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勝手な気配りは、見直したほうがいいのかもしれない。~母子と姉妹の関係~ 父のこと①

#20240907-465

2024年9月7日(土)
 ここ数日、手のひらが痒い

 「臨時収入があるかもね」
 笑みをふくんだ母の声が聞こえるようだ。
 おまじないというか、ジンクスというか、根拠はないし、臨時収入があってもなくてもその信憑性を問うこともないのだが、母は自分が痒くても、家族が痒くてもそういった。
 手のひらに湿疹はない。痒さは軽い。だから十分こらえられる。
 今は臨時収入なんてほしくない。

 父の容態が悪い。
 知ったのは、おとといだ。
 ささやかな首の腫れが発端だという。痛みも痒みもないそれを定期健診に行った近所の内科医に尋ねたら、都心の総合病院で検査することになった。そこで検査が続き、そうこうするうちに手術することになった。
 目下、手術の影響で父は高熱を出している。軽度らしいが新型コロナウイルスの陽性反応も出たため面会はできない。
 今、私は家でノコ(娘小5)の相手をしながら、父のことを祈っている。

 母は会えても会えなくても父が入院する病院へ通っている。
 暑さも少しはやわらいだものの、まだ日中は暑い。北国育ちの母は暑さに弱く、毎年夏になると友だちに「秋までさようなら」と宣言をするほどだ。
 そんな母が連日父の顔をひとめでも見られればと病院に足を運んでいる。
 母がつぶやく。
 「パパには家に帰ってきてもらわなくちゃ」
 いつもはほくほくする手のひらの痒みが、今はなんだか怖い。

 私には妹が1人いる。
 仲違いをし、ここ10年以上会っていない。
 母を通して、会うことはもちろん連絡を取ることを拒否された。あいだに立った母も理由はよくわからないという。
 いや、いいたくないだけかもしれない。
 特に仲のよい姉妹ではなかったが、そこそこの関係は維持していたので、当初はそこまで拒まれることに納得がいかなかった。だが、私自身、妹と距離を置くほうが気楽なので自分にとっていいように受け取った。
 会わなくていいのなら、連絡を取らなくていいのなら、むしろ好都合ではないか。
 母は母で自分の育てかたが悪かったのかと悔やんでいるようだが、血の繋がった姉妹とはいえ、わかりあえないものはわかりあえない。
 別に母のせいではない

 父のことを知ったおとといの晩、母から電話が入った。
 父の容態を妹にも伝えたら、日頃あまりフットワークの軽くない妹が翌日見舞いに行くといったという。母としては予想外のことだった。すでに私たち夫婦も翌日伺うことを母にいってあった。
 母が妹に病院で私とはち合うかもしれないと告げたら、妹はどうもそれは嫌らしい。
 「というわけだから、明日お見舞いにくるの、お姉ちゃんは遠慮してくれない?」
 正直なぜ私が遠慮せねばならないか、と思う。
 「パパのことで大変なときに、姉妹あなたたちのことで気をもみたくないのよ」
 母にそういわれると、私は弱い。
 「じゃあ、お父さんに私もお見舞いにきたがっていたけど、遠慮させたことはいってね」
 「それはいうわよ。お姉ちゃんもすぐお見舞いに行くっていったって」
 お見舞いに先も後もないかもしれないが、父に会いに行けないもどかしさを母にぶつけてしまう。
 「いえないかもしれないけどさ、もしいえたらさ」
 妹に「お姉ちゃんもお見舞いに行きたいといったけど、あなたが嫌がるから遠慮してもらった」と伝えてほしいと私は母にいった。
 「それはいえないわ
 母が当たり前のようにすらりと返した。

 いえないんだ。
 我が実家に深く根付く妹に対する配慮を私はどうも理解できない。

 仲違いをする前に、妹が私にいった言葉がよみがえる。
 「別に頼んでない
 そうなのだ。
 妹は「あれしてくれ」「これしてくれ」と具体的に頼むわけではない。
 「あれできない」「これできない」といって泣いたり、怒ったりして騒ぐので、つい母が手を貸してしまうのだ。そして、母に負荷がかかることを見かねた私が「妹を」助けるのではなく、「母を」助ける意味で手伝ってしまう。
 母は「お姉ちゃんがいてくれて助かったわ」という。
 そうなのだ、母にはたくさん礼をいわれた記憶はある。
 だが、妹が絶縁する前に吐いた「別に頼んでない」という言葉を思い返すと、妹は姉ではなく、「母に助けてもらいたかった」のかもしれない。
 いや、そもそも怒って嘆いて吐き出したかっただけで、実際にはだれの助けも不要だったのかもしれない。
 今は、もう、わからないが。

 今回の父へのお見舞い日を妹と重ならないようにする気配りももしかしたら見当違いなのかもしれない
 母に承諾してからふと思う。
 妹は私とはち合うことを「嫌そう」だっただけで、実際私と会うことを拒んだわけではないのかもしれない。会いたくないけれど、こういう状況ゆえ、はち合うのは致し方がないと納得していたのかもしれない。
 母が勝手に妹が嫌がる状況を避けようとしているだけで、「お姉ちゃんと会いたくないから、お姉ちゃんは違う日にして」と母に願ったわけではないのではないか。
 私が将来「あのとき、あなたが嫌がるからお見舞いに行けなかった」と妹に恨み言を吐いても、妹は「そんなこと、私は頼んでいない」というのかもしれない。

 母と私の妹への気配りは、もしかしたらあさっての方向を向き続けていたのかもしれない。
 だからといって、妹と即和解できるとは思えない。
 感情の起伏が激しい妹と距離を置くことは、ある意味、私の暮らしが平穏にもなる。
 仲よくしたいわけではないが、妹への配慮は変えたほうがいいのかもしれない。

 当初のお見舞い日は、父の新型コロナウイルス陽性反応のため面会謝絶となり、実現しないでいる。
 手のひらはまだ痒い。

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