イラン映画のご紹介
物語能力は民族により差が有る。外交能力、戦略能力は物語能力にだいたい比例する。
日本は文化的に豊かな国です。豊かですから、他国を評価すると実は点が辛くなる。しかしあんまり悪口言うと、言う本人が人間的ランクが下がる感じがあるから、言いづらい、だから他国の文化についてはさほど比較して論じた文章見たことないのですが、各国の文化の程度は物凄く差が有ります。どうにもならない超えられない壁なのです。そして文化の程度は必ずしも一人当たりのGDPに比例しません。
文化の中で最も重要なのは「物語」なのですが、物語も潤沢に保有している国と、貧しい国があります。日本は非常に豊かです。実は、イランも非常に豊かです。ある面では日本以上、世界最高レベルです。
そういう国は、政治力が高くなります。世界を相手に今回も、上手に戦略組み立てています。実はイランはいつも戦略上手なのです。他国にたいする洞察力が凄い。戦略の基礎は他者への洞察でして、それは物語を通じてでしか鍛えられないものですから、当面イランは戦略大国であり続けられると思います。
そんなイランの動向を理解するにはだから、イランの文芸を理解するしかないのですが、「アヴェスター」とかさすがに古すぎて無意味でお勧めできません。私はイラン映画を数本観ただけですが、十分イランの凄さを体験できましたので、ここにご紹介いたします。
アッバス・キアロスタミ
この人は小津安二郎崇拝者です。小津の映画のなにが凄いって、ストーリーの重層性です。
そんなキアロスタミの代表作は、
です。タネ明かしすると主人公の少年は、イラン自身です。彼の活動はこれからイランが進まなければならない道を示しています。重層性の高い物語です。
ラストの前の洗濯物はどういう意味でしょうか。伏線は映画の中にちゃんと埋め込まれています。私もきっちり読んだことありませんから、これ以上の説明は無理です。国際政治に興味のある向きは、考えていただければと思います。一度見たら忘れられない素敵なラストシーンが用意されていますので、ぜひご鑑賞ください。
キアロスタミの最高傑作は私見では
「トスカーナの贋作」
です。文化的に高度になるほど「虚実皮膜の間」
に分け入るものなのですが、本作は虚実皮膜の間を極めています。政治的主張はありません。抽象的作品です。物語論そのものと言ってもよいです。
これを作れる民族が今外交戦略を駆使しているのです。鑑賞すればいかにやっかいな状況かご理解いただけるものと思います。こちらも簡単に説明できる内容ではありません。以前から読み解きしようしようと思っていて、でも今でも出来ていませんからもう諦めます。
アスガル・ファルハーディー
キアロスタミの後継者になるかと期待された人物ですが、
「彼女が消えた浜辺」
「別離」
まではよかったのですが、「別離」でベルリンを取ってそれ以降、どんどんダメになっていっています。
最新作「英雄の証明」にいたっては画面が不快すぎて途中でやめました。カメラワークがどんどん下手になる映画監督、私ははじめて見ました。しかし「別離」は一度見ておくべきです。
各国文化
こういう虚実皮膜系は、イラン、イタリア、日本が得意ですね。
イギリスも十分な物語の実力ありましたが、虚実皮膜ではない。
ロシアは繊細な虚実の間を縫うよりも、ぶっとんだ物語を好むようです。この5か国が私の見るところでは物語文化の世界のトップです。中国も潜在能力はあるのですが、文化大革命で過去の文化を否定したもので、まだ十分重層的にはなれていません。将来的に漢民族文化が復興するようですと、6か国が物語大国になります。
今回イランはイスラエルを攻撃するにあたって、
1、アメリカはガザ戦争を止めてほしいと思っているが、止める力がない
2、イスラエルは一枚岩ではない
ことを十分認識して実行しました。
アメリカはイランのイスラエルへの攻撃を肯定できないが、ガザ戦争を止めさせるにはそれしかないことを認識しており、内心ではイランに攻撃してほしいと思っていた。ということがイランは読めていたから、イスラエルへの攻撃が少量のものであるならばイランがアメリカから攻撃されることは無いという確信を持っており、だからイスラエル攻撃が実行できた。
イスラエルの内部も、ハマスに対する攻撃は支持を得ているが、中近東全体との全面戦争を望む人は少ない。したがってイスラエルもイランとの全面戦争には踏み切れない。よってイスラエルからの反撃はナシか、あっても非常に少ない。
以上をイラン指導層は読めた。読める文化をイランは持っているのです。
それにより、イランはサウジのビンサルマンとトルコのエルドアンの価値を大幅に下げることに成功した。少量の爆撃で多大な成果を得てしまったのです。ロシアも敏感に反応して、シリアへの派兵を若干増強したようです。元来少ない兵力なので増派しても戦力的にはたいしたことがない。でもアメリカに対する抑止力には十分なりました。
そこでアメリカが問題になります。言いにくいのですが、どうもユダヤ系というのは非常に優秀な頭脳を持っているのですが、物語能力だけはトップクラスではないようです。ユダヤ系で最も有名な作家はアイン・ランドなのでしょうが、クソ長いので私は読んでいません。選民思想正当化物語だということくらいしか知りません。しかし他にはさほど視界に入ってこない。
「ハリウッドはユダヤの町でしょう」と反論されそうです。確かにそうです。しかし当初ハリウッドを作ったのはドイツ系ユダヤ人でして、彼らの持ち込んだのはユダヤ文化ではなく、ドイツ文化です。昔のユダヤ系名監督、ウィリアム・ワイラー、ビリー・ワイルダー、いずれもドイツ・オーストリア系ユダヤでして、その流れの最後がキューブリックです。本人はアメリカ生まれ、両親がドイツ系のユダヤです。
それ以降ですと、ウッディ・アレンとスピルバーグになります。弱いですね。イタリア系、コッポラ、スコセッシなどに比べると薄弱な感じが否めません。どうもユダヤ系の頭脳は貨幣と音楽に偏っており、物語が弱いのではないか。これは私が考えついたことでは無く、400年前にシェイクスピアという人物が劇にしていることです。
物語の読解作業をしていていれば気づくことですが、物語論、読解の探求成果は現状非常に薄いです。私のようななんの取柄もない中年おじさんが、すぐに馬鹿にしてしまうレベルです。これは日本の学界のレベルが低いからでは断じてない。日本人はコツコツ努力するのが好きですから、たいていの分野でそこそこのポジションには行けます。つまり世界の文学研究のレベルが低いと判断せざるを得ない。ところで世界の学問の中心はアメリカです。つまりアメリカでの文学研究のレベルが低い。アメリカの学界の主役はユダヤ人ですから、ユダヤ人たちの物語研究がショボいと見るしかありません。頭脳自体は非常に優秀、勉強熱心、でも成果が少ない。彼らはおそらく民族的に物語が得意ではないのでしょう。
だからアメリカ帝国の主役の座を獲得したとおもったら、すぐに没落の時を迎えている。近い将来ユダヤ人たちがアメリカからエクソダス始めても私は驚きません。政治は究極的には読み合いであり、ユダヤは読み合い競争に敗けたのです。なんかもったいない気さえします。ユダヤの皆さん、真面目に深読みを研究しませんか?なに、金になりそうにないからやらない?ええそれは認めますよ。
しかしそんなこと言っている場合じゃないのが我が国です。実は政治家の読みは結構まともです。読めます。故安倍晋三なんかキアロスタミが十分視界に入っていたはずです。映画好きでしたから。
現状我が国のガンは国際政治学者です。「読む世界がある」ということすら知らない。だからプーチンを馬鹿にできる。プーチンは読めます。ラブロフはもっと読めます。イラン指導層と互角、現状ではアメリカ指導層のはるかに上です。
そうじゃないというならば、プーチンが目指すドストエフスキーを元にした国づくりについて、解説してみせるべきです。断言してもよいですが、プーチンやラブロフほどドストエフスキーを読解できる国際政治学者は、日本に一人も居ないはずです。それでいて平気な顔して上から目線でプーチンの今後を予想しだす。藤井聡太の差し手を批判し、大谷翔平のバッティングを批判するのと同じです。狂気の沙汰です。
物凄く頭脳が優秀な連中を集めて、かなり強い軍隊組織の育成に昭和初期には成功していました。連中本当に優秀でした。でも文化力が弱かった。そして、文化力の弱さが政治的洞察の不足に直結して致命傷になりうることを、連中は知らなかった。同じことが国際政治学の連中に今現在発生しています。このままでは経済学者によって失われた30年の二の舞、どころかもっとひどいことになります。
恐らく、今後数十年は英米日三か国タッグのカタチで安全保障回してゆきます。でも中心のアメリカに洞察力がなくなっている。で、日本に読解力のガンが居る。これはきついです。
国際政治学者の皆さん、まずは「トスカーナの贋作」見ていただけませんかね。ラストシーンはどういう意味ですか?明解に言語化できますか?できないと思いますよ。でもイラン指導部には出来る人が居るはずです。ロシア指導部にも。普段あなたたちは、何を解説しているのですか?
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