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【社会課題解決先進国スウェーデン、デンマーク視察訪問レポート】 第5部 社会変革のための政策 ※おまけ記事

本稿は、第4部までの視察報告とは一線を画し、北欧視察を自分なりに現時点で総括したおまけ記事である。単なる感想なので読み流してもらえたらありがたい! 


1 「社会課題解決」から「社会変革」へ!?

BLOX HUBから見るコペンハーゲンの街並み

WINNOVAや、BLOXHUB、DDC、CIFSなどで頻繁に聞かれた言葉が、「社会課題解決」ではなく「社会変革」であった。課題解決はもちろん大事だが、課題を違う課題に紐付けたり、何が真の課題なのかを考えるなど、立体的に捉えていく必要があるのだと私は理解した。そのためには「社会変革のためのイノベーション」が求められるのだと。

私なりに単純化して考えると、社会課題解決にはデザイン思考が有効であり、社会変革のためにはミッションオリエンテッドなシステム思考が重要である。第3部で少しだけ触れたが、ソーシャルインパクトに対する捉え方も注意が必要だと考えるに至った。

「THREE HORIZONS」BillSharpe著。スリーホライズンモデルは日本でまだ殆ど知られていない。

DDCの原田さんは、目の前の社会課題解決ではなくて、将来どのような社会を目指すのか、それを踏まえたイノベーションの重要性を、「スリーホライズン・モデル」を用いて説明していただいた。この「スリーホライズン・モデル」については、またあらためての機会で取り上げたいと思うが、これまた単純化して解説すると、”現在取り組んでいる事業、社会課題”が1つ目のホライズン、”将来目指したい社会やそれを実現するための事業”が3つ目のホライズン、そして2つ目のホライズンは”1つ目から3つ目につなぐための破壊的かつ創造的なイノベーション事業”である。既存の事業や3つ目のホライズンに対するソーシャルインパクト(及びロジックモデル)を考えるあまり、社会環境の変化に対応できなかったりする。そうではなくて、3つのホライズンを連続したものとして捉え直し、それに対するソーシャルインパクト(及びロジックモデル)を考えていくことが重要なのだと。

※”ソーシャルインパクト”や”ロジックモデル”の解説ついては 本稿では割愛するが、興味がある方はSIIFの解説サイトをご覧いただきたい。

デモクラシー ・ガレージにて。英語を勉強せねば!

社会課題解決や社会変革を目指した官民共創、”ステークホルダー全方位型のオープンイノベーション”が熱を帯びつつあるが、共創する相手とはどのようなインパクトを設定していくべきかということもこれからは議論していく必要があるのではないだろうか。自社製品・サービスを市場に普及浸透していくことは会社員にとって大切な仕事だと思うが、それはどのような社会に向けてのものだろうかと問い直す。場合によってはマーケットインの際にもう一度、サービスデザインを問い直していくことも必要だろう。”ミッションオリエンテッド”であるべきだ。

官民共創の分野については特に当てはまることかもしれない。自治体は横並び主義だから一つの自治体で成功したビジネスモデルは横展開しやすいと考えられているが、実際にはユーザー(市民や事業者等)の特性や習慣も違う場合もある。だから少なくとも、一から”ダブル・ダイヤモンド”を回す必要はないかもしれないが、ArkDesが取り組むように自治体・まち毎に、ユーザーを巻き込んで、実際の生活環境の中でサービスのカスタマイズを進めていく姿勢も大切になってくる。

また、官と民は、日本においては同じ社会課題を見ていても、それぞれに見えている世界観や課題認識が違うことだって実際に起きている。予め相手がどのようなインパクトを目指しているかをしっかりと把握していくことが重要なのである。官民共創においては、官が設定するインパクトやKPIと、民が設定するインパクトやKPIを必ずしも合致させる必要はないと私は考える。相手がどのように考えて、どのような動機でプロジェクトに取り組んでいるのかをよく理解しておくことが求められる。

自治体にとっては社会課題解決のためのオープンイノベーションに着手する際に、民間企業にとっては新規事業開発に着手する段階から、基本的なマインドセットとして持っておくことが、結果的に社会課題解決や社会変革、または持続可能な製品やサービスの開発・普及につながるのではないだろうか。

ストックホルムのクリスマスマーケット近くにあるスカンジナビア料理レストランにて。
第1部で紹介したオッテリアホテルにて。

また、私が経営に参画するソーシャル・エックスでは、世の中に数多ある社会課題を立体的に学ぶことができるサービスを、課題の現場である自治体と連携して現在開発中である。手前味噌な話になるが、こうしたサービスを利用して社会課題を深掘りして考えていくことも民間企業には一つの選択肢として今後お勧めしていきたい。課題を単に見るだけでは何の価値もない(自治体への自社サービスの売り込みには使えるかもしれないが、自治体を売り込み先と考えている時点で、その企業に未来はない)が、その課題を”ミッションオリエンテッド”な視点からシステム思考で分析することで、何に取り組むべきか、どのような解決策(事業)が考えられるかが見えてくるはずである。

自社メンバーだけではなく、できれば自治体やその先にいるユーザー(市民や事業者)も一緒に考えることができると面白い。さらに言えば、ステークホルダーとのコーディネートや専門的なシステム思考、デザイン思考などの知識と現場の経験を有した“オーガナイザー”がいると、尚更良いと思う。この”オーガーナイザー”の役割はソーシャル・エックスが担えるし、他にも担える事業者がいると思う。

社会課題解決に取り組むことはもちろん大切だが、そのプロジェクトが果たして社会変革につながるのかも同時に考えたい。社会課題解決はデザイン思考やMBA的な思考で、社会変革はシステム思考を用いて。その両方を両立できることが理想的な姿なんだろうと思う。


2 小さいことはマイナスではない

ストックホルム市公共図書館にて。北欧にはフィーカやヒュッゲというおやつタイムがある。

ArkDesの「StreetMoves」や、BLOXHUBの「アーバンパートナーシップ」では、都市部を対象にステークホルダーを巻き込んだ課題解決が取り組まれている。リチャード・フロリダによる「”クリエイティブ・クラス”の人材が都市部の魅力に惹かれて移動する」というよく知られる考え方があるように、世界的に見て人口が「地方から都市部」へシフトしていてきているからであり、ArkDesもBLOXHUBも都市の課題に着目をしている。

都市部では人口も多く市場も成立しやすい。だからお金も集まりやすい。そもそも都市部の自治体は、地方の自治体に比べて相対的に財政に困っていることが少ない。実際、私たちソーシャル・エックスが運営する官民共創プラットフォームサービス「逆プロポ」でも、民間企業の公募に手を挙げて頂くのは関西圏や東海圏の自治体比率が多く、逆に首都圏はほとんどない。(中国や四国地方のエントリーが少ないのは気になるが、単に「逆プロポ」の情報が行き渡っていないだけかもしれない) 日本においてもメガトレンドとして、東京一極集中が進んでいて、様々な地方創生施策やコロナ禍の影響でも変わらず今後もそのトレンドは変わらず地方の人口減少は進んでいくと考えられている。

ストックホルムから、コペンハーゲンへの鉄道車内。到着が遅れて7時間を要した。

藻谷浩介さんの「デフレの正体」(2010年)や、増田寛也さんの「増田レポート」(2013年)の頃からだろうか。日本で人口減少に伴う地方の危機が叫ばれ始めたのは。

木下斉さんの「稼ぐまちが地方を変える』が出版されたのも2015年。いやもっと前から地方活性化は政策に位置付けられていた。古くは田中政権の日本列島改造計画、大平内閣の田園都市国家構想、竹下政権によるふるさと創生事業や、小泉政権による三位一体改革による財源移動(?)などが挙げられるが、いずれも行政がその対策の中心プレイヤーだった。日本が人口減少に転じたのは2008年で、その前後から徐々に地方において危機感が強まってきたように思う。人口減少、少子高齢化というメガトレンドは変えられず、それに伴う課題解決のリソースを行政だけで準備するのは難しくなくなってきた。

このように見ると、地方に可能性があるとは思えないが、私は敢えて地方に着目する。その理由は意思決定が早いということ。リソースが不足していること。そのためにこれまでは解決できていた問題が解決できずに顕在化してきたこと。それに伴う危機感を行政や市民、事業者が共有していることが多い。これはミッションを共有する上ではとてもプラスに働く。また危機感が強いほどスピード感もある。また、一般的に小さい街ほど、首長(市町村長など)の域内に対する影響力が強いように感じられる。

また地方の方が、官と民の間のハードルは地方の方が低いと感じている。(これは関西だけかもしれないが・・・。) 第2部でも書いたとおり、訪問したスウェーデンやデンマークでは官と民との間のハードルがほぼないような印象だった。向いている方向が違うだけで、あとは主体が官か民間かというだけである。そこにもちろん優劣はないし、関係はフラットである。これに対して日本はデモクラシーは与えられたものという意識がどうしても強い気がする。まぁ仕方がない。ただ関西地方は比較的、自治意識が強いと言われている。国や藩とかの前に自分たちの街がある。自分たちの街は自分たちで作りマネジメントしてきたのだ。そうした風土が残る”地方”では、私はリビングラボがやりやすいと思うし、リビングラボに限らず、官民共創、ステークホルダー全方位型のオープンイノベーションにも取り組みやすい環境が整っていると思う。

これまで維持できてきた道路管理や、医療福祉、公共交通などの諸問題が、主に財源不足を理由として地方の自治体で顕在化している。これら地方の自治体で顕在化している諸問題は、社会課題の最前線だ。新しいテクノロジーやアイデア、ノウハウによって、それらの課題を解決していくことができるし、それはビジネスで成り立つかもしれない。ビジネスが成り立つのであれば、それは同じような町にも展開可能だろうし、そのマーケットは日本だけに限らない。

コペンハーゲンへ向かう鉄道から撮影した風景

北欧に行ってよく分かったが、彼の国が産業振興において重視しているのはグローバルマーケットである。スウェーデンからIKEAやVOLVO、アストラゼネカ(製薬大手)といった世界的な企業が、またデンマークからはノボノルディスク(製薬大手)やカールスバーグ、ヴェスタス(風力発電機最大手)、オーステッド(再生可能エネルギー大手)、レゴなどが生まれ、現在も成長を遂げている。VINNOVAは、EU基金なども活用して社会変革のためのイノベーションに取り組む事業者を選定し集中的な支援を行っていた。国内市場が小さいからこそ世界に目を向けた産業振興を行ってきた。マーケットサイズが小さいことは本当は社会変革イノベーションを進める上では、マイナス材料ではないのだ。

日本もこれからは同じように、世界市場を見据えた課題解決事業を起こしていくべきだと考える。(既にやっているけれども) 日本の”地方”で持続可能な製品、サービスを高速に開発しそれを国内、そして世界市場に展開することも視野に入れるべきだ。社会変革の萌芽は、マーケットサイズは小さいが、リビングラボなどの参加型デザインを進めやすい地方にこそあるんじゃないだろうか。「逆プロポ」にしろ、ソーシャル・エックスが扱うイノベーションのためのプラットフォームもどんどん改善を加えてアップデートしていくべきと省みている。

北欧の視察で得た多くの気づきや発見やインサイト(洞察)があったわけだが、こうしたことを更に消化して、言語化するとともに、それを社会のために還元していければと思う。もし日本において”ブロックス・ハブ”のような「ミッションオリエンテッドなデザインセンター」を備えたインキュベーション拠点ができるのであれば! もしその拠点が民間企業や自治体が集まり、社会変革のイノベーションセンターになるのであれば! そしてそこで進められるプロジェクトが実際の生活環境の中で行われて、持続可能な製品やサービスが市民や利用者を巻き込んだリビングラボで開発されていく姿を地方で見てみたい。

北欧のお土産。トナカイのボトルキャップは危うく税関で没収されそうになった。



3 北極圏を超えて

スウェーデンの広大な土地が眼下に広がる

本シリーズは全5回に分けて4万文字近く書いてきた。北欧視察の移動時間も大変長かったが、ここまで読んで付き合って頂いた皆さんにも感謝!

北欧へは行きは大阪国際空港から東京羽田空港へ移動し、そこから北極圏経由でアイスランドや英国、スカンジナビア半島をかすめて、トランジット先のドイツのフランクフルト入り。北極圏は夏では一日中太陽が昇っているそうだ。私が行った時期は真冬。真っ暗の中で飛行機は進んだ。そこからスウェーデンのストックホルムへ地平線から太陽が顔を出してくるのを見ながら空を飛んだ。飛行時間だけで17時間を超えている。ウクライナで戦争が起きているため、ロシアやウクライナ上空を飛べなかったことが関係している。本当はもっとスムーズに北欧へ行くことができるのだ。

スウェーデン、デンマークとも現地の人たちは皆さん、日本人に対してとても温かい。「ARIGATO!」は北欧で通用することが分かった。今回の視察では、現地で貴重なお時間をとって頂いた皆様に深く感謝すると共に、視察の前後にお世話になったデンマーク大使館の飯田さんを始めとした職員の方々、現地視察先のコーディネート支援をして頂いた高見さんや速見さん、澤田さんにも感謝したい。また、1週間だが仕事をカバーしてくれたソーシャル・エックスのメンバーにも感謝したい。皆さん、ありがとうございました。

ストックホルムにて。

滞在中、バルト海を挟んでロシアがすぐそこにある距離(東京から札幌や那覇くらいの距離)にいたが、戦争が近くで起きているとは感じられなかった。北欧やEU諸国にとって戦争を特に意識することがなくなってきているのだろうか。日本においてもウクライナ戦争のことはあまり報じられなくなってきているが、ヨーロッパの現地ニュースでもあまり取り上げられていなかったのは一つの驚きだった。

できるならば日頃の自分の仕事やビジネスが、世界の様々な問題の解決にもつながるように努めたい。ユーザーや市民、民間企業、自治体などの幸福につながることはもちろん、今取り組むその事業、ビジネスがもし世界の市場や世界の人とつながっているのであれば、そうした人の幸福にもつながる事業が生み出せるとしたら素晴らしい。そのために、2つ目のホライズンとなる事業を今年、動かしていきたい。

コペンハーゲン国際空港にて、ようやくカールスバーグ!
この一杯もカールスバーグ財団の基金を通じて、北欧のイノベーションなどに還元されていく。

現在、デンマーク&スウェーデンの視察報告会と兼ねて、現場や研究の第一線で活躍されるイノベーター、研究者が集まるソーシャルイノベーションのコミュニティ発足準備会を予定しています。名称は仮で「D.Garage in JAPAN」!招待制のコミュニティにしたい。 北欧の”HYGGE” (ヒュッゲ)や、"Fika"(フィーカ)のようにお茶とお菓子を楽しみながら、身近な社会課題について会話、情報交換ができればと考えています。ご関係者の方々のお力をお借りすることになると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

遅くなりましたが、どうぞ本年もよろしくお願いいたします。
皆様にとっても幸多き一年となりますように。


◇筆者プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の45歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。
京都大学公共政策大学院修了。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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