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変わったものと、変わらないもの(完全版)

 「うわぁ!このストロー、色可愛いね!赤と緑のストロー!!すごーい!!」
まんじろうが、今日は雨が降っているからと家の中で冒険をしていた時のことだった。
 もふもふの尻尾を振りながら私が親知らずを抜いた時に買ったシンプルなストローに、まんじろうは目を輝かせていたのだ。
 まんじろうと出会って2年ほど経つが、未だに見たことがないものがあるみたいだ。
 しかしストロー自体はまんじろうも見たことがあるはずだが、色が付いていることが珍しいのだろうか。

 「おーい!まんじろう〜。ちょっといいかーい」まんじろうが小さい子供のようにはしゃいでいると、私と15年以上一緒にいるピンクのアルパカのハルさんが、お知らせの紙を持ってやってきた。 
 よく見ると、結構しっかりした紙でびっしりと文字が書かれていた。「今年の野菜運びの日程について」。一体なんだろう。
 「今年の野菜運びの日程が決まったらしいぞ〜。まんじろうの家付近は9月中旬だな〜。」ハルさんは、紙を見ながらまんじろうに説明していく。
 「そっか〜。結構後の方なんだね。
 お布団作りで7月末以来向こうに行ってないから野菜運び前に一回お家見て来ないとな〜。マーガレットに予定聞いてこなくっちゃ...!ハルさん、教えてくれてありがとう!」
 そう言ってまんじろうは、赤と緑のストローを頭に乗せたまま、マーガレットの元へ走っていった。

 
 そういえば、ハルさんと出会った最初の頃に「ぬいぐるみの家についての話」を聞いたことがある。
 「ぬいぐるみは、こうやって人間と出会って一緒に住むまでは住むところがないんや〜。それまでは、ぬいぐるみの世界の家で暮らしてるんやで。
 しかも生まれた順に家も決まってて〜。人間と住み始めたら、その家と秘密のトンネルで行き来するんや〜。まるで別荘やな!」
 そんなことを言っていたような気がする。と言うことは、ぬいぐるみの世界でのまんじろうの家とハルさんの家は、別地区になるんだろうか。

 10年以上前のことを思い出していると、「ハルさん!見てこれ!さっき、家の中を冒険してて見つけたの!赤と緑のストローだよ!色付き!可愛いよねぇ!」
 マーガレットと予定の確認を終えたまんじろうがまた、ハイテンションでハルさんに話しかけている。やっぱり色つきが珍しいのだろう。ハルさんも赤いストローをじっくり見ている。

 「そうだ!ハルさん、野菜運びの確認をしたいんだけど、ぼくのお家の隣に住んでいる、よしハムくん、しばうさくん、とらひこくんはマイストローって持ってるのかな?
 ほら、一緒に作業するときに長さが足りなくなったら困るし…。」まんじろうは緑色のストローを頭の上に乗せながら、不安そうな声でハルさんに聞いた。
 「事前に用意するようにとは、引っ越してきた時に聞いてるはずだから大丈夫だと思うぞ〜。
 でもまぁ、いざとなったら中央広場で貸出ストローもあるみたいだし、そんなに不安がるなって!!」
 ハルさんは、赤いストローの蛇腹部分を伸ばして遊びながら、楽しそうに笑っていた。
 そんなハルさんを見て安心したのか、まんじろうも「そうだよね!!大丈夫だよね!」と、緑のストローを頭の上で器用にポンポンと跳ねさせて遊んでいた。


 次の日。昨日は雨が降っていてじめっとしていたが、今日は太陽が出ていてかなり暑く、ぬいぐるみでもクラクラしてくるようだった。
 まんじろうは、クーラーが効いている部屋で冷やし人参を食べながらハルさんと昨日の野菜運びの続きを話している。
「そういえば、ハルさん。野菜運びって前からあるんでしょ?ぬいぐるみの世界でも食料作りを始めた頃から、一気に発展したって聞いたんだけどー。」
 「そうだなぁー。前はそれこそ畑の数も少なかったからみんなで畑に集まって掘り起こし作業をしていたんだけど、  畑ってほら、山とか住んでいるところよりも上にあるから山を登って降りてを繰り返すのが悩みの種になってたんだ。
 そしたら、象のぬいぐるみのよしぞうってやつが、自分の鼻に似てる道具がないかと探し歩いて、人間の世界でストローを見つけてそれを改良し出したってわけだ。
 まんじろう、わしにも冷やし人参分けてくれよ。」

 まんじろうは、スラスラと答えてくれるハルさんに冷やし人参を分けてあげながら続けて質問した。
 「よしぞうさんが自分の鼻に似てるからってストローを見つけてきたのは分かるけど、なんでストローだったんだろう?」
 するとハルさんは昨日まんじろうが見つけ出した赤いストローを棚から出し実際に動かしながら「ほら、ストローって軽いだろ?運ぶのがまず楽だ。
 さらに、切って長さを縮めることもできるし、蛇腹部分でカーブを作ることもできるし、切り込みを入れて組み合わせると長さを出すこともできる。
 まぁ、一番大変だったのはどうやってストローを野菜が入るくらいの大きさにするかだったらしいな」と説明してくれた。

 「そういえばハルさん。僕、野菜運び2回目で未だに分かってないことがあるんだ。そのストローの大きさのことなんだけどね、去年、山の小屋に住んでいる象のぬいぐるみに僕のマイストローを渡したんだ。
 そしたら、奥のほうでなんかしてて、5分くらい経ったら僕のストローが大きくなってたんだよー。ハルさん、大きくなった理由知ってる?」
 「あぁ、知ってるぞー。まず、山の小屋に住んでいる象のぬいぐるみ、それがさっき話した、よしぞうの息子だ。
 名前はちょっと忘れちまったが、父ちゃんが住んでた小屋にそのまま住み続けているんだと。
 んで、実はその小屋の後ろに泉があるんだけど、それが入れたものを大きくすることができる泉なんだ。
 ただ、入れるだけだとストローの穴がふさがっちまうってわけで、丁度いい力具合で息を吹きこんでやる必要があるんだけど、これが難しいんだよな。
 よしぞうがやり方を見つけてくれて、それを息子に伝えてくれなかったら今も山を登り降りしないといけなかったぜ。」

 「よしぞうさん、すごいねぇ…。僕、体が小さくなる泉は広場前のネズミのネズーさんが管理してるってことは知ってたんだけど、まさか大きくなる泉もあったなんて知らなかったよー。
 しかも、ただ泉に入れればいいってわけじゃなくて、穴が塞がらないようにするにはどうしたらいいのかってしっかり考えて実行して、みんなに広めてって、、、。とてつもない人だね!!!」
 「だよなぁ。そんなとてつもない人の息子だからよ、今度会ったら人間世界みたいに色付きのストロー作れないか聞いてみよっかな〜。
 目がチカチカするからって茶色のストローらしいけどよ、土と同化して転びそうになるから、一部分に色つけてもらおうぜ!」
 まんじろうとハルさんは、昨日見つけた赤と緑色のストローをブンブン振り回しながら、楽しそうに話していた。
 ぬいぐるみの世界で色付きストローが流行るのもそう遠くはなさそうだ。


 「てか、まんじろう。野菜運びで変わったこともたくさんあるし、もしかしたら色付きストローもこれから新しくできるかもしれないけどよ。変わらないこともあるんだぜ?」
 「え?何だろう、、、。」まんじろうは、緑色のストローを床に置いて、真面目に考えていた。
 するとハルさんは、赤いストローをまんじろうの緑のストローの側にすっと優しく並べた。
 「近所に野菜を配る時は、しっかりと手渡しで立ち話を楽しみながらやってるんだ。これは昔も今も変わらない。
 これだけはこれからも変わらないでいて欲しいよな。」
 「そうだね。ハルさん。これからもみんなと仲良くしていきたいよね!!」
 まんじろうは、ハルさんが並べた赤色のストローと自分の緑色のストローを持ち上げて、にっこりと笑ったのだった。

「変わったものと変わらないもの」
終わり

 

 
 

 

 

 

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