解雇の金銭解決を考える
11月1日の日経新聞で、「積み残しの規制改革(上) 解雇、金銭解決で透明性向上」というタイトルの記事が掲載されました。
日本では、企業が金銭解決によって正社員を解雇することへの規制が厳しすぎると言われてきましたが、政治家によっては解雇規制改革を公約に掲げ、それが大きく取り上げられるなど、関心も高まっています。その背景について取り上げた内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
個人的には意外な印象ですが、同記事によると、解雇規制の緩和についての世論は賛否が拮抗しているということです。以前に比べて、規制の緩和(解雇しやすくする)への賛成派が増えているものと想定されます。
同記事を手がかりに、改めて従業員(働く人材)に求められるであろう、環境変化の対応についてまとめてみます。
・社会経済環境の変化は、企業に対してさまざまな業態転換を求める。よって、旧業態に従事していた人材には、新業態に従事するよう求められる。
・旧業態から新業態への転換で、社員が従事する業務も転換する必要がある。これは、いち企業の要請というより、社会の要請と捉えたほうがよい。
・社員は総じて、勤務先の企業内での業務転換に応じるか、勤務先外の環境で新たな業務を探すかのいずれかが必要。
・そのことに伴い、旧業務で通用していた職能が新業務でも通用する場合は、そのまま新業務に移行すればよい。一方で、その職能が新業務では通用しないのであれば、新業務に適用するための職能を身につける必要がある。
自動電話交換機が普及するまでの昭和時代前半には、電話交換手という職業があり、当時は花形で憧れの職業だったと聞いたことがあります。ウィキペディアによると「電話機を用いる通信で電話回線を接続する業務者およびその職業」とあります。昔の電話は、相手先に自動でつながらなかったため、人の手を必要としていたわけです。
今では、当然そのような職業はありません。電話交換手が不要になれば、いくら個人的に電話交換手の仕事をしたいと強く願ったとしても、他の業務に転換するしかありません。
上記の従業員に求められる業務転換で発生しうる問題は、大きく2つだろうと想定されます。
1.勤務先の企業が、業務転換の環境、及び転換に伴い必要となる職能開発の機会を提供できるが、従業員の側がそれを承諾しないため、業務転換のマッチングが成立しない。
2.勤務先の企業が、もちうる経営資源や事業モデルの範囲内で、業務転換の環境、及び転換に伴い必要となる職能開発の機会を提供できる状況にない。よって、社外に転換先を求めてもらうしかない。しかし、解雇規制が厳しいため容易ではなく、進んでいかない。
同記事を参照すると、米国では企業が従業員に業務転換をオファーせず金銭解決によって解雇し、当該職能をある程度有している新たな人材を採用するのを合理的としているため、1.の事象は発生しない。2.についても金銭解決の方法が浸透しているため問題にならない。一方で、日本の場合は(あるいはドイツも)、1.2.ともに問題となりうるというわけです。
同記事の指摘するように、米国型かドイツ・日本型がよいかは、どちらも一長一短があって、どちらが優れているとは一概には言えません。環境に応じて、企業と労働者双方が最もよい選択肢をとれれば理想と言えますが、そうした選択ができる環境にない可能性もあります。
いずれもしても、従業員としては、次の視点でこれからの仕事やキャリアに臨む必要があるのではないかと考えます。
・社会経済環境の変化のスピードは、速くなることはあっても遅くなることはないだろう。だとすると、自身が業態転換、業務転換を求められる機会は、今後増えていくことが想定される。
・業態転換、業務転換が起こっても継続的に有効な職能(「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」)と、新たに必要となる職能がある。それぞれのどこに自分の強みがあり今後どのような職能を開発したいか、自身のキャリアビジョンと合わせて整理しておき開発に取り組むのがよい。そして、業態転換、業務転換に対応していく。
・一概には言えないが、社内外での業態転換、業務転換に応じず旧来の業態・業務に固執し続ける場合は、社会経済環境の変化から取り残され自身の生産性を下げてしまう状況をつくってしまう可能性に注意する必要がある。
続きは、次回考えてみます。
<まとめ>
社員は社内外のどちらをキャリアの環境に選んだとしても、業務転換への適応が必要。