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【ショートショート】彼と彼女の理想像

 東京の片隅に位置する小さな会社。そこに勤める一人の男、あだ名は「蒲田のガンジー」。

 彼の性格は良く言えば真面目で、悪く言えば堅物。プライベートより何よりも仕事、もとい自分の夢を優先するストイックな生き方があだ名の由来だった。

「たまには仕事のことなんか忘れてリフレッシュしないと。身も心も持たないよ?」

 そういった周囲の声に対して、彼は答える。

「夢を叶えるためですから」

 狂ったように仕事に打ち込むその姿に、同僚や先輩が称賛を送ることはなく、呆れ果て、中には嘲笑う者までいた始末。けれど、彼は周囲の目を気にせず、ただひたすら仕事に励んだ。

 そんな彼に対して尊敬の念、ひいては恋心を抱く一人の女性が現れた。彼女の猛烈なアプローチは実を結び、ほどなくして彼と彼女は付き合うことに。

 要領が良く、穏やかな雰囲気で周囲からの信頼も厚い彼女。その正反対とも言える彼。二人の交際は社内のちょっとした事件となり、さまざまな声が聞こえた。

「俺の方がお似合いだ」
「あんな奴を選ぶなんてどうかしている」
「性欲に溺れたガンジー」

 例に漏れず、その状況に僕も驚きを隠せずにいた。

(なぜ彼女はこんな奴を……?)

 どれだけ考えようともその疑問に対する結論は出なかったが、一つだけ確信を持っていたことがある。

(こんな奴、彼女に相応しくない)

 そこで僕は行動に出た。

 彼女に相応しい人間になるために、とにかく時間を費やすことにした。仕事より何よりも彼女に向ける時間を優先にした。

 しかし、僕の思惑とは裏腹に、彼女は僕から遠ざかる。全てが手遅れになったとき、彼女から言われた一言を思い出した。

「私は『自分の夢を一途に追うあなた』を尊敬して、好きになったの」



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