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雲の中のマンゴー |#28 エピローグ

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第28話 「シーズン1 エピローグ」

2021年3月、成木5年目のマンゴーハウス内での作業。

ここ数年の3月は初夏を思わせる日が多くなっている。ハウス内の温度調節もシビアに行わないといけない。まあその点は、玄さんが心得ているから安心だ。今日は、母、絹枝の体調も良く玄さんの手つだいに精を出す。

「おはようございます。社長、今日は早いですね。」

「おお斉藤さん、おはよう。今日はお袋の調子が良いので、早くから一緒に来たんだよ。」

「そうでしたか。あの、農場長が処理してくれた床のモールですが、すっきりしていいですね。カートも動かしやすくなって凄く作業がはかどります。絹枝さんの躓き防止と聞きましたが、コレってみんなに優しいですね。」

そうか、そうなのか。お袋のことを考えて玄さんにお願いしていたことが、誰にでも優しい環境づくりに繋がっていたとは驚きだ。作業効率も上がったようだし、これが、秋山直子先生が言っていたユニバーサル農業なんだなぁ。高齢者や体の不自由な方にも働きやすい作業現場の実現は、親会社の自動車部品工場にも生かせるかもしれない。

「斉藤さん、ありがとう!」

「へっ?あぁ、そんな~」...笑

3時の休憩で事務所に戻り、黒岩に声をかける。

「玄さん、クラウドに今日のマンゴーあげておいてね。」

「はいです~」

それを聞いた母、絹枝が反応。

「のぼさん、クラウドにマンゴーをあげるってなんのことさ?」

登は、絹枝の質問を聞いて少し笑みを浮かべた。

「ふふん、あのね、お袋。マンゴーハウスにカメラとか、いろいろな温度計みたいなものを置いてあるのを見たことあるよな?写真とか気温などのデータ情報を、インターネットを使って目に見えない空間にある倉庫みたいな場所に入れることなんだよ。その情報は、管理権限がある人ならパソコンやスマホでどこからでも見ることができるんだよ。ほとんどはコンピューターとネットワーク回線が自動でハウスのデータをアップロードしているけど、一部の情報はスタッフが選別して手動で送っているんだ。そうだな、直訳すると、雲の中にマンゴーがいるような感じかな。」

「なんなんだい?その例えは。難しくて余計に分からないねぇ、ふふんっ。」

「雲の中のマンゴー... か。」 

黒岩はデータ更新作業の手を止めて、しみじみと呟やいた。

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去る「2015年8月」

「玄よ、今夜いいか?話がある。」

中国協力工場の労務問題がやっとひと段落ついてきたころだった。中国への出張中、工場事務棟で残務をしているところに、ひょいと顔を出して声をかけてきた沢村一。その夜、程さんに運転してもらい厚街鎮まで繰り出し、おなじみの中華料理店を訪れた。

「ほかでもない、サワムラの未来のことだ。今回のような労務問題はどの国でも起こりえることだろう。そう思わないか。まあ、登が成長できたことは良かったが、さすがに俺も骨が折れた。」

確かに会長の言う通りどこでも起こりえることで、金銭的にも精神的にもかなり追いつめられた。もうこりごりではある。

「そこで、玄に相談がある。」

一にじっと見つめられる玄。

「農業だ。お前に農業を新事業としてやれないか調査研究をしてほしい。これは登には内緒だ。」

と持ち掛けられ今に至る。

色々と考えることはあったが、断ることなどできるはずもなく、すぐに調査を開始した。その過程で、今のマンゴー農場のオーナーと巡り合い、登くんも参画し今がある。

中国の労務問題の決着に明かりが見え始めたころ、50代の中盤となり、残りの人生のことを考え始めていた。定年後は、工業畑の仕事人生に区切りをつけて、自分なりに家族と趣味のアウトドアに向き合い、マイペースでセカンドライフを生きていこうとも思っていた。

しかし、まったくあの親子にはかなわない。6年前の夏、会長に熱い想いをぶつけられ、その会長の想いを知らずに偶然にも農業に導かれ、それにかける登くんの異常なまでの情熱にも乗せられてしまった。

最初は ”雲をも掴む” ようなことだと思っていたのに、スマート農業を基盤にしたユニバーサル農業は、日常の中にもそれを体現できるヒントが隠れていることも分かってきた。それは、これからの高齢化社会の新しい生き方提案として、また、子供たちが憧れることができる農業としても明るい未来が見えるようだ。

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「黒岩くん。何、ぼうっとしているの。そろそろ休憩お終いよ。」

「あっ!ハイハイ、絹枝さん。社長、マンゴーデータのアップ完了です。」

「サンキュー!玄さん。」

黒岩は今、雲の中にあるものを掴める感覚を持ち始めている。そして、心のなかで呟いた。

--- 会長、これで宜しかったでしょうか。---

「さて、もうひとふんばり、やりますか!」

【シーズン1の最後に】

実話を軸にしたフィクション小説、雲の中の檬果「マンゴー」シーズン1、最後までお読み下さりありがとうございました。

右も左も分からず、マンゴー農家として農業へ挑み始めた2019年。まさに雲の中を彷徨うよう暗中模索を繰り返し、惨敗を期した初収穫の2021年夏。さらにあれから1年が経とうとしている2022年の春、現在。今年の収穫量は13,000玉ほどを予定できるようになりました。少しづつではありますが、地域の皆さまにも認知をいただけるようになり、取引先も増え、薄っすらと光が見え始めています。

たかが農業されど農業。簡単ではないコトは頭では理解していたものの、その厳しさと迷走は予想外でした。やりたいとやる、この大きな違いを体感し今があります。しかし、まだまだ私は霧の中を進行中、やれる事はゴマンとあり、やりたいことも山積しています。恐らくまた、新しい雲が現れるのでしょう。

ただ1つ、雲の中を歩くコト、その歩き方を知ることができました。これにてシーズン1は終了となりますが、また皆さまに「良い報告」ができるシーズン2でお会いできるよう、私たち「ふじえだ完熟マンゴー」は、この先も未来に向けて歩き続けてまいります。皆さまの食卓に美味しいマンゴーが届けられるように。

歩こうよ、見えるから。
ふじえだ完熟マンゴー物語、雲の中のマンゴー。

ありがとうございました。
またいつの日か。

https://fujiedamango.fensi.plus/a/blink/

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