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【日記】現実乖離のクロノスタシス

スマホのアラームで目を覚ました。
目が覚めるようにと設定したミセスのライラック。
普段はミセスなんてTikTokで少し聞くくらいなのに、イントロのギターが好みという理由だけでアラームに決めた。ファンに怒られてしまいそうだ。

「まだ寝ていたい」と微睡む中、やっとの思いでスマホに表示されている時間を見た。時刻は午前4時30分。

夏がもう目の前にあるのだ。外はすでに明るかった。
私はこれから母校の学園祭に行く。高校時代の友人4人で。

現在住んでいる場所から母校までは特急を使えば2時間で到着する。しかし奨学金すらまだ審査の段階であった私にはお金に余裕がなかったため、3時間半かけて鈍行で向かうと決意していた。

電車内には休日の早朝にもかかわらず、多くの人が乗車していた。爆睡している人もいたが、大半はスマホとにらめっこしている。
「スマホがない時代は何してる人が多かったんだろう」と野暮なことを考えながら、充電節約のため遠くの景色を眺めていた。

目的の駅に着いた。外に出た瞬間肌がジリジリと焼けるような感覚があった。日焼け止めを塗っていなかった。お気に入りの猫柄の日傘をさして、白のヘッドホンから流れるお気に入りの曲に身をまかせながら学校まで歩く。休日ということもあって小学生くらいの子供や年配の方まで、老若男女さまざな人とすれ違うが、私はたいして気にせず真っ直ぐで滑らかなアスファルトを踏みしめた。

もうすぐかな、と思った矢先
友達から着信があった。久しぶりに話すからちょっと緊張しちゃうなと一瞬思ったがすぐに出てみると、2人の友達がすでに着いていたようだ。「今どこ~?」「連絡ないから家で寝てるかと思ったわ笑」などと気の抜けた会話に、私はほっとした。
誰も何も変わってない。私の居場所はまだここにある。
「あと10分くらいで着くわ」と伝え、私は早足で小さな橋を渡った。

学校に着くと、ちょうど同じタイミングでもう1人の友達も来た。
「久しぶりじゃん!!」「髪染めたのか!」再会を喜び互いの近況を話したところで、模擬店に行ってみることにした。

模擬店ブースに行ってみるとたくさんの生徒が食べ物を販売していた。私の時は唐揚げやってくっそ暑かったな、なんて思い出しながらかき氷の列に並んだ。
かき氷なんて普段買って食べようと思わないから、数年ぶりに食べた気がする。暑い日のかき氷はやっぱり美味しい。冷たい氷が火照った身体に染み渡る。味は全部同じだなんてよく聞くけど、しっかりいちごの味がした。私は催眠の類に弱いのかもしれない。

展示などを見ながら歩いていると、同級生とかなりすれ違った。中には高校時代仲の良かった友人もいて、話したり写真を撮ったりもした。髪色とかメイクとか見た目はみんなだいぶ変わっていたが、話してみれば何にも変わりはなかった。
そんな数ヶ月でキャラ変しないか、と考えながらも過去の日常が取り戻された気がして少し嬉しかった。

担任や学年主任だった先生にも会った。高校生の時は先生という存在が苦手な私だったが、卒業してから会いに行くと不思議と嫌ではなかった。それは私が成長したからなのか、単にもう私の先生ではなく先生だった人になったからなのか、よく分からない。卒業後の生活や大学について報告して、先生たちは忙しそうに生徒のもとに帰っていった。

母校に漂う青春の微香を、かつて毎日のように顔を合わせていた友人と感じながら学校を後にした。
おなかがすいている。私たちは卒業式の日に打ち上げをした某回転ずしチェーン店でもう少し話すことにした。
話の内容はほとんど覚えていない。だがそれが私たちの普通であった。会話の9割がくだらない内容なのだから覚えている必要もない。

2、3時間経って、私たち4人は解散した。
長い夢を見ていたようなふわふわした感覚がした。3か月という短い期間会っていないだけで、友人の存在は私の中で随分と遠くなっていた。

こうしている時にも全員の時間は進んでいる。中学卒業以来連絡を取っていないあの子も、高校の時どうしても馬が合わなかったあの子も、私と同じ時間を生きている。
そう実感させられた一日だった。

でもそれと同時に今日一日だけは、時が止まっているように思えた。
もし今日がなかったことになっても弊害はない。が、自分の中で必要不可欠な記憶。非現実的だが、魔法か何かにかけられた感覚。

”クロノスタシス”って知ってる?
知らないときみが言う
時計の針が止まって見える現象のことだよ

クロノスタシス / きのこ帝国

帰宅後、入浴を済ませてyoutubeの音と柔軟剤の香りだけに包まれた私は、魔法が解けたように眠りについた。


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