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事前通達は万能でないとたった1日で思い知る。

2023年3月31日(金)
 昨日に引き続き、今日もノコ(娘小3)と2人きり外出に挑む。
本日のイベントは映画だ。
 そして、私は事前にしてほしくないことをノコに伝える重要性を習得済み!

 大型ショッピングモール内にある映画館シネコンに向かう電車のなかで、ノコにいう。
 「ポップコーン買うけど、今日はパパがいないから半分だけね」
 むーくん(夫)がいれば適当につまんで、ノコが食べる量を調整してくれるが、今日は2人きりだ。ポップコーンが苦手な私はそれができない。
 「残りはどうするの?」
 「ビニール袋に取っておくよ。映画が終わったらお昼ご飯だから、ポップコーン全部食べちゃうとお昼が入らなくなるでしょ」
 「残ったのはいつ食べる?」
 「お昼を全部食べられたら、3時のおやつにどうぞ」
 不満げな顔にホッと安堵が浮かぶ。

 15分前に映画館到着。トイレを済ませ、ノコ待望のポップコーンを買う。サイズはS。それでも直径がノコの顔より大きい紙製の容器に山盛りだ。
キャラメルの甘い甘い匂いが漂ってくる。
 「食べていい?」
 まだロビーだが、ノコは強烈な匂いを前に我慢ができない様子だ。ビニール袋に半分取り分ける。
 「そんなに…」
 力なくノコはそうつぶやいたが、事前に通達していたおかげで「ヤダとはいわなかった
 あぁ、事の前に伝えることのありがたさよ!

 自分用にコーヒーを購入して、ポップコーンをむさぼるノコのところに戻ると、すでに紙底がのぞいている。
 「はじまる前にそんなに食べちゃったの」
 「もっと食べたい
 まるで日頃おやつも食事もないかのような勢いだ。パクパクと口に運ぶというより、ザザッザザッと口に流し込んでいる。噛むではなく、飲む。
 シートに座るまで食べるのを待たせたほうがよかっただろうか。いや、あの甘ったるい匂いを前にノコは待てやしない。
 スマートフォンスマホに表示した2次元コードのチケットをピッと読み取らせて、ノコとシアターに入る。
 「もっと食べたい」
 ノコがもう一度いう。
 「お昼が入らなくなるから、残りは3時のおやつっていったでしょ。食べられないわけじゃないよ」
 「少な過ぎだよ」
 シートに向かう大人たちはノコのSサイズに比べたら、特大といっていいくらいの容器にたんまりのポップコーンだ。ノコがうらやましげにポップコーンを目で追う。
 つい不憫ふびんになってしまい、取り分けた袋からその半分だけ空っぽのノコの容器に移した。残り4分の1。

 映画終了。
 ノコの希望通り、フードコートのたこ焼き屋で昼食にする。ノコは「お腹空いた」を連発し、たこ焼き1皿にコーラを頼む。
 アツアツのたこ焼きにいつもむーくんがしてくれるように箸で穴を開け、冷ましていく。慎重に食べ進むが、最後の1個で手が止まる。
 「ママ、お腹いっぱい
 まぁ、ノコにしては食べたほうだ。でも私も結構満腹だ。
 「半分、入らない?」
 「半分なら…」
 最後の1個を2人で半分こする。
 パクン!
 「ママ、ポップコーン食べていい?

 今、お腹いっぱいだといったばかりだ。最後の1個を半分こした意味はなんだ??
 ママだって満腹なんだから、ポップコーンが入る余地があるのなら食べてくれ。
 「今、お腹いっぱいっていわなかった?」
 「ポップコーンは入る」
 別腹っていうやつか?
 紙コップをのぞくと「飲みたい」といったのにコーラがちっとも減っていない。
 「ママもお腹いっぱいなのに半分手伝ったんだよ。ポップコーンが入るのなら全部食べてほしかったな。それにコーラもせめて半分は飲んでほしい。ポップコーンは3時ね」
 ノコはじろりとあらぬほうを睨み、腕を組み、足も組む。そして、嫌々なていでコーラに手を伸ばした。

 結局、そこからノコは機嫌を損ね、私に近付かず、返事せず。まるで磁石の同じ極のように私が近寄ると同じだけ離れ、一定の距離を保つ。こちらを見もしないので話しかけることすらできない。
 思わずため息が出てしまう。
 楽しく映画を観たのだから、それを楽しい気持ちのまま持ち帰る。ノコにそういう気持ちはないようだ。せっかくのお出掛けだったのに…

 無理に機嫌を取ることはない、というむーくんの言葉を思い出し、駅に向かう。視界の隅でついてきていることを確認しつつも振り返ることなく、すたすたと歩く。駅までの歩道は広く、桜並木となっている。花壇に咲く満開のチューリップは色とりどり。
 深く息を吸って吐く。
 あぁ、世はこんなに春爛漫らんまんなのに、私は怒りん坊を連れて歩くのか。

 駅の階段をのぼろうとすると、ノコが後ろから駆けてきて、私の手をパッと取って顔をのぞきこんできた。
 「ママママ、ママママ、あのねぇ、たこ焼きおいしかったねぇ」
 怒っていたことに対して一言もなし。ノコはまるでなかったように振る舞い、舌足らずの口調で甘えてくる。いいたくないが、これをお友だちにもしてしまうので「ノコってさ…」っていわれていることをノコは自覚していない。
 「ノコさん、さっきまであんなに怒った態度をしていたのにそれについては何もないの?」
 「…ごめんなさい」
 消え入るような声でいう。
 「残ったポップコーンは3時のおやつって、ママ、いったよね? 食べさせないとはいってないよ」
 「…映画館でほしいグッズがなかったのが嫌だったの」
 今、それをいうか。
 確かにグッズは売り切れていたが、そこで不機嫌にはならなかった。我慢していたのか。私にはポップコーンがらみとしか思えない。

 もっと頻繁に映画館に足を運びたいと思っているが、学校や習い事、コロナ禍もあって、結局長期休暇のときにしか行っていない。年3回程なのだから、その日はポップコーンは解禁、たとえ食事が入らなくても不問にしたほうが全員にとって楽しいイベントになるだろうか。
 あっという間に親ではなく、友だちや恋人、または1人で映画館に行くようになり、ポップコーンが割高だと気付くだろう。それでも映画にはポップコーンが大事と思うのならお小遣いで買うだろうし、いやいやそこは節約、我慢しようと思うようになるかもしれない。
 ノコと一緒に遊びに行けるのは、多分ほんの束の間。
 もう少しのびやかにやりたいことをさせて、楽しい思い出をたくさん作ったほうがいいのかもしれない。

 そして、事前に伝えることが効果的なのは、ノコにとって避けたい未来が想像できる場合に限るようだ。なんでもかんでも事前にいえばわかってもらえるわけじゃないらしい
 ポップコーンを残してもノコにとっては先延ばしされるだけで、嫌なことなんて起きないもんなぁ。

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