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一問一答!建築のキホン③

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「一問一答!建築のキホン」
建物の構造、関連法規の基礎知識を、(株)ユニ総合計画の秋山英樹氏がQ&A方式で分かりやすく解説するコーナーです。

今回は『月刊不動産流通2019年4月号』より、「ガスレンジからIH クッキングヒーターに交換する場合、注意すべきことはありますか?」を紹介します。

Q ガスレンジからIH クッキングヒーターに交換する場合、注意すべきことはありますか?

A IHクッキングヒーターへの交換は住戸単位で考えればそれほど難しいことではありません。しかし、既存マンションのリノベーション等で交換する場合や、賃貸集合住宅の建物全体で交換するためには、変圧器の新設等の工事が必要になるなど容易ではありません。

住戸単位での交換なら問題は少ない

 IHクッキングヒーターに交換するには、各住戸に付いている分電盤に専用回路を取り付け、200ボルト(V)の電気を直接配線する必要があります。IHクッキングヒーターは必要な電気容量が大きいため、多くの場合電圧が100Vである家庭用のコンセントは使用できません。

 一般的な分電盤には予備のブレーカーまたはスペースがあるため、配線を露出させるなら簡単にレンジまでつなげられます。ガス会社に依頼してガス契約とガスの元栓を閉める必要がありますが、その際にガス管内を利用して配線できるかもしれません。ガス管を利用できれば露出部分は少なくて見栄えもよいでしょう。

 また、必要な電気容量が増大するため、電気の契約を20アンペア(A)増やします。このように、単体の戸建て住宅なら簡単に交換が可能です。

マンションでは全体を考慮

 集合住宅の場合、複数住戸で交換するとなると電気容量の増加が多くなるため、注意が必要です。

 集合住宅は、建設時に各戸の契約電気容量の上限を決定してから幹線設計をしており、それに応じた変圧器、配電盤、幹線ケーブル、電力計、分電盤
を設置しています。一般的に電気の契約容量は1人暮らしで30A、2人世帯で40A、ファミリー世帯で50Aが目安ですが、物件全体が受け取れる電気容量には上限があり、各住戸が際限なく契約容量をアップすることはできません。

 一般的に、建物全体の受電可能容量には多少余裕をもたせますが、事前に電力会社に問い合わせて相談する必要があります。電力会社からは数日で可否の返答を得られます。その結果、現状では難しいと判断された場合は、幹線の引き直しやパットマウントと呼ばれる集合住宅用変圧器などの受電設備などの工事が発生します。コンビニエンスストアなど電気を多く使用するテナントが入っている場合は要注意です。

 例えば、建設当時、30Aを上限としていた50戸のマンションが、全戸50Aまで契約できるようにする場合、電力会社からの受電方法の変更、変圧器の新設と電気容量アップに適応した幹線ケーブル等への変更が必要になり図表のような工事費用が発生します。

図表:工事費用の目安(例)

賃貸と分譲マンションで可否の可能性が違う

 IHクッキングヒーターを導入するか否か、賃貸住宅であれば、工事費用が発生したとしても費用負担についてオーナーが独自に判断しますが、分譲マンションの場合は、管理組合の決議が必要になります。

 既存マンションを購入しようとする顧客も、購入時での判断はできません。1住戸なら問題は少ないのですが、複数住戸が設置した段階でマンション全体の電気容量がオーバーしたときには、後から設置できないため住民間で不公平が生じてしまうからです。築20年程度のマンションなら各住戸60アンペア程度で設計していますが、古いマンションでは40アンペア程度の設計もありますので、該当する住戸の電気容量の増加が可能か否かを、契約前に管理組合か管理会社に問い合わせる必要があります。

◇  ◇  ◇

 交換を求めるユーザーも多いIHクッキングヒーターですが、このように簡単に交換できるわけではありません。関係各所への確認等、不動産会社が行なうべき作業は多いので、知っておきましょう。

※PDFファイルをダウンロードしていただくと実際の誌面がご覧いただけます
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★次回予告

次回は5月23日(月)に、『月刊不動産流通2019年4月号』より、
「事例研究 適正な不動産取引に向けて」を掲載します。お楽しみに!

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