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人生をもっと楽しくさせた、29歳の遊び

これは今から数年前、小学校からの友人Aと私が、29歳の時に始めた遊びの話。

きっかけ

いつものようにAと雑談LINEをしていたらこんな話になった。
「うちら来年で30になるじゃん?」
「30代はさ、これっていう趣味を作りたい!」
「確かにやったことない事多いよね」
「趣味探し、しよう!」


Aと私

Aも私も、29年間なんにも熱中した事がないわけではないし、つまらない毎日を過ごしていた訳でもなかった。
アイドルやバンドなどのファンクラブに入り、応援しているグループのライブに足を運んだことも何度もある。
お互いに独身で会社員なので自由に使えるお金はそこそこあり、
連休には家族や友達と旅行にも行くし、週末はお出かけもよくしていた。

でも、ミーハーで熱しやすく冷めやすい私たちは、応援しているグループはよく変わった。
これがずっと大好き!これが楽しい!と声を大にして言えるものもなかった。

だから、長くハマれる好きな事を趣味にしている人はカッコイイし、自分にとって未知の世界で楽しみを見つけてる友達を凄いなと思ったりした。

遊び方のルール

趣味のあるカッコイイ30代になるべく、好きなこと探しのため私たちは下記のルールで遊ぶことにした。
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•月に一日、休みを合わせて遊ぶ
•遊ぶ日のスケジュールに、最低1個の《今まで未経験もしくは経験が少ない》予定を入れる。
•予定は1日以内で実行可能なものとし、一般的な30代女性会社員が負担ではない予算にする。
(例えば、“アフリカに行ってみたい”は時間と費用の観点からNG)
•先に誕生日を迎えるAが30歳になる迄の10ヶ月、毎月続ける。
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この“遊び”を【月一初体験プロジェクト】と呼ぶことにした。


記念すべき第一回

プロジェクト発足後の週末お昼頃、私達は上野駅にいた。
鈴本演芸場へ行くためだ。
この日の体験は、数ある候補の中からAが提案した
「落語を見てみたい」にチャレンジすることした。

落語は、〈寄席〉と呼ばれる興行の中で行われており、他にも漫才や手品などの色々な出し物がみれる。
一度のプログラムで大体3~4時間程度かかるが、途中から入場することも出来るし最後まで残らずに退出することも出来る。
・・という程度の予備知識を身につけ、入場時間に合わせて向かった。

上野は何度も来ているので場所は知っていた。
木戸(きど)と呼ばれる受付が入り口にあるので、そこでチケットを買う

はずだった。
私達は鈴本演芸場を素通りし、次の路地を曲がった。事前に料金も調べてシミュレーションもしていたのに。
この時お互い会話はなかったが、理由は同じだった。

入口で呼び込みをしていたお兄さんの顔が怖かったのだ(とっても失礼)

なんだか門番のように見えて、私達のような寄席を知らない人間がヘラヘラして入ったら怒られるんじゃないかと思ってしまったのだ。

普通に考えれば、チケット売り場がある会場でお金を払って入ろうとしているお客さんを拒否なんてするはずがない。
でもこの時は、寄席も知らないマナーなんてネットで少し調べただけの人間は入ってはいけない気がしてしまった。
30手前の女が来るところではないのかもしれない、とも思った。

「どうしよう・・」
お兄さんは怖い。でも、せっかく来たのに落語が見れないのは嫌だ。プロジェクト1回目から残念な結果にはしたくない。
そこで私達はある方法を思いつき実行した。目の前の磯丸水産に入った。

そう、お酒の力を借りることにしたのだ。
私はこの時ほど24時間営業の居酒屋を有効活用した日はない。
おかげで“酔い”という名の勇気を手に入れる事ができた。

いざようやく受付に向かうと、門番のお兄さんは消えていたので拍子抜けした。
私達が勇気をチャージしている間に公演は始まっており、中に入ってしまったようだった。
受付にはニコニコしたおばちゃんがいて、すんなりチケットを買うことができた。

中に入ると、お客さんは4割程度で私達くらいの女性客もいて安心した。
グループで来ている人も、一人で来ている人もいた。良かった。
入った時間が遅かったため公演は残り5演目程度だった。手品、切り絵、漫才などが順番に行われどれも面白かった。そういえば学校や会社の催しでこういうの見たことあったなーとか考えてた。

そして、最後に“真打”と呼ばれる最も高い身分を持つ落語家の演目が始まった。(真打だけがトリを務める事が出来るらしい)
これが本当にすごかった。演じていたのは「天狗裁き」という古典落語の演目だったのだがめちゃくちゃ面白くてあっという間に終わった。
目に入る情報は人が一人で喋ってるだけ。映像や音楽の演出もない。
なのに、登場人物がハッキリ変わるのがわかる。なんならその光景が見える、後から思い出せる。落語って、すごい!

「来てよかったね!」
そう言って私達は会場を出た。記念に写真を撮りたくて、目の前にいたスタッフに声をかけた。門番のお兄さんだった。

しまった!と思ったのだがお兄さんはスマホを受け取り、別のスタッフにも声をかけて写真を撮った。私達と追い出し太鼓が一緒に映るように図らってくれたのだ。

また来てくださいね。とスマホを返してくれたお兄さんは全然怖くなかった。よく見ると眼力のあるイケメンだった。
私達の、初めて体験することへの自信のなさや恐怖心が、怖い顔に見させていた。本当にごめんなさい。

その後私達はカフェで感想を話し合い、「やっぱり真打だね!」なんて覚えたての言葉を使い、いつか笑点の収録を見にいこうねって約束した。
こうして、月一初体験プロジェクトの第一回は成功に終わった。

結果について

私達はその後も活動を続けた。期間を設けていたのが良かったみたいで、お互いに忙しい仕事をしながらも10ヶ月やりきった。
プロ野球観戦に行ったり、和太鼓を叩きに行ったり、ホテルでアフタヌーンティーをしたり色々な事をやってみた。

結局、趣味が出来たのか?については結論から言うと微妙なところだった。
私はプロジェクトで初めて行ったプロレスにハマり、一時期月に4回は行っていた。いろんな団体を観に行って推しレスラーも出来たし、周りに布教しまくって合計20人以上の初心者を試合会場へ連れて行く事もしたが、現在は年に2回程度に落ち着いていて情報も常に追っているわけではない。(プロレスについては、また別で語りたい)


とても大きなものを手に入れた

継続的な趣味を見つける事は出来なかったが、得たものがあった。

私達はその後も気軽すぎる理由で初体験を続けている。
“年末に第九を聞くってなんか素敵”という理由で、その長さも知らずに初めてのクラシックコンサートに行ったし、
“駅に貼ってあったポスターがかっこよかった”という理由で、ルールも知らない状態でラグビーワールドカップも観に行った。
気になる事はなんでもやってみるようになったのだ

知らない世界だから受け入れられていない気持ちになって、勝手に入口のお兄さんを門番にして自分自身でアウェイを感じることももうない。
初体験のハードルがぐっと下がったら人生の楽しさがアップした。

これが、この“遊び”で得たもの。
私は勝手に【初体験マインド】と呼んでいる。

知らないことって楽しい。
体験するのも楽しいし、体験するまでの過程も楽しい。
初めて使うプラットフォームから予約をするかもしれないし、初めて使う電車で、初めて降りる駅で向かうかもしれない。
その駅には美味しいパン屋があるかもしれない。
つい写真を撮りたくなる神社があるかもしれない。

キナリ杯

この記事は、作家の岸田奈美さんが始めた文章コンテスト「キナリ杯」に応募している。
そして私はnoteを初めて書いた。これも初体験マインドが発動したのだ。
新型コロナの影響で、テレワークと外出自粛で家にいる時間が増えたところツイッターで知り、「やってみたい!やってみよう!」となった。

ちなみに外出自粛期間ですでに初体験したものはいくつかあり、『ぬか床の作成』『切り花を飾る生活』『メルカリの出品』などだ。
人生の楽しさがアップしたおかげで、この状況下でもそれなりに楽しく過ごせているのかもしれない。

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