国際シンポジウム 「DX×半導体×モノづくりが切り拓く私たちの未来」報告
2023年2月2日(木)~3日(金)の2日間にわたって仙台国際センターで行われた国際シンポジウム 「DX×半導体×モノづくりが切り拓く私たちの未来」 において、各セッションを紹介しつつ、シンポジウム全体を振り返ります。
2023年2月2日(木)
シンポジウムの基調講演では、遠藤 哲郎教授(東北大学 国際集積エレクトロニクスセンター長)より、スピントロニクス省電力半導体による ゲームチェンジと、カーボンニュートラル社会への貢献についてお話し頂きました。
Session 1:半導体とデジタル技術の活用
遠藤 哲郎教授(東北大学国際集積エレクトロニクスセンター長)を座長に、三つの発表が行われました。
「高性能コンピューティングにおける半導体メモリの位置づけと重要性」
「半導体市場の展望とTSMCのご紹介」
「モビリティカンパニーへの変革に向けて」
それぞれの発表では、コンピュータ産業におけるデータの大容量化やそれに伴う高性能コンピューティングに必要な半導体メモリの技術やその需要が話題となり、最後の岡島氏発表では、社会全体という大きな視野で技術をとらえる「コネクティッド・シティ」の必要性が提言されました。
Session 2:TEL特別セッション
山口 光行氏(東京エレクトロン株式会社 サステナビリティ統括部 )を座長に、二つの発表が行われました。
「半導体製造プロセスへの情報技術の適用」
「サステナブルな社会の実現に向けて」
それぞれ、AIをめぐる近年の社会状況や気候変動といった人類全体の課題を視座に、企業の立場から、半導体製造の技術や、社会課題解決に対する企業としての取り組み(社員教育)について発表していただきました。
2023年2月3日(金)
Session 3:デジタル技術の活用と社会課題解決
シンポジウムの2日目、1日目の視点から少し変えて、デジタル技術を活用し、社会課題をどのように解決できるのかをテーマに議論されました。
午前中は2つのご講演がありました。それぞれ、IoT技術を社会の幸福につなげる実践が報告されました。スマート医療技術が、コロナ禍のなかで人工呼吸器の操作等で身体接触を大幅に減らす治療を可能としたことや、2050 年のカーボンニュートラル実現に向けたフレームワークとデータ交換の仕組みづくりなど、興味深い内容でした。
”MAC WARD-An Innovative Negative-pressure Isolation Ward"
「Green x Digitalコンソーシアムの見える化WGを通じたScope3 CO2排出量データ交換の産業連携チャレンジ」
Session 4:デジタル×サステナブル社会のデザイン
このセッションは、まず直江清隆教授(東北大学大学院文学研究科)に、TEL協働プログラムの紹介をしていただきました。
人間のWell-being に貢献する社会を作っていくために、テクノロジーと共進化しうる未来社会をどのようにデザインしていくべきか、という課題について、哲学の立場から概説いただき、文科系・理科系の学生が活動する「未来社会デザイン塾」について説明していただきました。未来社会デザイン塾の「市民カフェ」は、多様な人々による「参加型アセスメント」の場を作るという点で重要だという説明に、塾生として活動の意義を再確認できた内容でした。
次に、松八重 一代教授(東北大学大学院環境科学研究科)は、経済学の視座から、デジタル技術の普及による電力消費量の増大や鉱物資源の需要拡大に伴い、人権、労働、環境、文化に関連する社会問題が顕在化してきていることが報告されました。デジタル技術がもたらす温暖化リスクの軽減(低炭素)には、トレードオフとしてリスクもあることを自覚する必要性に気づかされる内容で、鉱山採掘に伴う水資源の消費や水銀排出、残渣物の投棄による環境かく乱の可能性などの指摘がありました。光と影を見極めたうえでリスクを可視化し、定量評価することの重要性に気づかされる内容でした。
続いて、高橋 信教授(東北大学大学院工学研究科)からは、ヒューマンインターフェースを研究する立場から、社会と技術が交錯するような場面を念頭に、AI技術についてご講演いただきました。AI技術が効率性を支え、人が想像性を支えるという互恵的協調が理想ですが、人間とAI技術のコミュニケーションはまだまだ不足している、という言葉が印象的でした。AI 技術の本質への洞察から、不確実性が大きく制約の多い現実的な状況下では、適用がうまくいかない可能性があることへの注意が促されました。具体例として、人間を排除するようなシステムは難しく、かつユーザーと技術のコミュニケーションが不足している例(AIに何ができて何ができていないか知らない人が多い例)として自動運転システムの問題が紹介されました。人間ができることは人間に、AIが得意なことはAIに、という協働のためには、AIを受容する社会の側が、フレームワークを持っていくことが大切だという提言は、本プログラムでの議論にとっても重要なものだと考えさせられました。
Session 5:全体討論
最後のセッションでは、全体を振り返って、討論が行われました。
研究や教育の場で、さまざまな分野のマッシュアップや未来を考える議論のプラットフォーム作りが重要だという指摘や社会問題はさまざまな要因が複雑に絡まっており、「すべての社会問題は解決できない」という発言が印象的で、SDGsの掲げるような理想社会をはじめから前提とすることには違和感がある、として、IoT技術にバラ色の未来を見すぎることには注意する必要があるということをご講演に続いて強調されました。
社会問題はさまざまな利益の問題も絡む、という指摘を受けて、東京エレクトロンの荻野裕史氏は、企業の立場から産学連携の社会的意義を確認し、企業、教員、学生が協働するTFCではどのような仕方で社会に貢献できるのかを考えてゆきたい、という考えを示しました。
最後に、知のフォーラム活動のこれからの課題が話題となりました。山内先生は、未来社会デザイン塾には授業という時間的・空間的制約のあるため、多くの人を巻き込むことが難しいという発言され、そういった制約を取り払う仕組みを作っていきたいとまとめられました。
高橋先生は、山内先生の発言を受けて、はより高解像度な未来のデザインをできれば面白いのではないか、と話しました。
松八重先生も、山内先生の発言を受けて、Schoolという言葉の語源(ギリシャ語の「スコレー」)に立ち返り、「暇を楽しむ」ゆとりを持つことを強調されました。文理融合のためには気持ちの上でのゆとりも大切だということです。そして何より、文系・理系という仕方での自己理解ではなく、自分の専門分野をもとに知を繋ぐ、そのための思考訓練をしてほしいという学生へのメッセージも印象的でした。
先生方の発言をうけて、東京エレクトロンの荻野氏は、豊かな時間をともに過ごす中で、みんなで知を分かち合っていきたいと述べられました
Poster Session
未来社会デザイン塾の学生グループが、ワークショップで議論した内容をもとに、デジタル、サステナブルに関するポスター発表に参加しました。また、審査によって、優れたポスター発表の発表者には、東京エレクトロンポスター賞を授与されました。
文科系、理科系の枠を超えて活動する未来社会デザイン塾の意義を再確認するとともに、テクノロジーと共進化する社会をめざし、インリーチ、アウトリーチの積み重ねや、活動の継続の在り方など、さまざまな示唆を与えてくれるシンポジウムとなりました。
(本文執筆:未来社会デザイン塾 浅川芳直、編集:東北大学知の創出センター 陳怡靜)
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