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晴天に春日傘 ▷ 屋根裏

 

昨日の雷雨と打って変わって、僕らが集うこの日は晴天に恵まれた。

川に突き出した満開の桜の枝から、その花弁がはらはらと水面に舞い降りる様を横目に、僕は待ち合わせ場所に向かって歩いていた。春と呼ぶにはやや主張が強めの日差しに、ああまた日焼け止めを忘れたなと、頭の隅で思うほどによく晴れた。

都会の川はお世辞にも綺麗とは言えない。某野球チームが勝つと川へ飛び込む風習よろしく、素人目で見ても後退りする淀んだ川に、それでも確かに魚や鴨が泳いでいるのだから、生命たるや、と思い知らされる。

僕は二人兄弟の末っ子で、昔から病みがちだったので、母からは相当甘やかされていたと思う。買い物に行けば率先して重い物を手伝う兄に対して、非力な僕はパンや菓子の袋しか持たなかったし、部屋の片付けが大の苦手だった僕は、定期的に母の協力の元、子供部屋の大掃除となると、毎回腹を痛めてトイレに逃げ込んでいた。そうしている内に部屋が綺麗に片付いているものだから、寧ろ僕が関わらない方が効率良いのではとさえ思ったほどだった。
箱入りとまでは言わないものの、社会に出てからその無知と無力さに、痛い思いをたくさんして、すぐに心が折れて悶えて、の繰り返しだった。雑草魂とは真反対のこれに、僕は「ビニールハウスで育ちました」と言い訳するようになっていた。

独り立ちしてからもう何回目の春のはずなのに、学ばないなあ。七分袖のカーディガンから出る腕が熱い。きっと明日にはこの袖を区切りに肌の色が変わっているんだろうなと、ぼんやり思う。
僕の少し先を歩く白いロングスカートの女性は、建物の日陰が出来る道を歩きながら、日傘を差していた。四月半ば、桜色に映える、黒の春日傘。レースの模様がきらきらしているように見えて、日傘を差すだとか、帽子を被るという習慣がない僕にとっては、少しばかり羨ましかった。

待ち合わせ場所までもうすぐ。時間はまだまだ余裕があるけど、気持ちも相俟って歩く速度も自然と上がる。僕らにとってももう何度目かの春なのに、きっと君もこんなに暑くなるとは思わなかったって笑みを零して、日焼け止めを塗っては来ないんだろう。
日傘も帽子もないけれど、この晴天に恋しながら、僕らは僕らなりの歩きやすい道を探そうか。

何度目の春だって、隣には君に居て欲しい。

 

#由眞からの挑戦状  #春日傘 #晴天

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