私がベトナム料理屋「フジマルサイゴンプロパガンダ」を始めたワケ(2)
前回お話した「南武線発火装置事件」の4年後の
1975年4月30日。北ベトナム軍のサイゴン陥落によりベトナム戦争は事実上、終結します。
ベトナムは社会主義国家としての新たなスタートを切りますが、内戦が始まり更なる犠牲者を出し続けます。
報道写真が伝えたベトナム戦争
「安全への逃避」というベトナム戦争を撮影した写真でピューリツア賞を受賞した沢田教一というカメラマンを皆さんはご存知でしょうか?
UPI通信社の契約カメラマンとして1965年にベトナム入りした彼は、翌年の1966年ピューリツア賞を初めとするいくつもの賞に輝きますが、1970年にカンボジアプノンペンでポルポト派の銃撃を受け、37歳という若さで命を落とします。
小学生だった私は、沢田教一カメラマンの被写体だった一家はその後どうなったのか?気になって気になって仕方ありませんでした。
もう1人AP通信社のカメラマンとして従軍していたニック・ウットの撮影した「ナパーム弾の少女」という写真に写っていた全裸の少女の恐怖と痛みを想像するだけで夜も眠れないほどでした。
それぞれの写真に写る家族や少女は撮影後、即時カメラマンによって救出され、安全が確保されたと知ることになったのは、ネットが発達した随分後のことです。
サイゴン陥落から15年。軍用空港からベトナム入り
成人してからも私のベトナム戦争への興味は増すばかりで、朝日新聞の報道記者だった開高健、1972年にカンボジアで行方不明になったカメラマンの一ノ瀬泰造、終戦まで取材を続けたカメラマンの石川文洋などベトナム戦争の真実を伝えようと現地入りした彼らの足跡をたどるようになりました。
私が初めてベトナム入りしたのは、サイゴン陥落から15年目の1990年8月。
「ドイモイ」という経済政策によってベトナムが、海外からの旅行者を受け入れた最初の年です。
2019年には200万人近い日本人が観光に訪れるようになったベトナムですが、1990年の外国人渡航者は、政府関係者を入れても2万人弱でした。
当時、ベトナムへ旅行するためには、ベトナム国営公社である「サイゴンツーリズム」のツアーに参加する以外、方法はありませんでした。
私はサイゴンツーリズム初の日本人観光客だったので、事実上、戦後ベトナムの地に降り立った1人目の日本人観光客となりました。
8日間のツアー費用は約50万円。ホテル代と航空券往復費用、食事代以外の費用が含まれました。
当時日本からの直行便はなかったので、バンコクから小型機でベトナム中部に位置するニャチャン軍事用空港へと降り立ちました。
ビビりまくりのイミグレーション
イミグレーションは個室の小部屋で、人民服を着た税関職員と机をはさんで1対1で、30分以上尋問されました。
早口で強い口調のベトナム語で質問を繰り返すので、映画「ディアハンター」のワンシーンを思い出して大いにビビりました。
当時、ベトナムに入国する外国人は自由に観光することは許されなかったので「どこにいくのか?」、「何をしにベトナムへ来たのか?」などを聞かれていたのだと思います。
簡単な単語でも頑なに英語を話そうとしなかったのは、アメリカとの戦争に勝った戦後まもない時期だったからだと思います。
旅の目的は「アメリカ傀儡戦争犯罪展示館」
私の旅の目的はホーチミン市内にある「アメリカ傀儡戦争犯罪展示館」。
館内に展示されている沢田教一や一ノ瀬泰造の写真を見に行くためでした。
展示物の多くは、ベトナム国民は米軍にこれほど酷いことをされたと証言するための写真や遺体のホルマリン漬け、拷問を受けている蝋人形などでした。
後に外国人観光客にショックを与えるとの理由からほとんどの展示物は撤去され、近代的な建物に建て替えて、名称も「ベトナム戦争証跡博物館」に変更したといういわくつきの展示館です。
空港には、国営旅行公社の職員が私の名前が書かれたプラカードを持って迎えに来ていました。
木造2階建の粗末な空港から一歩外に出ると、立ち込めるような熱気とニョクマムの香りが混じり合って、憧れの地にようやくたどり着いたんだと身震いしたのを覚えています。
ベトナム国内ではサイゴンツーリズムの職員の車で一緒に行動することが義務付けられました。
パスポートの他に、写真付きの外国人通行証を持っていないとベトナム国内を移動することができなかった時代です。
ベトナム国内でまず初めに連れて行かれたのは、街の写真館。外国人通行証の証明写真を撮影するためです。
「あーうっとおしい!」
初めて訪れたベトナムはとても窮屈だと感じました。
自由に動きまわりたいのに、それができない。
常に監視されている感じ。
しかし、この窮屈さが後の私の人生に大きく影響するとは、この時はまだ気づかずにいました。
その理由は、また後ほど。
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