必要があります。日本では消費や取引に付随する周辺のサービスは無料だという認識が一般的でした。しかし、ここにきてスーパーやコンビニのレジ袋有料化が日常的に受け入れられるなど、変化が見られます。この例の通帳発行手数料も、同様の認識になっていくのかもしれません。

原材料物価の上昇やコストのかかるサービスなど、売り手の企業側が許容できない負担を抱え続けるのは、健全な状態とは言えません。消費者の立場としては、自分たちへの価格転嫁を受け入れていくことが必要だと思います。生産者やサービス提供者の立場としては、こうしたトレンドの変化も感じ取りながら、価格設定に織り込むべきことは適切に織り込み、そのことを毅然と主張することも必要だと思います。

ちなみに、銀行のローンによる融資の審査が以前より厳しくなったと聞くことがありますが、それも当然の流れだと理解できます。かつて金利5%だった時代は、貸し倒れが20件中1件でトントンでした。1%の今は100件中1件でトントンです。貸す側の立場を考えると、仕方のないことだと言えるでしょう。

<まとめ>
安値競争ではなく、価格設定に織り込むべきことは適切に織り込んでいく。


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