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エッセイ⑩「旅する酔いどれ」

定期的に、青森県八戸市の叔母のところへ遊びに行く。
ただいま、7月の頭の週末にも八戸へ向かう新幹線の中である。

福島県郡山市からだと、まず東北新幹線に乗って仙台へ。
そこで乗り換えをして八戸駅へ。

こんなに頻繁、というほどでもないが時々一人で新幹線に乗るようになったのは、やっぱり母が亡くなってから。
「一人で行く」という機会はこれまではなかなかなかったのだ。

一人で新幹線に乗って覚えてしまった新しい遊びがある。
ズバリ新幹線の席でベロベロになることである。

父が新幹線でビールを飲むことをいつも楽しみにしているなあ、と思っていた。
だけど大人になってからも、何がそんなにいいのか理解することができないでいた。

「父を理解できてしまう」ということに小さくない反発を覚えながらも、緑茶ハイを飲みながら、飛んでいく窓の景色を眺めながら、したたかに酔いながら。
楽しんでしまっている。

新幹線みたいに少し長めの、ゆったりした移動ってないかもしれない。
車ではないから運転しなくていい。
電車ではないからある程度の品質の席が確保されていて落ち着ける。
もちろん景色もいい。
これが飛行機だと乗ることがなくてまだ未経験。でもすごく気持ちよさそうだ。
旅の浮かれた気持ちが酔いどれをより高く高く、雲の上まで持ち上げていく。


今回も郡山駅に着くなり、美味しい緑茶ハイを買った。
梅雨の蒸し暑い時期である。
ひんやりした手に伝わる温度がもう心地よい。
 
しかし、早く買い過ぎた。
八戸へのお土産を買おうとも思っていて、郡山駅には1時間以上早く到着していたのだ。
買い物も終わってしまって、蒸し蒸しする駅のホームで新幹線の到着を待った。
 
暑い、呑みたい。
お酒がわたしと一緒になって汗をかいてきてしまった。
今ここで前倒しで呑んでしまって、新しい1本を買い足そうか?
だけど仙台駅の乗り換えまでの15分でお酒は買い足す予定だし、仙台からの方が道のりは長い。
我慢して我慢して、新幹線が来た。
 
 
仙台までは自由席。
隣に人のいない席を見つけて座るなり、カシュッと缶を開いた。
 
ちょっとぬるいけれど、うん。この駅構内でしか見かけない緑茶ハイは美味しいのだ。
いい感じに酔いながら、旅の高揚を味わう。
 
仙台駅では15分の乗り換えでお酒を2本追加し、トイレにも寄った。
ここでも同じ緑茶ハイを見つけて、念願の冷えた状態で味わう。
 
 
仙台から八戸への道のりは文字通りベロベロだ。
しかし私にはきっちりした目標があった。
さっさと飲んで、すみやかに酔って、到着する頃にはしゃんとしているのだ。
 
今この文字を打っている最中はまず誤字しかないほどに酔っているけれど、久しぶりに会う叔母夫婦にはスマートに対面しなければならない。八方美人な自分のなんてしっかりしていること。
 
だから仙台から1駅目に着く前に、追加した2本のお酒はきちんと飲み干した。
あとはこの文章を書きながら、残り1時間ないほどの時間、酔いを楽しみ、フワフワと散らしていくばかりである。
 
 
新幹線での一人酔いどれは楽しい体験だ。
時間が限られている旅ではあるけれど、ぜひ斜に構えたりしてまだ未経験のあなたは、その時間を最大限酔いに集中してみてはいかがだろうか。
 
旅先の酔いどれはほざいています。

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