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「公共サービス2.0」を実現するために。

 公共サービスとは、行政が住民に対して提供するもの。
 これまでの常識。
 そのために私たちは、高っかい税金を払っているのだ。子供たちが学校に通うのも、いざ病気になったら病院に通うのも、安心して日常を過ごすための警察や消防、救急なども税金で賄われている。道路整備や上下水道、公共施設なども税金が原資となっている。どれくらい効率的に、それらの公共サービスを維持、提供していけるかは、創意工夫のしがいがあるだろうけど、基本的に公共サービスは行政が担うもの。生まれた時からそれが当たり前の社会なので、それ以外のスタイルは想像が難しい。

 ただ、そうした時代はこの瞬間にも私たちから過ぎ去りようとしている。
 いわば行政が公共サービスを提供し、住民や事業者が受益者として公共サービスを受け取るという構図の「公共」の姿は、「公共1.0」と言っていいかもしれない。私も地方議員の経験がありよくわかるが、旧来の行政や議員に陳情してなんとかなるレベルではなくなってきているのだ。
 これまでの行政依存の既成概念(「公共サービス1.0」)ではもう、社会は成立していかない。次世代型の「公共サービス」の概念、すなわち「公共サービス2.0」に進化していくのだ。

 すでに2019年の時点で、経済産業省は次なる公共のあり方を明らかにしている。

 では、官民共創によって生み出される次世代の「公共サービス2.0」とはどうあるべきか。そして、次世代の「公共サービス2.0」が成立するための課題は何か。どのように解決していくべきか。それが本稿の主題である。

 本稿は、9月1日に書いた『わたしが考える、社会課題を解決するための「官民共創」のポイント』という投稿記事の補完的なものである。社会課題を解決するための官民共創。その先にあるのは「公共サービス2.0」の世界観である。どうすれば、公共サービス2.0の担い手を増やすことができるのを考えたい。


1 「公共サービス2.0」とは

 次世代の「公共サービス」のあり方を考えるために、「公共サービス」とは何かをまずは考えたい。

 公共サービス基本法(平成二十一年法律第四十号)という法律がある。
 現在、国が定義する「公共サービス」を知るためには、法律や公文書を見るのが手っ取り早い。

公共サービス基本法(平成二十一年法律第四十号)

(目的)
第一条 この法律は、公共サービスが国民生活の基盤となるものであることにかんがみ、公共サービスに関し、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、公共サービスに関する施策の基本となる事項を定めることにより、公共サービスに関する施策を推進し、もって国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「公共サービス」とは、次に掲げる行為であって、国民が日常生活及び社会生活を円滑に営むために必要な基本的な需要を満たすものをいう。
一 国(独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)を含む。第十一条を除き、以下同じ。)又は地方公共団体(地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)を含む。第十一条を除き、以下同じ。)の事務又は事業であって、特定の者に対して行われる金銭その他の物の給付又は役務の提供
二 前号に掲げるもののほか、国又は地方公共団体が行う規制、監督、助成、広報、公共施設の整備その他の公共の利益の増進に資する行為

 現行の法制度では、「公共サービス」はあくまで、国または地方自治体(や受託者)が行うものとされている。これは先に述べた「公共サービス1.0」の世界観である。

 しかし、これでは立ち行かなくなってきている。
 現実的な問題として、「国民が日常生活及び社会生活を円滑に営むために必要な基本的な需要を満たすもの」さえ、国や自治体は徐々に担えなくなってきている。

 公共サービスのラストワンマイル問題もある。若林恵氏は、『The BCorp Handbook よいビジネスの計測・実践・改善』(2022年)のあとがきで次のように述べている。

サービスが手に届く最後のラストワンマイル(あるいは、それよりもっと範囲の狭い数百メートル、数十メートル)においては、結局受け手側の誰かが自発的に動かなくてはならなかったりもする。困りごとのすべてがソリューションとしてサービス化され、AmazonやUberのように即座に手元に宅配されるわけではない。

『The B Corp Handbook よいビジネスの計測・実践・改善』(2022)

 日常のゴミ出しにしても、交通弱者対策にしても、はたまた行政サービスのオンライン化(「どうやって繋げばいいかわからない人とか問題」)にしても、ラストワンマイル問題は生じる。これら市民や事業者が抱える全てのニーズに対応しようとすると、莫大なコストと労力を要する。
 行政に何から何まで公共サービスを頼ることはもうできないのだ。

◇  ◇ ◇

 少し目線を変えたい。
 最近、「サービスとしての○○」という言葉をよく耳にする。
 いわゆる、「XaaS(ザース)」と呼ばれるアレである。

 例えば「SaaS(サース)」はソフトウェア・アズ・ア・サービスであり、「MaaS(マース)」はモビリティ・アズ・ア・サービスである。それぞれ、「サービスとしてのソフトウェア」や「サービスとしての移動手段」とされる。
 これまでは価値提供者は、「プロダクト」として価値を売り切り、受益者は提供されて終わりだったが、「サービスとしての〇〇」という考え方では、売った前後の使いやすさや、使い続けることによって得られる価値などに拡張した考え方である。

 この文脈での「サービス」は、顧客やステークホルダーと共に作っていくという考え方を取っている。顧客やステークホルダーからの声をPDCAサイクル(またはOODAループかもしれない)に基づいて、品質向上に生かし常に改善していくのである。

 スマートフォンを買って終わりではなく、その後もアップデートが繰り返されるし、ユーザーの声を反映して必要なサービスが付加されることもある。私が持っているスマートウォッチではコロナ禍を受けて、血中酸素飽和度を測定する機能が無償で提供されるなどした。これらはユーザーや社会情勢の変化を受けて、価値提供を継続的に行っている事例である。サービス提供者であるメーカーは、製品を作って終わりではなく、購入者と共創して新しい価値(機能)を開発したりする。そうすることが自社の競争優位性を高めるし、顧客満足度も高める。それが自社ブランドに寄与するし、結果的にはPLにも影響を与えていくだろう。

 サービスの受け手やステークホルダーは単なる受益者の立場にあるのではなく、作り手や提供者に対してフィードバックを行うということから、「サービスの価値」を共創する立場にあるという捉え方ができる。

 サービスは、一方通行ではないのだ。提供者も受益者も共創関係にあり、それぞれが価値創造のための役割、立場からサービス作りに関わっているのである。

 ひるがえって、「公共サービス」はどうだろう。
 「公共サービス」であれ、「営利サービス」であれ、サービス作りは共創関係にあるのだから、国や自治体だけが提供者になるというのも、違うような気がする。公共サービスの担い手は、国や自治体であってもいいだろうし、公平公正にサービスを提供できるのであれば民間であっても市民住民であってもいいはずだ。なぜ、公共サービスを国や自治体だけが担う必然性があるのだろう。既成概念を一度取り払って考える必要がある。

 国や自治体は、公共サービスの唯一の担い手ではなく、公共サービスを提供するための「基盤(プラットフォーム)」となるべきだという考え方が、ここ数年で生まれている。
 私が知る限り、いち早く日本国内で、「プラットフォームとしての行政」を書籍で取り上げたのは、元三重県知事の北川 正恭氏と現SOCIALX代表の伊藤大貴氏の二人が監修した「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年3月発行)と、京都大学の曽我謙悟教授の「日本の地方政府 1700自治体の実態と課題」(2019年4月発刊)であろう。

 その後、若林恵氏の有名な「NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方」が2019年12月に発刊されて、この概念が一気に社会に広がったように認識している。

 また、「行政のプラットフォーム化」に関連して、自治体(地方公共団体)にも「XaaS」の概念を当てはめて、「GaaS(ガース)」(ガバメント・アズ・ア・サービス)と捉える動きが出てきている。
 最もこの概念(GaaS)を提唱したのは、経済産業省でDX施策をリードする吉田泰己氏であろう。2020年1月の投稿記事は大変興味深く印象に残る。

 行政もサービスの提供主体である。住民をはじめとした数多くのステークホルダーからのフィードバックを得て、より良い公共サービスへと、サービスの品質を改善していくことが求められている。

 言いたいことは明快である。公共サービスも「サービス」の一種だということである。

 これからは、行政は単なる「提供者」ではない。
 むしろ行政は「準公共」分野を中心に、民間や市民らと積極的に協働して、その価値を共創していく「プラットフォーム」の立場へと、現在進行形でシフトしていっている。それが「公共サービス2.0」の姿である。

 これは小さい政府論ではない。先に紹介した「21世紀の公共の設計図」には、政府の役割がシフトするビジョンを示している。

【結果として変わること:政府と個人は協働するパートナー】
○こうした中で、政府と個人の関係も変わる。
○ 「公共」をめぐる社会の変化の中で、個人は政府から公共サービスの受け手として、一方的な関係にあった。
○今後は、政府の役割や、「公共」における個人の役割が変化する中で、政府と個人が双方向に創発的な関係にシフトしていく。

経済産業省『21世紀の「公共」の設計図』

 欧州や日本では、公共サービスのあり方が大きな画期を迎えている。世界のトレンドと言ってもいい。そうした潮流を私たち自身が、価値観をシフトしていくことが求められる。


2 「公共サービス2.0」の実現に向けた大きな課題

 「公共サービス1.0」と、「2.0」の違いは、「1.0」は行政が唯一のサービス提供者で、私たちがサービス受益者であり、「2.0」は、行政は必要なサービスを提供するための基盤(プラットフォーム)となり、サービスの提供は行政が直接行うこともあれば、民間や私たちがその役割を担うこともありうるという点にある。

 「2.0」を実現するためには、公共サービスを積極的に担おうとする事業者や人材がお金に困らない仕組みを構築することが重要だと考える。

 たとえば、過疎地などでは地域公共交通網が弱体化して、地域住民などがNPOや任意団体などを設立し、「地域の足」を担うなどの活動がなされている。しかし、「地域の足」を担う人材はボランティアで構成されることが多いが、それにも限界がある。地域や社会のために良いことをしているのに疲弊・困窮するのでは本末転倒ではないだろうか。
 生活困窮者のお世話をする人もまたそんなに裕福な家庭環境でないことも多いように思われる。そうした世のため、人のために活動する事業者や人材が報われるように、経済的支援が集まりやすい仕組みが必要となる。

 「公共サービス」のサービス提供者として名乗りを上げる民間事業者や、行政と一緒に課題解決に取り組む共創事業者にとって、売上利益だけを考えるならば、おそらく長続きしないだろう。資金調達をしようにも投資対象にもならないだろうし、地域金融機関も今後先細りしていく事業者のために貸付を継続していくことは難しいかもしれない。

 普通に考えると、行政ができない難しい社会課題や地域課題を、民間事業者や人材が持続可能にサービス提供していくこと自体も難しいのである。行政も民間も公共サービスを提供しないとなると、サービスは廃止され、住民や事業者は困る。医療機関への足が無くなったり、通勤通学の手段が無くなったり、買い物が近くでできなくなったりすると、より一層、その地域から人はいなくなるかもしれない。

 このような地域課題は、一般的に地方で顕在化していることが多いが、都市部ならではの地域課題もある。例えば、東京の中心部では、世帯収入も高く相対的貧困率も低いとされる。そうした中でも「子ども食堂」が多くの家庭で求められるのは理由がある。
 それは都市部では共働きの両親がほとんどで、近隣に親族も住んでおらずソーシャルキャピタルも薄いことが多いため、子供が夜、「孤食」することが多いことが理由である。有志人材が行政のからの支援もなく、ボランティアで「子ども食堂」を運営している。ボランティアで成立するうちはいいが、運営の中心メンバーがいなくなったり、資金的な問題が生じると、継続はできなくなる。

 このような問題を解決するために、いくつかの施策や試みがなされている。
 行政が主体となって提供する公共サービスの取り組みではあるが、PFI(公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法)や、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)がある。この他にも、PFS(ペイフォーサクセス=成果連動型の委託事業)などもある。
 これらの資金調達の手法や運用方法は大変魅力的である。非常によく考えられた制度であると考える。

 しかし弱点もある。これらの手法は使えるケースが限られることだ。
 PFIはどうしても施設運営などに強みがあるものの、そうでない場合は使いづらい。
 PFSを含む委託事業では、課題及び解決策が明確なものは使いやすいが、そうでないもの(課題や解決策が定まっていないもの)には使いづらい。
 どちらかというと、PFIやPFSで解決できる課題というのは、あまり多くない。公共サービス全体の中から見ても、既存の公共サービスの置き換えであれば、これらの手法で全く問題ないと思うが、そうでない地域課題、行政課題については、活用がしづらい。

 行政は委託事業などの枠内で、なんとか地域課題を解決しようとする。
解決策が分からないもの、課題がそもそも構造化できていない場合などは、「サウンディング制度」を活用して、対処しようとする。それはそれで、否定されるものでもない。

 しかしである。公共サービスを民間と共創して、行政と民間が分担して運営していく。行政はプラットフォーム化していくことができるならば、もっと簡単に、地域課題や社会課題にアプローチしていけるはずだ。

 すでにそうした試みも既に進められている。
 一つは、「(ガバメント)クラウド・ファンディング」。
 もう一つは、「ソーシャル・インパクト・ボンド」などである。
 ここに企業版ふるさと納税が絡むと、大きなインパクトが出るはずだ。すでに政府や先進自治体では研究が進んでいる。

 いずれにしても、「公共サービス2.0」を実現するためには、公共サービスを積極的に担おうとする事業者や人材がお金に困らない仕組みを創造することが、非常に重要だと考える。


3 誰が「公共サービス2.0」を担うのか

 公共サービスを担うのは、行政であっても民間であってもいいと思う。ただし、どのような民間企業であってもいいのかといえば、いくつか検討すべき事柄がある。
 検討課題の大きなものは、民間企業の営利性というよりも、公益性である。現在の株式会社などの形態では、どうしても「株主」が重要なステークホルダーとなってしまう。これは致し方ない。ステークホルダー資本主義が浸透しようとしているが、それでもなお、株主は重要なステークホルダーの位置にあるだろう。
 たとえば公共電波を割り当てられている放送事業者には、外国資本が入らないように一定の規制が存在するのはよく知られている。それは、株主によって、報道等に影響を受けないようにするためでもあるだろう。株式会社であっても社会正義のパーパスを掲げ、現に社会正義のために事業展開している事業者も多いが、一方で、極度に営利に走ったり、株主至上主義の事業者もいるだろう。株式会社は公益性の観点から見ると玉石混交な状態である。
 それならば、非営利活動法人や一般社団法人、財団法人などが、公共サービスを担えばいいのかもしれない。確かに一定の公共性や持続性があるかもしれないが、資金調達能力に限界があるのも事実だろう。
 株式会社のような資金調達能力があり、非営利活動法人などのように公共性がある、そうした法人形態があれば、「公共サービス2.0」の担い手になりうる。
 
 よく知られるように、海外では「ベネフィット・コーポレーション」としてこうした公益性を持ちつつ資金調達能力を有する法人形態が、法制化されて成立している国が出てきている。日本でもこうした議論が現在進んでいる。「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)構想」である。岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の目玉政策として、現在、法制度が議論されている。
 こうした法人形態ができた暁には、国や自治体だけではなく、第三の公共サービスの担い手として期待される存在になる。

日本経済新聞 2022年5月17日記事

 この「PBC構想」とも絡むことになるが、「公共サービス2.0」の担い手となる、「PBC」や既存のNPO、一般社団法人(もしくは株式会社)などは、どのようにして財源を確保するのだろうか。誰が財源を担うことになるだろうか。
 アンカーテナンシー制度など一部の例外はありうるとしても、基本的には国や自治体の財政に依存できないことは所与のこととして考えなければならない。

 サービスは、基本的には受益者が費用を支払うことが原則となるが、「公共サービス」に関しては、それだけでは収益が出ないどころか収支均衡さえままならない場合も出てくるかもしれない。いくら創意工夫したとしても受益者による費用でサービスを賄うことが難しい場合がある。
 
 そうなるとサービスの受け手(受益者)以外の人からも、お金をいただけるようにビジネスモデルを構築するなど(例えば広告ビジネスやクロスセリングなど)、担い手はお金の工面をしていかねばならないのだ。

 先に「(ガバメント)クラウド・ファンディング」や「ソーシャルインパクトボンド」などが研究、実証段階にあると述べたが、そうしたスキームはきっと重要な一つの資金調達手法になるだろう。その事業者のパーパスや、事業内容、もしくはアウトプット・アウトカムに共感をした個人や企業から、寄付がなされたり、投資がなされる。
 この場合、パーパスなどの「想い」や「理念」に共感を得て、資金調達をしようとするのは持続性の観点で困難に付き纏うかもしれない。小口での寄付の場合、毎年もしくは毎月のように寄付をし続けることはできないかもしれないし、寄付を得ようとする事業者にとってもそのコミュニケーションコストや労力は大きなものになると考えらえる。
 また、寄付にしても投資にしても、何らかの指標が必要なんだろう。どれくらい公益性ある事業ができているのか。どのくらいステークホルダーが幸福になっているのか。どのくらいアウトプットが出ているのか、社会インパクトが出せているのか。それらの指標などが明らかになることで、企業などの大口の寄付者や投資家は、社会的活動である「公共サービス2.0」の担い手を支える存在になり得るのではないか。

 ステークホルダー資本主義を唱えるクラウス・シュワブの書籍や、Bcorp認証関連の書籍などでも、そうした社会的活動に対する指標や認定基準が示されているが、今まさに日本でも、社会的活動に対する指標化が求められる時期に来た。


4 「公共サービス2.0」を担う事業者の条件

 どんな企業であれば公共サービスを担う立場になれるのだろうか。
 現在、政府では来年の通常国会での法案提出に向けて、新たな法人形態に関する議論がなされているところである。
 
 下記の資料は、本年4月に内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局が公表した資料の一つである。
 米国の「ベネフィット・コーポレーション」などについて、調査検討が進められているのがわかる。

令和4年4月 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 
令和4年4月 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局

 
 公共サービスを担いうる「ベネフィット・コーポレーション」について、大まかに世界のトレンドを踏まえると、

○会社定款にベネフィット・コーポレーションであることを明記する 
○公益性ある事業目的であるかは、何らかの機関で審査する 
○株主至上主義ではなく、ステークホルダー資本主義であるべき
(たとえば、上場企業の子会社や、実効的に上場企業の影響が大きい場合などは除外される) 
○株主への配当は可能だが、何らかの制限がかけられる。もしくは配当できない。 
○税制優遇などは基本的にない

ということだろう。
 これ以外にボードメンバーや中心メンバーのコンプライアンスの遵守なども当然、挙げられるだろう。「公共サービス2.0」を担うにあたり、必要条件はそれほど高くないのかもしれない。

 しかし、それだけで公共サービスを担うことができるのかは別問題であろう。何度も繰り返すようだが、特定の大株主などに支配されることなく、且つサービスを持続的に安定して提供し続けていくことができる体制が維持される必要があるのだ。
 簡潔に言うと、お金をどのように調達するか、という問題である。

 海外の「ベネフィット・コーポレーション」の状況を見ると、投資家からも一定の期待がされているのがわかる。

令和4年4月 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局
令和4年4月 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局

 海外の事例でわかることは、「インパクト投資型」だけではなく、(いやどちらかというと)利益追求型の投資家が積極的に「ベネフィット・コーポレション」に投資をしている現実である。
 世界最大級の投資会社ブラックロックCEOのフィンクが出したレターはあまりに有名だが、世界の投資家もまた株主至上主義から、ステークホルダー資本主義型への投資に徐々にはあるが投資を分散させているのだろう。一般消費者や国民からしたら、「世のため、人のため」という会社を応援したいだろうし、そうした投資ファンドがあれば、運営利回りが若干低くともそちらを選ぶかもしれない。フィンクは、そうした会社(ベネフィット・コーポレーション)の方が中長期的には安定しているとも述べている。

 このように見ると、「公共サービス2.0」を担う民間企業も投資対象となるならば、持続的に安定したサービスを提供することができるだろう。十分条件を備えることができるのだ。

 それではどのような企業であれば、投資対象になるのだろう。
 考えられるのは以下の要素だと考える。

1.実績に基づくパーパスの説得力
2.事業の公共性、安定性、実績
3.事業が社会に与えるインパクト
4.経営陣の高潔性、倫理観
5.人的資本力

 パーパスは言うまでもなく、大変重要な要素になるだろう。
 だがいくらでも文章では良いことを記載できる。(実態が伴っていなくとも)
 それが本当に信頼できるパーパスなのかは、その事業者がそれまでに行ってきた事業実績が担保する。スタートアップや創業間もない事業者であれば、ボードメンバーのバックボーンがそれを担保するかもしれない。

 事業の公共性や安定性、実績もまた重要な要素になるはずである。
 事業が社会に与えるインパクト(ソーシャルインパクトと呼ばれる)も測定が難しいものの重要だろう。売上や利益ではなく、どれくらい社会に好影響を与えることができるのか。そうした基準が今後、「神の見えざる手」によってか、定まっていくかもしれない。
 
 そうした要素の中で最も重要な要素は、私は経営陣の高潔性や、人的資本力であると考える。パーパスや事業の公共性、ソーシャルインパクトも結局は、人が生み出すものだと考える。そうしたときに、どういったメンバーがその会社を経営しているのか、そしてどういったメンバーやステークホルダーによって支えられているのか、その部分が根幹となると思う。

 これは別に「ベネフィット・コーポレーション」に限った話ではないかもしれない。
 その会社組織の文化を決めるのは創業者やボードメンバーの考え方が大きな比重を占めるだろう。現在、「人的資本経営」という考え方が実践されようとしている。経済産業省が中心となって「人材版伊藤レポート」に基づき、「人的資本」の見える化を進めようとするものだ。これは、「公共サービス2.0」の動きとは別に議論されているものだが、従来の株式会社などにあっても、どのような人がその会社を経営しているのか、どのような人にとって構成されているのかは、投資基準としても重みを増してきている。
 
 「ベネフィット・コーポレーション」においては、特に経営者や構成メンバーの、公共性や社会性が求められることになるはずだ。その人物がこれまでどのような取り組みを行なってきたのか、どのような実績を挙げてきたのか、何をしようとするのかを見える化することで、投資家はインパクト重視型であれ、利益追求型であれ、投資基準として見ていくことになる。

 私は、今後進んでいく公共政策、公共サービスの新たな担い手には、公共マインド、共創マインド、社会課題起点マインドが必要であると考える。公務員出身者や議員出身者、または民間セクターで地域課題・社会課題にじっくりと向き合ってきた方々は、こうした分野での活躍の幅が広がると考える。地方自治体を辞めて、公共サービス2.0の担い手として活動していく人も増えるだろう。これから、社会的、制度的に求められるのは官と民を行き来することが評価される気運だと考える。

 公共サービスをビジネスとして成立させていくには、公共マインドだけでは評価されないだろう。ビジネス感覚も重要となる。
 「官」に近い立場で働く人が民間でビジネス感覚を磨く環境や場の創出が社会的に求められるだろう。逆もまた然り。民間で働く人が公共性が高い仕事を経験する機会の創造が必要である。お互いのセクターを飛び越えられることが重要となる。

 現状では、まだまだ、公務員→民間や、民間→公務員というクロスセクターの事例は少ない。仮に「公共サービス2.0」の時代を担うベネフィットコーポレーションの法制度を実現したとしても、そうした人材を育成していくことが、キーポイントになるだろう。
 公共サービス基本法に掲げられる目的、「もって国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与する」ためには、それを担う官民越境人材の育成が重要となるのだ。

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◇プロフィール

藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/株式会社ソーシャル・エックス 共同創業者

1978年10月生まれ。京都大学公共政策大学院修了(MPP)
2003年に人材ビジネス会社を創業。2011年にルールメイキングの必要性を感じて政治家へ転身(2019年まで)。2020年に第二創業。官民協働による価値創造に取り組む。現在、経済産業省事業のプロジェクト統括も兼務。
議会マニフェスト大賞グランプリ、グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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