地縛霊を供養した話

横田卓馬という漫画家をご存知だろうか。一部の漫画ファンからの支持を集める漫画家だが、かつては少年ジャンプで仕事をしていたことがある。
その仕事の中に、『こがねいろ』(2012年27号から29号で短期集中連載)という作品がある。
僕はこの漫画に人生を狂わされ、そして今日、その結果生まれてしまった亡霊を供養した、という話。

『こがねいろ』は、ジャンルとしては青春ものだ。進路に悩む本好きの主人公が、同級生の女の子とのふれあいを通して自分の進路を決定する、という筋である。
どんな話かは『シューダン!』4巻に収録されているので各自電子で読んでいただきたい。

主人公のきなたは、最初はやりたいことが見つからなくて、結果として志望校も決められない高校二年生だ。しかし将来の夢を見すえて志望校を決める、同級生の金原さんに導かれるようにして進路を決める。自分は本が好きなのだから、編集者になろうと決めるのである。
僕もこれを読んだ時にちょうど高校二年生で、ああ、これは僕のことだ、と思った。
ぼんやりと編集者になりたい、とは思っていたけれど、これを読んだ時に、その思いが明確な目標となった。
しかしまず受験戦争を勝ち上がることができず、結果としては一浪して専修大学に進学した。就活も散々で、漫画を作っている出版社全てを受けたが全滅した。第一志望の集英社は最終面接まで進んだが、一歩及ばずであった(選考結果とは関係ないと思うが、唯一出身大学を聞かなかった集英社がもっとも選考が進んだ)。
最近やっと編集者の夢を諦めることができたのだが、夢を持ってから十年、夢やぶれて五年が経っていた。随分長い時間がかかった。ひとつのことに五年も囚われていたのだ。長い年月である。

ちなみにもうひとつ狂わされたものがある。性癖である。
主人公のきなたを導く存在、金原さんの存在だ。
彼女を見た時に、僕もいつかこんなふうに女の人に導いてもらいたい、という思いが芽生えた(ちなみに今もどすけべお姉さんみたいなのは大好物である)。どこかに僕の女神がいるのではないか。そう思い続けていたら童貞のまま十年経っていた。
しかし女神はなにもしていない人間を導くことはない。僕は僕なりに努力していたつもりだったけれど、どの女神も僕を導くことはなかった。要は十年間フラれにフラれたのである。
人は導かれるのではなく自分で道を選ばなくてはならないのだ、ということに気づくのにも十年かかった。これも長い年月だ。周りの友達は自らの力で道を切り拓く力を既につけている。しかし僕はまだスタートラインの上にいる。

もうすぐ実家に帰るので、これを機に溜め込んでいた蔵書を整理している。いつか編集者になれた時に必要になるかもしれないという思いで捨てずにとっておいたたくさんの本をほとんど処分することにした。
これらの本は今までの僕の全てである。これらを捨てることは辛いけれど、でも僕はこれから新しい道を進まなくてはならない。それにはこの本たちは重すぎる。だから供養する。
この文章を今までの僕と、あの時感動を与えてくれた『こがねいろ』に。


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