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雲の中のマンゴー|#16 社長の道楽

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第16話 「第3章~その4~」

「燃料代がこんなに!マヂかよ、これ1月分だよな?2月は最初から暖房フル回転だからもっと行くかぁ。。あぁ恐ろしい。。」

独り言もつい声に出てしまう。

「社長、1棟目のハウスの花吊り終わりましたよ。」

「斉藤さんありがとう!一人でやらせてごめんね、僕もすぐに行くよ。」

1月終わりに花が咲き始め、2月中旬から今は花吊り作業に追われている。開花はバラつきがある。想定の半分ぐらいしか花が咲いていない。これから咲いてくるのかもしれないが、前オーナーからは開花に備える準備やタイミングなど、栽培管理が十分でなかったのかもしれないと言われた。そこに日照不足が追い打ちをかけた。栽培記録や気象データの蓄積は行っている、日々の写真撮影もキチンとやっている。ただ、それらのデータをどう見て、どう活用して良いのかまでは分からない。

燃料代の強烈な数字が重くのしかかる。4月からは黒岩の労務費も加算される。つまり、このまま開花が半分だとすると順調にいったとしても収穫が半分である。当初の皮算用ではトントンの業績となる見通しも、この時点で暗雲立ち込めるのが明確になってしまったのだ。

それでも日々の作業は待ったなしであり、花吊り作業が間に合わない状況にきている。黒岩と二人だけでやろうと考えていたが、脚立の昇り降りを繰り返す作業と、脚立の上で腰をねじらせる作業を繰り返していたためか、黒岩が腰を痛めてしまった。

斉藤明子が合流してこなかったらどうなっていただろうか。しかし、年度末が近づいた親会社サワムラの仕事も多忙を極めている。まずいな、受粉作業まで間もない。何とかしなくては。。


その日の夕方、登は親会社のサワムラに戻ると、営業部長と品質管理部のマネージャーを応接室に呼んだ。

「忙しいところをすまないね。二人にちょっと相談があって。」

「どうしたんですか?鈴森自動車への納品についてのことでしょうか。」

「あっいや、そうではなくて。マンゴーのことなんだ。」

「はぁ、そういえばマンゴーやってましたね」

と無関心な言葉が返ってくる。

「マンゴーは今、花が咲いていてね。3月になると実を大きくするための受粉をミツバチにやってもらうんだ。今、とても重要な時期を迎えている。」

「そうなんですね、それで?」

営業部長はそっけない。

「受粉の前に花吊り作業をするのだけど、実は間に合っていないんだ。今週末と来週末に、社員たちにちょっと手伝ってもらいたいんだよ。一人か二人でいいんだ。お願いできないかな?」

「...... あのですね。どうして社長の道楽に付き合わなければならないんですか?サワムラの仕事を蔑ろにしろということですか。それでなくても鈴森自動車のセンサー製造に遅れが出ていると言うのに。。品質管理のメンバーには土日返上で検査対応してもらっているんですよ、その状況お分かりですよね?」

と、登よりも一回り近く年齢が上のベテラン社員、品質管理部のマネージャーの松田にキツク言われてしまった。

「社長、この際だから言っておきますけど、社員の多くは社長のやっていることを疑問視しているんですよ。」

やはりな。うすうす気が付いてはいた。
秋からバタバタと来てしまったこともあるが、当面はサワムラとオリジンのことは切り離して考えたほうが良いと黒岩とも話したこともあり、年始の挨拶で少し触れた程度。マンゴー栽培の取組、真の目的をきちんと話せていなかったことを登は後悔した。


#17に続く。


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