見出し画像

映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』を経て考える「そもそも音楽フェスってなぜ必要なんだっけ?」という突然の疑問が涌いた昨年から今年の流れ

フジロックの開催が物議を醸す結果になってしまった昨年2021年、私はフジロック1年目に参加したこともあるファンで、世界のフェスに対しても他の人達よりは一言あるつもりの人間なので、昨年はとても複雑な感情に揺れていました。

もちろん、最優先すべきはコロナ対策であります。ワクチン3回打ったことで逆説的に体調悪化の一途を知ることができた。イギリスでは敢えてノーマスクでフェスを開催させたことで感染傾向の実験も行ったそうで、日本では信じられない話ですが、今年になってもなんだかんだ言いつつ世界中どの国でもコロナ感染に対する意識は明確に残ってはいる。

コロナの話はさておき、昨年のフジロック開催ブーイングが沸点を記録するころ、この映画を観てきました。『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』今はディズニー+でも配信されているはずです。端的に言ってまず非常に優れたドキュメンタリーであると同時に、最高の音楽体験であります。1969年、ウッドストックの年に行われ、それと比べたら小さいフェスティバルなんですが、黒人たちが無料で集ったフェスの初映画化です。なにしろねぇ音がすごい!映画のためのリマスターっていうんですかね。してますよね。強力な演奏の再現のブーストによって、とても60年代の映像には見えてこないんです。劇場で今鳴ってるフィルムコンサートのようでした。

それだけで映画館で見る価値はあったのですが、この作中で語られる黒人社会への冷遇さ、それを曲間にうまく挟み込む巧みな編集によって、単なる記録映像を超えた叙情的なドラマにも感じられてきます。見るべきです。しかしそれだけ聞くと「壮大なテーマだな」と構えてしまいがちですが、当然人種問題は根深いものですが、大雑把に言ってしまえば彼らのそれぞれの願いは実は単純なものです。俺たちにも金を回してくれ、ルールは破ってないだろう、差別するな、この場にいさせてくれ。

このテーマは別に黒人問題には限りません。コロナ禍2年目の荒んだ日本人にもグッと刺さりました。俺たちにも金を回してくれ。ルールは破ってないだろう。差別するな。この場にいさせてくれ。給付金はとっくに消えた。俺が悪いのは謝る。もう一回ちょ~だい!

いい映画を見れたな~と思って昨今モヤモヤしていた気持ちが少し晴れたような気がしていましたが、ダースレイダーさんが書かれた『サマー・オブ・ソウル』の原稿にもシンパシーを感じました。

社会的背景や社会課題を共有したコミュニティの人々が、問題に対してどう向き合うのかという議題を音楽の力を使って表現する場として、フェスが提示されているのです https://bizspa.jp/post-505757/4/

フェスには昔から政治的なメッセージも掲げられる時はあります(なぜか日本では敬遠されがちですが)。今年2022年のグラストンベリー・フェスティバルでは、侵攻反対が掲げられているのはもちろんでしたが、直前に報道された中絶禁止の米フロリダ州法について、もはや女性たちの指導者的存在であるビリー・アイリッシュが強い異議メッセージを発して話題になりました。

で、この映画を見た限りでは政治的メッセージももちろん強いのですが、前述したようにディティールを読めば人それぞれの願いとは「このひどい生活をなんとかしてくれ」というまずシンプルなものであり、そして思ったほど困窮してるようにもみえない、むしろリアル充実してそうなナウな黒人たちも多くて、深刻ながらも普通に夏を楽しむ若者たちであり、今の日本人が共感できる隙間は多いです。

この一時の催しの中だけでも儚い夢は見れたような、実現には程遠くても「この場のエネルギーならもしかしてやべー夢を見れるんじゃね?」というポジティヴなイキリを共有し、とりあえず発してみる。別にそう難しく考えず、カジュアルに。そんな純粋な光景こそがフェスらしいかなと。フェスティバルは基本お祭りですからね。盆踊りでも花火大会でもなんでもいい。綺麗な瞬間をみたとき、気持ちが高ぶって、モヤモヤしていた夢がかなうかもしれないという馬鹿な夢を見る場所。でもそんな時こそ、美しい光景とともに一生忘れられない言葉を受け取ることもできる場所。人間らしさが色濃くあって美しいなと思いました。

昨年のフジロックはYouTubeで観ました。各アーティストも困惑しながら、今ステージに立つべき理由と戦っていました。そこでよく引き合いに出されていたのはコロナ禍における補償です。曲間のMCでアーティストそれぞれが開催の是非というものを葛藤しながら述べられていて、その姿がこの映画の出演者たちに部分的にフラッシュバックするのでした。今年は明るく開催されるといいですね。大丈夫かよ。たのむよ。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?