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ワタシは大人!

2023年3月22日(水)
 ノコ(娘小3)の面談のため、2人で児童相談所(児相)へ向かう。
 我が家から地区の児相まで片道1時間半はみたい。乗り換えの接続がスムーズにいき、早足で歩ければ1時間ちょうども可能だが、ノコを連れてだと難しい。

 今日から数日間、天気が崩れるはずだったが予報がずれた。
 青空が気持ちよい。
 今春は例年より桜の開花がはやく、もうあちこちで満開の桜の木を目にする。桜の名所が淡い桜色に染まるのはもう少し先になりそうだが、それも雨次第か。

 ノコは昨日のピアノの発表会で履いたヒールのあるツヤツヤ光る黒の靴で行きたい、という。今まで発表会のために買ったフォーマル靴は見事にその日限りで、発表会後にノコは履くといわなかった。発表会も済んだし、普段履きにしても支障はない。念のためスニーカーを持ってね、という。
 道中、足が痛いといわれても私はノコを背負えない。

 ノコはバスで、電車でシートに座れば、タップダンスのごとく靴裏を鳴らす。
 タカタカタカタン、タカタカタン、タカタカタタン、タカタカタン!
 「ノコさん」
 そういって首を振ると渋々やめる。
 嬉しいのはわかるが、静かな車内で耳につく。
 しばらくするとまた足が動き出し、私が首を振る。そのうち、ふてくされてしまった。

 あたたかく、ノコは半袖だ。私も長袖Tシャツの上にパーカーを羽織っているが、思わず袖をまくってしまう。
 電車を降りるとたまらなく冷たいコーヒーが飲みたくなった。水はあるが、コーヒーが飲みたい。私だけ好きなものを飲むのもなんだ。
 「ノコさん、ママ、コーヒー飲みたい。あなたも150円までなら好きな飲物選んでいいよ。でも、ササッと選んでね」
 そういって、コンビニエンスストアへ飛び込む。ノコを待たず、氷の入ったカップを購入し、コーヒーマシンにセットする。入るまでしばしかかるからだ。
 ノコが炭酸飲料のペットボトルを持ってきた。
 「時間がないから、あなたの〇〇(交通系ICカード)で買っちゃって。レジの人に〇〇でお願いしますっていってね」
 ノコが目を輝かせる。
 まだ改札を通るときしか使ったことがなく、ICカードでのお買物は憧れなのだ。私のコーヒーはまだ出来上がらない。
 「お店の外に出たところで、飲んでていいよ。ママもすぐ行くから」

 ノコはご機嫌だ。
 「ママママ、私、大人だよ!
 ノコとしては今日の髪型、服装はお姉さんっぽいらしい。
 ICカードケースも今日はいつものと違う。色鮮やかな紐でバッグではなく、首から提げている。それになんといってもヒール靴だ。自分でICカードを使ってお買物をしたのも最高らしく、手にペットボトルを持って歩くのも大人だという。
 足をクロスして立ち、私を斜めに見やる。大人っぽい視線のつもりだ。

 いいねいいね、早く大人になっておくれ!

 だが、あえて反対のことをいって、ノコを引き寄せ胸に抱く。
 「えええええ、そんな早く大人にならないでぇ。まだまだ子どもでいてちょうだい!」
 ノコがじたばたと私の腕から抜け出そうとあがく。
 「ヤダ、大人になる。すぐなる。今なる!」
 「そっかぁ… それは淋しいなぁ。あ、でもそうしたら、ママはパパと二人でデートしようっと」
 ノコが慌てて私の腕にぶらさがる。
 「ダメ‼ 私も入れて!」
 「だって、大人なんでしょ」
 「まだ子ども! 子どもだから私も入れなきゃダメ!」

 あたたかな陽射しが心地よい。
 児相までの道をノコと飲物を口に運びつつ、歩いた。
 声をあげて、笑いながら。
 ゆっくりでも、早くても。
 ノコのペースで大人になればいい。
 どっちみち半世紀生きた私には、泣いても笑っても毎日があっという間なのだから。

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