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事例研究 適正な不動産取引に向けて⑥

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「事例研究 適正な不動産取引に向けて」。
(一財)不動産適正取引推進機構が、実際にあった不動産トラブル事例を紹介しながら、実務上の注意点を解説する人気コーナー。今回は『月刊不動産流通2019年6月号』より、「黙示の媒介契約が成立していたとして、媒介業者による媒介報酬請求が一部認容された事例」を掲載します。

★黙示の媒介契約が成立していたとして、媒介業者による媒介報酬請求が一部認容された事例

 媒介業者が不動産売買契約を締結した買主に対し、媒介行為をしたとして商法512条に基づく相当報酬額を請求した事案で、買主と媒介業者との間で報酬額について定めのない黙示の媒介契約が成立していたとして、その請求の一部を認容した事例(東京地裁平成27年3月26日判決一部認容ウエストロー・ジャパン)。

1、事案の概要

適正

 買主Yは平成25年3月、媒介業者Ⅹの媒介により、訴外AおよびBがそれぞれ所有する各土地建物についてそれぞれ24億円、22億4100万円で買い受ける本件売買契約を締結した。

 本件各売買契約では、引渡し期日(平成25年9月末)までに売主が売買の目的を阻害する一切の権利を解除および排除して引き渡すものとされていたが、賃借人を退去させることができなかったこと等から、各売買契約の特約に基づき、A所有不動産については19億2000万円に、B所有不動産については17億9280万円に減額されて決裁・引渡しが完了した。

 その後、XがYに対して、本件各売買契約の当初売買価額の3%相当の媒介報酬を請求したところ、Yは、「当社としては自社の関連会社であるC(宅建業者)に媒介を依頼しておりXには媒介を依頼していない」として報酬支払を拒否したため争いとなった。

2、判決の要旨

 裁判所は、次の通り判示し、Xの請求を一部認容した。

⑴ 媒介契約の成立については、下記により本件各売買契約が締結されるまでにXとYとの間で、報酬額について定めのない黙示の媒介契約が成立していたものと認められる。
 本件各売買契約書には、立会人(媒介業者)欄にXの記名・押印があり、その特約条項においても「本物件の媒介業者である株式会社X」との記載があり、Xが売主側の媒介業者と限定する記載はない。また、Xが買主に説明・交付した重要事項説明書には媒介業者としてXが記載され、取引態様は売買の媒介とされている。さらに平成25年9月、XがYに対し、本件不動産の引渡しの説明をするとともに、引渡しをもって媒介業務を完了する旨を通知しており、XとYとの間で黙示の媒介契約が成立していたことを基礎付ける事実といえる。
 Yは、関連会社Cに媒介を依頼しており、Xには媒介を依頼したことはなく、XはYに本件各不動産の売り込みをしていたに過ぎない旨主張する。確かに、本件不動産売買契約書の「立会人(媒介業者)」欄にはXの他に、Cの記名押印があり、YとCの間で一般媒介契約書が作成されるなどしているものの、実際にCがAやBと接触して媒介行為をしていた形跡はない。
 Yは、媒介報酬が1億4000万円弱に達するような場合に、その額や支払時期等の明細について、何ら契約書が存在しないようなことは常識的にあり得ないと主張するが、不動産媒介契約は諾成・不要式の契約である上、不動産の媒介報酬に関する累次の裁判例が示すように、現実の取引においては、媒介報酬が高額に及ぶ場合であっても、媒介契約書を取り交わさないまま交渉が進展することも稀有なことではない。

⑵ 報酬額については、宅地建物取引業者(不動産仲介業者)は、不動産取引の媒介を業として営む者であり、「商人」に当たるから(商法502条11号、4条1項)、その媒介行為は、「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたとき」(商法512条)に該当する。従って、XとYとの間で媒介契約の成立が認められる以上、報酬を支払う旨の合意や具体的な報酬額の合意がなくても、Xは商法512条に基づき、Yに対し、相当な報酬を請求することができる。
 本件各売買契約に係る不動産売買契約書において、占有者の立退き等に関しては、Xが各売主と連帯して、その費用負担とその責任において実施することをYに対し確約する旨が定められており、Xの相当報酬額については、減額後の売買代金額を勘案して定めるのが相当である。
 Xは、本件各売買契約の成約のために、相当な労力を費やしたものと評価できるが、一方で、訴外D不動産と共同で媒介を進めていたものと認められ、D不動産の貢献度も無視することはできないから、Xの相当報酬額については、減額後の売買代金額を基準として、本件国土交通省告示が定める媒介報酬の限度額の60%と認める。

3、まとめ

 媒介の委託関係があったかどうか曖昧な状態で媒介業者の媒介行為がなされ、成約後に媒介業者から不意打ち的に報酬請求されるような紛争を防ぐため、宅建業法は、取引態様の明示や媒介契約内容の書面化とその交付を法34条の2第1項にて義務付けている。

 本事案は、媒介契約の成立や報酬料率の取り決めを不明確にしたまま取引を進行させてしまったものであり、このような紛争を未然に予防するためにも、取引態様の明示や媒介契約内容の書面化の徹底が不可欠である。

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