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人恋しくて電話をしてくる人のお話。

その日はあまり1次受けのコールセンターからのエスカレーションがない日でした。
「今日は平和だね。」
そんな会話をしながら、事務作業をしているところへ机の電話が鳴ります。
この電話がその日一番の悪夢となる入り口でした。
私のいる部署は、2次受けのデスクなのでヘッドセットなし、受話器で対応しています。
「単に詳細を知りたいという簡単な電話だったらいいな。」心の中でつぶやきながら電話に出ます。
「はい、エスカレデスクです。」
「井上様(仮名)というお客様より、ABCサービスの詳細について教えてほしいというお電話です。お繋ぎしますね。」
1次受けのコールセンターは小規模で運営しているため、人数も少なく、エスカレーションで転送してくる電話の主も顔見知り、、、いや、声見知りです。佐藤さん(仮名)からの転送はいつも平和な内容で終わるんだよな。安心感のまま電話が繋がります。
「お電話代わりました。藤村と申します。お客様のお問い合わせはABCサービスに関する詳細を教えてほしいということですね。」

いつものようにサービスに関する詳細を説明します。電話の向こうでは、サービスに関して興味を持った様子が感じ取れます。これはもう少し背中を押したら、このサービスに登録してもらえるのではなかろうか?そんな感触がします。

後にこの余計な欲深さが自分の首を絞めるとも知らずに淡々とサービスの登録方法の説明を開始しました。

最初のうちは、相手も相づちを打って快く聞いているようでした。気を良くした自分は、さらにダメ押しをするようにサービスに登録した後の特典などを一生懸命説明しました。

一通り説明が終わる頃、電話の向こうから「さっき説明してもらった、XYZ特典のところ、もう一度説明してくれる?ちょっっとわかりづらかったからさ。」とお客様。

なんとなく嫌な予感。。。

でも、説明しなくてはなりません。わかりづらかったところはどこだろうと説明した箇所を頭の中で反芻しながら、説明します。
説明の中でわかりづらかったところをお客様は指摘してきます。
「あっ、この部分がわからなかったのね。」と心の中で呟き、わかりやすい言葉に置き換えて説明します。

一通り、説明が終わると、別の質問が飛びだしてきます。
同じように説明します。

どのくらい時間が経ったでしょうか?
時計を見ると、すでに50分近く説明してる。

んー、これ以上は無理だな?と思い、クロージング(終話の準備)に入ります。すると、お客様は「いやいや、まだこれもわからない」と言い出します。しょうがない、もう少し説明するか、、、半ば諦めの境地で説明します。

1時間を超えたあたりでしょうか?
受話器の向こうから、「ピュン、ピュン」「ババーン」という音がかすかに聞こえてきます。最初は、何の音かわからなかったのですが、耳を澄まして聞いてみると、どうもシューティングゲームのようです。
しかし、そんなことはこちらから指摘出来ません。
知らないふりをして、説明を続けます。
するとどうでしょう。次はバックで鳴っている音が、何やら「ピコピコーん」という音に替わっています。
「今度は別のゲームを始めたな?こんなやつと電話するだけ無駄だ!切りたい。」そういう衝動に駆られます。

クレームの電話は、怒鳴ってくるお客様の方が対処しやすいのですが、このお客様は冷静にこちらの話に耳を傾け、、たぶん断片的に聴いているだけだった思うのですが、、こちらに質問してくる内容も前向きで話し方も丁寧。
こちらから電話を切る理由が見当たりません。

説明しながら、今日は貧乏くじ引いたな、と思いながら、諦めの境地で必要のない説明を続けるのでした。

このお客様は、孤独でゲームばかりしていて、寂しくなり、人との会話に飢えている人なんだな、かわいそうな人だなと会話しながら、そんなイメージが湧き上がってくるお客様でした。

最終的に電話を切れたのは、優に3時間を超えていました。
こちらの欲深さが災いした対応となりました。
おしまい。

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