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星屑の宴【短編小説】
静かな夜空に浮かぶ星たちが
こっそりと楽しむお祭り。
火を灯せばそれはそれは美しく
星屑がまるで踊っているかのようなきらめき。
星屑の宴―前夜―
今年も妖精たちは
コソコソと集めた星屑を瓶に詰めて、
誰が1番美しい銀河を作るのかを競うのです。
判定を下すのはもちろん店主。
今年の夏は、いつもとは違う大きな星が輝くという噂が広がり、妖精たちはその煌めきを逃すまいと今夜も夜空を飛び回るのでした。
今回妖精たちが集めた星屑には
残念ながらその大きな星が入っていなかったようで。
店主のガッカリする姿を見たくない妖精たちは
すぐさま次の星屑集めへと飛び立って行きました。
その姿を目で追った店主は
ゆっくりと立ち上がり、一番奥にあるお気に入りのものを並べる棚からひとつの瓶を取り出しました。
薄汚れた瓶の中から取り出したのは
金色に輝く小さな塊。
「誰だよ、そんな噂を流したのは」
ぶつぶつと独り言をいう店主の指の間から
サラサラと金色の光が流れ落ちて行きます。
「大人しくろうそくの中に入ってちょうだいね」
店主が呪文のように小さな声で呟くと
金色の光はピタリと動くのをやめて、
指の隙間から流れていた光は薄い金色のフワフワとした物質に変わりました。
「さぁ、どんな銀河に混ぜようか」
店主は楽しそうに、作業をし始めたのでした。
星屑の宴―星月夜―
店主の指の間から流れていた金色の光は
ろうそく屋の血筋にしか操ることができないようで。
この物質が一体何なのか、
彼はよく分かりませんでしたが
この金色のフワフワとしたものを入れたろうそくは、とてもよく褒められます。
特に、あの金色のフワフワを透明なビンに入れて作った銀河は生き物を虜にし、目を離せなくなった生き物は皆
ろうそくを陽の光にかざしてはため息をつくのでした。
そんな銀河を詰めたビンのろうそくに火を灯せば
妖精たちが噂をする「いつもとは違う大きな星」の素になる星屑ができるのかと考えながら
黙々と作業を進める店主。
どれくらい時間が経ったのか、
いつも顔を出す便利屋が、1日に3回、ちゃんとご飯を食べなさいと言っていたのを思い出したその時でした。
ドワーフが
見たこともない真っ黒で大きな生き物を連れて
ろうそく屋のデッキで何やら話をしているのです。
話をしているようなのに、店主にはドワーフの声しか聞こえません。
なぜ、こちらの世界に戻ってきたのかと
しきりに問いただすドワーフの声。
その会話らしき話の中に、
猿田彦命(さるたひこのみこと)という言葉が何度も出てくるのが気になった店主は、閉まっているカーテンの隙間からそっと外を覗きました。
人間の世界にいた頃の店主は
神話や都市伝説が大好きだったため
その日本書紀の中に出てくる有名な神の名前を聞き逃しませんでした。
ところが、外にいたのは真っ黒な大きな影で、
店主の想像していた恐ろしく長い鼻や、光り輝く口などはどこにもついていません。
ただ、その黒い影から
銀河が欲しいと言われたような気がして、
少し気味が悪くなり外を覗くのをやめました。
程なくして、キーというドアの開く音がすると
何事も無かったかのようにドワーフが入ってきてこう言いました。
「有り得ない客が来ておる。人間界に向かうらしいが、どうしてもお主の作った銀河が必要だと聞かぬのだ」
吸い込まれそうな黒い大きな影が、ろうそく屋の入口を覆いつくそうとしていました。