見出し画像

解雇の金銭解決を考える(2)

前回は、11月1日の日経新聞「積み残しの規制改革(上) 解雇、金銭解決で透明性向上」も参照しながら、金銭解決による正社員の解雇をテーマに、社会経済環境の変化に合わせて従業員がもつべき視点について考えてみました。

従業員がもつべき視点に通じますが、経営側のもつべき視点について、次のとおり考えてみます。

・市場環境や、顧客・競合他社、人口動態、テクノロジーなど、外部環境の変化が今後の自社の事業に与える影響を的確に認識する。

・環境変化への対応を踏まえた自社の戦略、それに基づいて自社がどのように業態転換していくべきなのかを想定する。

・業態転換に伴って、社員には新たな業務への対応を求めていくことになる。社員が新たな業務に対応できるようになるために必要な職能(「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」)を身につけてもらう機会をつくる。もしくは、その職能を持っている人を新たに雇う。

・新たな職能を身につけ変化していくことを望まない社員にどのように対応するのかを整理しておく必要がある。

同記事では、上記で変化を望まない社員に対し、金銭解決で解雇する選択肢を準備することへの社会的合意も今後必要とし、金銭解決の場合の相場について説明しています。

金銭解決という方法が社会的に浸透していくかどうかは別として、今後の考え方や早期希望退職の募集など(早期退職を募る場合はおそらく、社員に対して金銭解決による解雇以上の水準で提案が必要)にあたって参考になるのではないかと思います。以下に同記事から一部抜粋してみます。

日本における解雇規制の不透明性が、企業内での職種転換による環境適応を多くの企業に強制しているならば、制度の透明性を向上させ、各企業の事情に合わせた選択ができるような環境を整える必要がある。

日本の解雇規制の透明性を高めるためには、不当解雇が起こった時の救済手段として金銭解決を認め、その解決金の水準をあらかじめ設定する必要がある。

筆者と東京大学の川田恵介准教授はその水準を、労働者が今の企業で働き続けたら得られたであろう生涯所得と、転職した際に得られる生涯所得の差とする「完全補償ルール」を提案する。その水準が退職時の月給の何カ月分にあたるかを計算した。

(同記事で紹介されていた図表より)23歳で入社した男性大卒社員が解雇された場合の金銭補償額(月収換算)

従業員規模/解雇時の勤続年数(1年・4年・20年の場合)
1000人以上 2.4か月・9.9か月・38.6か月
100~999人 1.2か月・5.1か月・27.0か月
99人以下 0.8か月・3.4か月・17.7か月

この大きさは勤続年数に応じた賃金増加に依存するため、勤続年数が長いほど大きくなる。また勤続に伴う賃金増加は大企業のほうが大きいため、大企業ほど解決金も大きくなる。

日本の多くの正社員は、雇用保障と将来の賃金上昇を見越して長時間労働に耐え、全国転勤にも応じ、スキル向上に励んできた。これをご破算にしようというような解雇規制の緩和は公正性を欠くし、政治的にも困難だ。日本の雇用慣行を踏まえた現状の解雇法制の大枠には手を付けず、金銭解決制度を導入して制度の透明性を向上させるのが現実的だ。

この制度を採用したうえで、勤続年数と賃金の関係の変化など客観的な指標に基づきつつ、解決金の水準を調整していく仕組みを導入することが望ましい。

現在の労働市場で問題なのは人手不足であり、人余りは問題ではなく、解雇に関する関心が低いという指摘もある。この指摘は職と労働者の多様性を見ていない。実際に求人と求職の現況を見てみると、デジタル化に伴う技術者の有効求人倍率が上がっている一方で事務職に対する有効求人倍率は低迷しており、職業構造の転換が見て取れる。この転換過程においては、人手不足の下での解雇も十分に起こりうる。

職種間での求人と求職のギャップが開いているという指摘からは、今後は同じ社内でも全部門・職種に同一の等級制度や賃金テーブルを適用するのではなく、部門・職種間で異なる等級制度や賃金テーブルを適用することへの必要性も高まるかもしれないと想定できます。

当然、社会や雇用側のニーズが高く、人材に希少性があり、新たな職能の開発を必要とする職種や役割のほうが、経営として投資する対価は高くなるということになるからです。

<まとめ>
企業目的を達成するためには、今後社内の人材に対して処遇面でも個別対応がより必要になるかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!