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探偵そばくん4

↑1つ前はこちらです✨

 こうしてハルに加えて鍵を管理してくれるうさぎのゆめちゃんが加わることになり、そばくん達のナゾを追いかけた冒険はよりワクワクするものとなった。
「そろそろせんじろう君とお仕事交換の時間だから、それまで少しだけ待っててくれるかな?」
 受付ぬいのお仕事は誰かと交代で行っていて、今日の午後2時からはうさぎのせんじろうが担当になっている。しばらくするとネズーさんのいる受付ぬい休憩室に、間に合ったー!という明るく大きな声が聞こえてきた。せんじろうは時間ギリギリに約束の場所に現れることが多く、ゆめちゃんもハラハラすることがよくある。
「せんじろう君!おはよう!間に合って良かったよ……。久しぶりにちょっとドキドキしたよ!もう!」
 ゆめちゃんはせんじろう君に可愛らしい苦情をサラッと伝えると、そばくん達に関連する事情を詳しく伝えた。
「なるほどね!それなら早く行かなくちゃ!初めましてのハルくんともっとお話したかったけどね!」
 せんじろうはそう言ってハルを見るとニカッと笑った。
 こうしてAの部屋に向かう準備ができたそばくん達はネズーさんに鍵を渡してくれたことと、おにぎりをごちそうしてくれたことへのお礼を伝えた。
「そんなそんなお礼だなんて……、ゆめちゃんの気持ちを聞いて応援したいなって思っただけだよ。そうだ!Aの部屋に行くのだったら、このランタンを持っていくといいよ。Aの部屋は普段暗くしているからね。足元を照らして安心できるように。」
 そばくんがランタン持ちを引き受けると、ネズーさんがぽわっと優しい光を灯してくれた。その光はそばくん達を守ってくれるかのように足元から頭の先までを照らしている。ネズーさんからのありったけの優しさと共にそばくん達はAの部屋へと向かった。


 時刻は午後2時10分。Aの部屋の前には扉を見上げているペンギン2匹とうさぎ1匹がいる。2時間前は親を待つ子のように不安そうな表情を見せていたそばくん達も、今ではゆめちゃんが仲間に加わったことで柔らかい表情になっていた。

「そばくん、それじゃあ今から開けるけどちょっとランタン借りるね!あと、ちょっと鍵を開ける瞬間は見られちゃいけないから、そばくん達はくるっと後ろを見てて貰えるかな?」 
 そばくん達は、はーい!と言うとくるっと後ろを向いた。目の前にはAの部屋の対であるBの部屋の扉がある。Bの扉には蜜蜂のモチーフが描かれてあり、扉も淡い黄色で塗られている。
 そばくんはハルにBの部屋について聞いてみようと口を開けたが、同時にゆめちゃんが扉を開け終えていた。
「これでばっちり!それじゃ、行こうか!そばくん!ハルくん!」
 ランタン持ちのそばくんを先頭に、鍵持ちのゆめちゃん、後ろは任せて!と意気込んでいたハルくんの順番でAの部屋に入っていった。
 Aの部屋の中はネズーさんから言われていた通り真っ暗で、ランタンがなければ歩いて進むのは困難だった。
 その部屋の暗さはそばくん達の様子を伺っているかのようにランタンの光を避けてじっとりと黒く広がっていた。
 Aの部屋に植えてあるりんごの木を目指しながら3匹で話しつつ歩いていると、ランタンの光に反射して何かがキラリと場所を示すのが見えた。
 それは自分を見つけてもらう手段としては完璧で、そばくん達の興味を引くには充分だった。
「あれ?そばくん、今何か光ったよね?」
 ゆめちゃんがひょこっと横から顔を出し、そばくんの視線の先を指差した。
 ゆめちゃんの後ろにいたハルは、どこー?と言いながらゆめちゃんとは反対側からひょこっと顔を出した。
 先ほどまでキラッと輝いていたその場所は今ではその姿を隠すように、周りと同じ重い暗闇に姿を隠してしまっている。
 3匹はワクワクしながらも、不気味な雰囲気を拭い去るようにポテポテと小走り気味にその場所に向かった。
 到着するとそこは目的地であるりんごの木の下だった。周りはりんごの甘い匂いが立ち込め、上を見上げると匂いの元であるツヤツヤとした赤いりんごが実っている。
 りんごの木の周りはぬいぐるみ10匹ほどで休めるほどの大きいベンチがあり、ベンチから木の中心部までは土で覆われていた。
 そばくん達はその大きいりんごの木の周りを手分けして探すことにした。そばくんはベンチの下を、ゆめちゃんは周辺の床を、ハルはりんごの木周辺の土を探している。
「そばくーん、何かあったー?床には何も落ちてないみたいだよー」
「こっちもベンチには何も置いてなさそうだよ」
 ゆめちゃんとそばくんが探した結果を大きな声で教えあっている。その声はAの部屋の暗闇に木霊し、部屋全体を覆いつくした。
 それはまるで3匹が深い森の中にいるようだった。そして、その響き方は先ほどまで忘れかけていた不気味さを思い出させ、そばくんとゆめちゃんは怖くなりぎゅっと身を寄せ合った。  
「ランタンがあるとはいえ、ちょっぴり怖いね」
「そうだね。やっぱり普段は入れない部屋だからいつもと様子が違ってより不気味だね」
 暗闇を前にすっかり立ち止まってしまった2匹は何も見つからないことで声からキラキラがなくなっていた。
 そばくんはいつもの眠そうな顔に近付き、ゆめちゃんはいつものまったりした雰囲気になっている。しかし、このまま何もなく終わってしまうかもと思っていた2匹に後ろから大きな声が急に覆いかぶさってきた。
「あった!あったよーーーーー!!!そばくん、ゆめちゃん!こっち!こっち来て!」
 そばくんとゆめちゃんが後ろを振り返ると、りんごの木の後ろにいるハルの小さい手がこっちこっち、と2匹を呼んでいる。
 ハルが見つけたのは土に埋まっていたお菓子の空き缶だった。その缶をカパッと開けると1つ目のナゾが書かれていた封筒と同じものが中に入っていた。
「半分土に埋まってたんだ、缶の色も土と似てて見つけにくかったよ」
 ハルは缶の中を覗きながらそう伝えた。そばくん、ゆめちゃんもハルと同じく缶の中を見ている。キラッと輝いたのはこの缶で、半分土に埋まっていたためにランタンを照らす角度によっては光が届かなかったのだろう。そばくんは缶を覗きながらそう思っていた。
「早速見てみようよ!」
 ゆめちゃんはAの部屋に入る前の明るいキラキラした目でそばくんを見た。
 声も第1のナゾをぬい休憩室の小部屋で話した時のようになっている。そばくんは缶を見つける前の眠そうな雰囲気ではなく、今から出会うナゾを見通しているかのような澄んだ目で封筒を手に取り、見つめている。
「そうだね!じゃあ開けよう!ハルくん、ランタンをお願い!」
 そばくんはハルにランタンを渡すとそっと封筒を開けた。その中には厚紙が2枚入っている。

 今度の厚紙には4つのアルファベットと最終目的地が示されていた。1枚目の厚紙は指定された解き方で答えを導き、さらに暗号のような言葉を解読する必要がある。それらの厚紙をじっくり見ていたそばくん達はとあることに気が付いていた。
「そばくん、すみかにて待つよって書いてあるから、これ街のどこかってことだよね!結構なヒントじゃないかな!!」
「とは言っても、この街全てを回るのは難しいからナゾは解いていかないといけないね」
「ちなみにそばくん達、都道府県って分かる?私、よく分かっていないんだけど」
 ゆめちゃんがそう質問すると、そばくん、ハルは首を横に振った。つまり、都道府県とは何なのかを調べなくてはナゾを解くこともできないのだ。
 そばくんが、かいぬしと暮らし始めたのは1年前で、まだ知らないことの方が多かった。
 では、物知りなぬいに会いに行こうと街中を探そうとすればいいのかというと、ピンポイントで地図に詳しいぬいを探すのは時間が掛かりすぎる。
 それにもし、その詳しいぬいに出会えたとして、ただ『都道府県とは何か』に答えてくれるような感じはしない。きっと、それらに関する詳しい話までしてくれるだろう。
 そうなると今晩、そのぬいとお泊まりをしなくてはならず、ナゾに向き合うのは明日の朝になってしまいそうだ。
「もしかして、Mの部屋だったら何かヒントがありそうじゃない?それこそたまたま詳しいぬいがお話してて、記録が残っているかもしれないし、それなら頑張って詳しいぬいを探し回る必要もないんじゃないかな?」
 3匹が探しに行くかどうかを話し合っていた時にハルが両手を合わせてポフっと胸の前で叩き、思いついたことをそばくんに向けて言った。左右に揺れていたそばくんはハルのその考えを聞いた瞬間にピタッと止まった。
「Mの部屋の噂、今なら試せるかもしれない」
 そばくんはハルの考えから頭の片隅にあったことを思い出し、ハルとゆめちゃんの手を握り、よし、行こうとはっきり答えた。そばくんの目はまたキラキラと輝いている。



 Mの部屋の噂。それは、部屋が生きているのではないかというものだ。誰もいないMの部屋の扉を3回叩いて探したい本をドアノブに向かって呟くと、部屋の1番奥のテーブルにその本が置いてあるらしい。その不思議な出来事が噂となってぬいぐるみの間で広まっている。
 そばくんはそのことをぬい世界の噂をまとめた本で目にしていた。そばくんはそれを試すことができるのが楽しみで、先ほどからMの部屋の扉前でソワソワしている。
「というわけで、早速やってみるよ!」
 そばくんはハルとゆめちゃんにもその噂の説明をすると、三回扉を叩き、Mの部屋のドアノブにくちばしを近付けた。
 Mの部屋に誰もいないことは受付ぬいのゆめちゃんに、せんじろうくんからの連絡で確認済みだ。後は探し物を呟くのみ。
「都道府県に関わる本を探しています。知りたいことが見つかりますように」
 そばくんがそう呟き扉から部屋に入ると、後ろでパタンと閉じられた扉から「コンコンコン」と鳴り、それはまるでそばくんの呟きを理解しているようだった。
「そばくん!ハルくん!見て、あそこ!本が置いてあるよ!」
 ゆめちゃんがいち早く本に気が付き、3匹はポテポテと本の置いてあるテーブルに進んだ。そしてテーブルに着くと椅子に座り、Aの部屋で見つけた厚紙を並べた。本の表紙には『飼い主が良く話していること』と書かれてある。
「これ確か、2年前だったかのテーマだよ。そばくんの言う通り、知っているぬいを探しに街を歩いてたらきっと今日中には見つからなかったね」
「早速見てみよう。目次があるはずだよ」
 ゆめちゃんがそばくんの判断が良かったことに安心し、そばくんもほっとしたような顔をして本を開いた。
 本は100ページほどにまとめられており、目次には『朝ごはんの話』『お仕事の話』『学校の話』など、ぬいぐるみの飼い主の日常が興味深いジャンルとして取り上げられていた。
 そばくんがパラパラと本を読み進めていた所、気になるページが3匹の目に入ってきた。
 そのページは学校に通っている飼い主が家でテスト勉強をしていて、ノートに都道府県の名前を書き続けていたという内容だった。
 そのぬいぐるみは飼い主のテーブルに乗せられていたため都道府県の地図を覚え、実際に描いてみたという。その地図が見開きで記されている。
「見つけた!分かりやすい振り仮名もあるよ!ハルくん、この地図からナゾの答えに当てはまるものを探してくれない?ぼく、次のナゾを解き始めてるから!」
 そばくんは、任せてよ!と言うハルに都道府県探しをお願いしてゆめちゃんと共に次のナゾについて考え始めた。

 続く

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