見出し画像

【書評】『次世代ガバメント-小さくて大きい政府のつくり方-』(若林恵・責任編集、2020)を読んで。

▮ 大まかな内容

著者の若林恵氏は、「WIRED」の元編集者。新しい公共について様々な社会発信をされています。本書は社会が大きく変わってきている中で、ユーザー重視の小さくて大きい政府を作れないか、そのためにどのような課題があり、どのように乗り越えるべきかを論じたものです。

全体を通じて対話形式で話が展開し、著者も行っているように体系化された内容ではありません。しかし多くの示唆を含んだ中身になっています。また巻末の方にはデンマークデザインセンターのクリスチャン・ベイソン氏へのインタビューも収録されています。

▮ 気になったところ

●これからの行政府や公共サービスのあり方は、「大きい政府」のそれでもなく、「小さい政府」のそれでもない、「サービスは極大」だけれど、それを運営する「行政府は極小」ということを目指さなくてはならないというのがこれまでの道筋から考えていくと論理的な帰結になるんじゃないかと思うんです。ここでいう「サービスは極大」っていうのは、「困っている人」を排除しないということで、いま流行りのことばでいうと「インクルージョン」(包摂)です。(p48)

●本来的にはインターネットによってひとつながりのサービスになるはずのものが途中で、切れてしまっているのが現状なんです。行政府と民間がデジタル空間内で分離してしまっているんです。これをきちんとつなげるためのインフラが必要なんですが、これは民間企業ではなく、やはり行政府がつくるべきものだと思います。(p56)

●たとえば「BaaS」は、銀行の預金口座をAPI化し、それを一種のインフラとして扱うことで、そのプラットフォームの上でさまざまなサービス=アプリケーションを開発することができるようになるというものですが、同じように行政府も「ガバメント・アズ・ア・サービス(GaaS)」という観点から新しい公共財をどんどんつくっていくことができるようにも思います。(p75-77)

●ITビジネスの世界では「ユーザーエンゲージメントを高める」という言い方をしますけれど、そこではとにかくアプリを開いてもらう頻度をいか上げていくかが大事になります。ですから、サービスデザイン、操作性のデザイン(UI)や、使い勝手のデザイン(UX)をいかに磨き上げるかかが勝負になるんですね。その考え方を、行政府はもっと貪欲に導入すべきだと思います。
いまの役所のシステムや行政のシステムは、まったくユーザーフレンドリーじゃないですね。いまだに配給制というか。役所の都合に合わせてこちらが列に並んで、サービスを受けられるまで並んでいないといけない。・・・分散的かつ個別的に、その人に応じたサービスをつくることができるのが、デジタルテクノロジーの最大の強みです。それは配給制とは真逆の考え方ですよね。(p114-115)

●これからの公務員というのは・・・市民の生活のなかで何が起きていて何が課題になっているのか、そのインサイトを取り出していくことが重要な仕事になっていきます。(p147-149)

●これからの行政府は、よりネットワーク化されたものにならなくてはなりません。そして市民のニーズに対してはるかにリスポンシブでなくてはなりません。また、効率や競争力を重視するのではなく、実際の効果、つまり公共サービスを通じて何がもたらされ、市民ひとりひとりの人生や社会がどう変わったのかを指標としてサービスが評価されなくてはなりません。簡単に言ってしまえば、行政府は「共感」を軸として機能しなくてはならないということだろうと思います。(クリスチャン・ベイソン)(p158)

▮ 読後感

「次世代ガバメント」の姿は、行政がさまざまなアクターとデジタル(またはリアル)でつながるネットワーク的なもので、民間企業がアプリケーションとしてさまざまな機能を受益者に提供していく姿になるものだと認識しています。

小さくて大きな政府の実現は、時代が求める社会システムであると考えており、こうした仕組みを駆動させていく必要があると思います。

そうした次世代ガバメントにおいて行政が行う機能は、社会課題を発見し設定すること。そして社会福祉上必要な施策に取り組むことなどが挙げられます。民間部門では、ラストワンマイルを届けるサービスを行政と一緒に開発し提供していくこと。官民連携、官民共創で、より住みやすい社会を作っていかねばなりません。

コロナの影響で、デジタル化は想像以上に早く進んでいます。デジタル化の目的はユーザーである有権者であり市民やまだ生まれてきていない世代の社会環境を良くすることにあるはずです。そこを忘れずに、官民共創に取り組まねばと思っています。

ーーーーー
◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長/SOCIALX.inc ボードメンバー
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや官公庁の就労支援事業の受託等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?