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【マンガ話#1】他とは一線を画した「美醜」をテーマにした記憶に刻み込まれる衝撃作

いつの時代にも付きまとう「外見」に対する劣等感。その劣等感を払拭すべく技術は進歩していき、現代では「整形」という手段が確立されている。
しかし、まだ当たり前とは言えないことから後ろめたさに苦しめられたり、満足いかずに整形を繰り返す“中毒者”になってしまったり…技術の進歩をもってしても完全には無くせないのが「美」への執着であると私は考えている。

今回紹介するのは、そんな「美醜」をテーマに描かれた『累 -かさね-』という漫画作品である。
ありふれたテーマとは裏腹に、特殊な設定と世界観で一度読んだら忘れることのできない衝撃的な作品である、と自信を持って推薦したい。

技術の進歩がめざましい現代においても消えることのない悩みに正面から向き合った作品であり、ありふれたテーマであるのにどこか他とは違う目新しさのある物語…度肝を抜かれること間違いなし、きっと物語に没入していくことだろう。
何もかも当たり前になりそうなほど技術が進歩した現代にこそ、ぜひ読んでみてほしい。

『累』

『累』-かさね- は、講談社の青年漫画誌『イブニング』にて連載された漫画作品である。
(著:松浦だるま……https://g.co/kgs/r9pDKE)

醜い顔でありながら卓越した演技力を持つ“累”が、口づけをした相手と顔と声を入れ替えることができるという口紅を使い、他人の顔を奪いながら舞台女優として伸し上がっていくという物語である。

ありふれたテーマに一味

さまざまなメディアで度々取り上げられる「美醜」というテーマを、作者独自の視点からさまざまな要素を掛け合わせて一風変わった作品に仕上げている。

主要なものとしては、身近にある「口紅」をキーアイテムとして起用することや、それを使用することによる“顔を入れ替える”という特殊な能力……それに加え、怪談『累ヶ淵』(漫画タイトルの『累』はこの『累ヶ淵』から着想を得たもの)や作者自身の経験である「演劇」の要素などである。

本作では、なりたい顔になるために「整形」という手段を使うことが多くなってきた中で、整形という形ではなく“他人と顔を入れ替える”という衝撃的な手段を使っている。
それも、口づけをした相手と“顔を入れ替える”ことができる、という特殊な能力を持つ口紅を使ってである。

化粧をするという行為は“いつもとは違う自分”になるための手段の一つであり、日常的に行う行動である。
そんな“口紅を塗る”という日常的な行為が、非現実的な能力を持たせることにより非日常的なものへと変化する。
あまりに唐突で衝撃的な設定や展開にすることで、何が起こっているのかわからない不安と、現実ではあり得ないことが起こっていることに対する興奮と高揚を感じさせる。

日常と非日常を掛け合わせることで、あり得ないとわかっていながらも「もしかしたら自分も…」と思わせる親近感にも似た不思議な感覚を味わうことのできる作品となっている。

圧倒的な画力で魅せる迫力の画面

ストーリーはさることながら、水墨画のような大胆で躍動感のある魅力的なイラストも目を見張るものがある。

細かな線や描き込み要素はないものの、決して手を抜いているわけでもない。
圧倒的な画力の高さが見て取れる。
まさに「Simple is best」とはこのこと。
水墨画のような大胆な描き味が、話の内容や作者の作風に非常に調和している。
まるで1ページ1ページが絵画であるかのような美しいイラストがとてつもなく魅力的で、美麗でありながら躍動感のある画面に惹き込まれる。

一見して豪快なイラストであるが、装飾品や人物の表情など物語の鍵となる部分については、確実に読者が理解できるように丁寧に“魅せるイラスト”として描かれている。
物語の見せ場をしっかりと見せてくる印象である。

大胆でありながら、言葉がなくとも心情が読み取れるほどの繊細な表情の描画は、漫画好きとしてはたまらないものがある。

引き込まれるストーリー展開と心理描写

そして、漫画にとって最も重要となる“続きを見たいと思わせる魅力”が十二分に詰め込まれた引き込まれるストーリー展開と細やかな心理描写には圧倒されるものがある。

作品内において「日常」と「非日常」をうまく掛け合わせることで、あたかも自分がその世界にいるかのような錯覚に陥ってしまう。
感情移入を通り越して、読んでいくほどに物語の世界に入り込めることに加え、続きが気になる!早く次が見たい!という感覚を遥かに凌ぐ圧倒的な没入感が癖になる物語構成となっている。

その中でも、人間の本性をまざまざと見せつけられることで生まれる臨場感は圧巻である。
テーマがテーマなだけに、人物(特にヒロインである累)の葛藤もさることながら、他者とのぶつかり合い、もとい争いや貶め合いが激しい。
美醜によるイジメや、顔を奪う側と奪われる側の共闘と裏切り、もちろん女優としての役の奪い合い…そんなさまざまな争いを恐ろしいくらいにリアリティを持たせて描くことで、まるで自分がその修羅場を体験しているかのような臨場感が味わえる。
本作は、ただの2次元作品にとどまらない作りとなっているのである。


ありそうでなかった…衝撃作の世界へ

技術の進歩がめざましい現代であっても消えることのない、誰しもが抱える悩み、劣等感をダイナミックに描いた作品。
テーマとしては入りやすいものとなっているため、漫画初心者でも入り込みやすい。
それに加え、意外性がありすぎる物語で漫画慣れしている人も退屈にさせない。
あまりの衝撃に一度読めば忘れられない、とても印象的な作品である。

いつもとは違う漫画を読みたい人はもちろん、劣等感と向き合いたい人へ…ぜひ『累』の世界を堪能してほしい。

#マンガ感想文

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