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ファーストラブ ~幼年期編~

CHOT FRESINO

「初恋」と聞くと、どんな味をイメージするだろうか?
いちごみたく、甘酸っぱくてせつない、青春の味を瞬時に連想する人が断然多いのではないだろうか。

でも、人の数だけその味はあるはずだ。
スピードワゴンの小沢さんでも、「甘すぎ。」って言うくらい、ただただ、スウィートな味もあっていいと思う。

あとは、ほろにがビター味。よくこの「ほろにがビター」ってフレーズ聞きますけど、なんで苦い2回言うんですかね?大事なことやから?
ほんで結局、ほろ苦なんか、苦いんかはっきりせえへんし。

爽やかシトラスミント味なんてのもいいね!
もう、初恋の味なのか、ファブリーズの香りなんか分かんないですけども。

アーティストの宇多田ヒカルさんの初恋の、
最後のキスは、タバコのflavorでニガくてせつない味だったらしい。

僕の初恋は一番多いであろう、甘酸っぱくてせつない、そんな味だった。

出会いは小学校に入学して間もない頃。
宿題の本読みカードを先生に提出して、自分の席に戻る途中、その子と目が合った。
月並みな表現だが、人形みたいに大きな瞳、可愛らしい笑顔にラブズッキュンだった。
誰かが、“恋とは、するものではなくて、落ちるものだ”と言っていたが、まさにその通りだ。

僕は一瞬で恋に落ちた。これが僕の初恋のはじまりだ。
初めての経験に、生まれてはじめての感情に僕は困惑した。
家族や兄弟に対する感情とは別モノで、近くの田んぼで拾ってきたペットのカメに対するそれとも違う。
当時の僕には、この感情の名前が分からなかった。「この感情の名は。」だ。

僕は、恋の片道切符を握りしめ、各駅列車を走らせた。

その子を意識してからの僕はというと、何もできなかった。
普通の小学生の男の子なら、好きな女の子にはちょっかいを出して
「うわ、○○ほんまサイテー!キライ!」とか言われてあほみたいに喜んだり、
気持ちが先行するあまり調子に乗ってやり過ぎちゃって、取り巻きの女の子たちに
「○○なんでそんなことするん!?〇〇ちゃん泣いちゃったやん!謝り!」とか言われてヘコんだりするのだろう。

物心がついた頃から、両親に「女の子には優しくしなさい」と、ジェントルマンの英才教育を受けていた僕には到底嫌がることなどできなかったのだ。本音を言うともちろん、僕だってスカートめくりとかしたかった。
しかし、両親からの洗脳のキキが良すぎる僕の理性がさせなかったのだ。

スカートめくりどころか、まともに話しかけることすらできない僕は、授業中や、休み時間の校庭で遠目から眺めたり、席替えの度に隣の席になれることを切に願っていた。

その子もシャイで、あまり男子と話す子ではなかったので、2人の間の溝は埋まるべくもなく、時間ばかりが過ぎていった。

そんなキング・オブ・ヘタレの僕に、奇跡が起きた。
一年生も終わりの3学期のある日、その子に話しかけられたのだ。

「2月14日の16時に〇〇公園に1人で来て。」

返事はオフコース、オーケー!
ハッピーバイブスアゲアゲだ。
浮かれポンチの僕は、バレンタインなどというものの存在を知らず、遊びの誘いだと思っていた。
門限は17時。どうせならもっと早くから遊びたいなーなどど思いながら、静かにその日を待った。

前日は、遠足前夜は必ず寝不足 楽しみで 楽しみで(©︎宇多田ヒカル)ってな感じで、期待と不安のワンツーパンチで僕の小さな心臓は早鐘を打ち、なかなか寝つけなかった。
出航前夜のコロンブスも同じ気持ちだったに違いない。

2月14日。僕は約束を守らず、親友の男の子と2人で公園に行った(後日その子からめっちゃ怒られた)。
一応、親友には近くの茂みに隠れてもらい、早く来て欲しいなーとぶらんこを揺らしているとその子は来た。しかも、その子も友達と2人で。

えっ!?2人で遊ぶんちゃうのん!?
僕も友達後ろに隠してるから人のこと言われへんけども!と思い、草むらに目をやると、親友が茂みから頭出してめっちゃこっち見てた。
慌てた僕は手を上下に振って「頭下げろ‼︎」とジェスチャーをしていると、視線を感じ振り返った。
その子がめっちゃ僕と親友を見てた。

…バレた。めっちゃバレた。
その子は少し悲しげな表情を浮かべていた。
胸がチクリと痛んだ。

「ほら!早よ渡しや!」

友達に急かされ、恥ずかしそうにモジモジとその子が近づいて来て、

「はい!これ、あげる!」

「えっ?あ、ありがとう…」

僕は紙袋を受け取った。
すると、その子と友達は走って帰って行った。
えっ!?遊ぶんじゃないん!?
黄昏時の公園には僕と紙袋と、茂みから顔をひょっこりはんする親友だけがぽつんと残った。
親友が草を掻き分けて出てきた。

「なにもらったん?」

「わからん。なんやろ?
お!チョコとなんか手紙入ってるわ!」

「へー!やったやん!」

真っ赤な夕日を背に僕たちは家路についた。
僕の顔が赤かったのは、きっと夕陽のせいだけじゃないはずだ。

家に着き、母親にチョコを見せた。

「あんたそれバレンタインのチョコやんか!その子あんたのこと好きなんやな〜
ちゃんとお返ししいや!」

そんな素敵なイベントがあるんやったら、授業で教えてや、先生!
僕はこの時に、名前の分からなかった感情が恋愛感情で、その子のことが好きなんだと実感した。
しかも、片想いじゃなく、両想いだったこと、またお返しの時に学校以外で会えると知り、幸せのダブルコンボに震えた。

紙袋の中には、チョコレートと手紙が入っていた。
手紙にはうろ覚えだが、「好きです。また遊んでね。」みたいなことが書いていて、僕とその子が手を繋いでる絵とポケモンの絵が描かれていた。「よかったら、色ぬりしてね。」とも小さく書かれてて、なんて優しい子なんやと。
気遣いまで完璧やん…と思い、その日は手紙を握りしめて寝むりについた。

ここまで読んで下さった方は、女の子が僕のことを好きなのが分かり、これから、恋の列車は加速し、2人の距離はぐっと縮まっていくのではないかとご期待頂いているかもしれないが、そんなことはなかった。
なんせヘタレの僕だ。恋の鈍行列車はゆっくり、ゆっくり進むのだ。

どうでもいい日常はビターチョコのように溶けていった。
僕は小学6年生になった。その子との進展は特になかった。

いや、全く無くはなく、あるにはあった。
3年生の時に2度目の同じクラスになれ、またもやバレンタインにチョコをもらった(もちろんお返しはした)。

5年生の時には、当時その子が一番仲良かった友達と2人で僕の家に来て、2人から同時に告白された。
えっ!?公認の二股オーケーかいな!?あまりのエキセントリックな告白ぶりに正直ビビった。ビビり過ぎて、返事が有耶無耶になり、ようわからんことになった。

そして、小学校最後の年に同じクラスになれた。神様に泣いてお礼を言った。
しかし、その喜びも束の間、その子が2学期に転校することになったのだ。
宇多田ヒカルの歌詞を引用すると、気になるあの子が突然転校 せつなくて せつなくてだ。
なんやねんこの少女漫画みたいな展開!望んでへんぞ!!バカ野郎!!と神様に罵声を浴びせた。

当然のように同じ中学に進学すると思っていた僕はショック過ぎて泣いた。
相手からは、チョコを貰ったり、告白され好意を示してもらっていたが、ヘタレの僕は一度も好意を伝えていなかったのだ。

向こうも僕のこと好きやし、僕も好きやしそれでええやん。へへ。みんなにバレてイジられるのも嫌やしな。なんて考えていた当時の自分をぶん殴りたい。

世の中は不条理の嵐だ。小学生の僕には抗う術もなく、彼女の転校の日はあっという間に来た。

転校の前日。
その子が友達と2人で急に家に遊びに来た。
ショックで友達と遊ぶ気にもなれず、家に引きこもっていた僕は、この突然の来訪に歓喜した。

もともと女の子と話すのが得意じゃない僕と、大人しい彼女、そして邪魔者の彼女のツレ。会話が弾むわけもなく、特になにして遊んだとか、なにを話したとかはなかったが、気がつけば2時間くらい経っていた。

帰り際に僕は、お母さん(僕の母親は外国人だ)がその子に渡すようにとくれた、母の母国のスパンコールで変な模様が描かれたポーチをあげた。
その子はすごく喜んでくれた。

結局、ヘタレの僕は想いを伝えれないまま彼女は転校した。
今みたいに小学生でも携帯を持っている時代だったらどんなに良かっただろう。
連絡先も、引っ越し先の住所も聞けなかった僕は、もう二度と会えないような気がした。
それほど、小学生とって転校は大きな障害だった。

思えば、小学校に入学してから、彼女が転校するまでの間、僕はずっと彼女を追いかけていた。

ヘタレで、なにもできなかったが、穢れを知らない、幼い純粋な恋愛感情をひたすらに内に秘め込み、6年間一途に、ギデンズ・コー監督じゃないが、あの頃、君を追いかけた。

学校からの帰り道、その子に会えるかなと一縷の望みを抱いて、友達に冒険しよ!って嘘ついて遠回りして彼女の家の近くを通ったりした日々が懐かしい。

その子が転校してから、ポッカリと穴があいてしまった僕は暫くの間、彼女のことを引きずった。もう、好きな人は永遠にできないんじゃないかなんて考えていたセンチメンタルジャーニー。

その時の僕は、数年後彼女と再会を果たせるとは夢にも思っていなかった。

つづく…かも?

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