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今日の一冊 ~幻詩狩り~

写真は、2016年に国立新美術館で開催された、サルバトール・ダリ展
の作品「メイ・ウエストの部屋」(撮影フリー)。スマホの望遠で
撮影したのでピンボケ気味はご勘弁。
http://www.kids-event.jp/event/e6088/

サルバトール・ダリはシュールレアリスムの巨匠(?)だが、運動
の中心人物だったアンドレ・ブルトンからは、"Avida Dollars"
「ドルの亡者」と言う有り難くないアナグラム(文字の入れ替え)
のニックネームを頂戴している。

お題の「幻詩狩り」(川又千秋著)は、1984年に出版され、その
年の日本SF大賞を受賞している。初版本を所有しているが、36年
経た現在でもKindleで読める、不朽の名作である。個人的に
日本SFのベスト3を選べ、と言われたら迷わず本書は入る。
※他の2冊は、以下。
・小松左京「果しなき流れの果てに」
・光瀬龍「百億の昼と千億の夜」

冒頭のブルトンも重要人物として登場する。第一章は、そのアンドレ・
ブルトンが天才詩人フー・メイをパリのカフェで待つシーンから
始まる。物語はその詩人が創造した「幻詩」3編、なかでも最後に
登場する「時の黄金」を軸に展開される。

まず、その発想(創造力)。
読んだら(最終的には)死に至る文書(もんじょ)、というのは、
ラブクラフトのネクロノミコン、を彷彿とさせるが、少し趣きが
違う。特に3つの幻詩それぞれのサワリの原文(?)を出している
ところが凄い。詩としての出来不出来は良くわからないが、雰囲気
が伝わり、作者の詩人的素養がうかがわれる。この詩をめぐって、
物語が1940年代から2131年まで、パリ、ニューヨーク、東京、
火星にいたるまで展開される。

次に題材。
「シュールレアリスム」、という特異な芸術運動が背景で、事実
も相当踏まえており、本作に迫真性を加えている。文庫版の
あとがきで著者自身も、
「シュルレアリスト名鑑をぱらぱらとめくっていて、やたらと
自殺者が多いことに気付いたのが、執筆のきっかけとなった。」
と述べている。
http://www.webmysteries.jp/sf/kawamata0705.html
その原因を「幻詩」というフィクションでつなげた点がユニーク
である。

さらに抒情性。
シュールレアリスム(絵画)の作品は、ありえない場面を描いて
いるにも関わらず、何故か(懐かしい)、と思わせるような描写
となっているところが美点、と考えている。
※キリコ、デルヴォー、マグリット、ダリなどの作品
本書は、暴力的なシーンも含まれているが、全体として、SFという
ジャンルでシュールレアリスムを体現した作品、と言えるのでは
ないか。読み終わると「良い絵」を鑑賞した後に似た余韻が
感じられる。

数珠繋ぎ読書が常の私だが、何故か川又千秋の作品はほぼこれ
一冊しか読んでいない。あまりの完成度に他作品を読んで幻滅
したくない、という心理が働いているのかも知れない。それ程
の傑作でお勧めである。

お茶うがいの輪を広げてコロナを収束させたい!
https://note.com/from_free/n/n406bc5302094
https://note.com/from_free/n/n98097eb72720


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