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ARTとWell-beingの研究記事 その8:世界のアートとウェルビーイングに関する研究とは?

2019年の秋から若手医療チーム マチマニアさん
アートとWell-beingの研究会「UMUMアートラボ ART×Well-being」をスタートしました。
この研究会では作品制作や作品鑑賞、セッションなどを通して
Well-beingとアートの関係を考察しており
2020年も4月から、よりブラッシュアップした企画をお届けする予定です。

Well-beingとは、諸説ありますが
直訳すると「良くいること」=「精神の健康」を意味します。
近年サービスや政策において注目されている一方
現状ではWell-beingに明確な定義はありません。

このマガジンでは、医師をはじめ、研究者、美術教育家、医療系会社員など
個性豊かな研究会運営メンバーのそれぞれの視点&専門分野から研究記事を綴っています◎
これまで公開した記事も、ぜひ読んでみてください👇

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世界のアートとウェルビーイングに関する研究とは?カナダ・マギル大学による研究、モントリオール美術館にて「参加型アート活動、地域在住の高齢者と健康状態の変化:介入の前後比較、単一群、前向き縦断研究の結果」の要約レビュー

こんにちは、マチマニアのさやかです。
先日、大学院で行なっていた実践課題の最終版を提出しました。1年前、統計ソフトの使い方もままならないところから、なんとか量的研究の結果を出し、完成させました。これでしばらくは、時間を気にせず色々な美術館に行けると思うと嬉しいです◎


さて、今回紹介する研究は、2018年にカナダのモントリール美術館で開催された参加型アート活動とその効果について、今年1月に報告されたものです。

近年、アート活動への参加と健康アウトカムの相関を分析する研究が増えています。これは、アートに限らず、集団で文化活動をすることが健康状態の向上に影響するという研究が数多く報告されていることと関係がありそうです。

実は、この研究結果を受けて、世界10カ国(カナダ、英国、フランス、スイス、イスラエル、アメリカ、オーストラリア、日本、シンガポール、台湾)の美術館で同様の実験が行われているようです。日本では2019年5月〜8月に東京富士見美術館で研究対象者の募集がありました。
ヨーロッパ、中東、アメリカ、オセアニア、アジアと異なる地域では、アートに対する人々の姿勢や関心も異なるのでしょうか。
同じアートプログラムによっても、地域が違えば健康アウトカムの変化は異なるのでしょうか。
国によってどのような違いがみられるのか、今から研究結果の報告が楽しみです。

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研究内容


【研究タイトル】
参加型アート活動、地域在住の高齢者と健康状態の変化:介入の前後比較、単一群、前向き縦断研究の結果

【注目すべき点】
・参加型アート活動は、患者のウェルビーイングとQoLを向上させる。
・美術館は、革新的なアート活動を提供することで、地域住民に対するアート活動を積極的に促進している。
・地域在住の高齢者に対するアート活動の効果を調べた研究はこれまでほとんど無かった。
モントリオール美術館の参加型アート活動は、ウェルビーイングとQoL、健康状態を向上させた。
・美術館は、高齢者を対象としたヘルスプロモーションに関する医療政策を主導する上で、中心的なパートナーとなる可能性がある。

☆ここからは要約です
【背景】
参加型アート活動は、患者のウェルビーイングとクオリティ・オブ・ライフ(QoL)を向上させる。地域在住の高齢者に対する参加型アート活動の効果を調べた研究はこれまでほとんど無かった。
この研究の目的は、ウェルビーイング、QoL、フレイル(加齢による心身の脆弱性)の変化と、モントリオール美術館で地域在住の高齢者を対象に行われた「木曜日は美術館へ("Thursday at the Museum”)」との名称で知られる毎週開催の参加型アート活動との相関を調べることだ。
介入前後比較、単一群、前向き、縦断的な研究デザインを基に、130人の地域在住の高齢者(平均年齢71.6歳(標準偏差4.9)、女性が91.5%)がこの実験的な研究に登録され、完遂した。
介入は、モントリール美術館で行われた参加型アート活動であった。
週一回、1.5時間、参加者は30〜45人のグループで参加した。
第1回目(M0)、5回目(M1)、9回目(M2)、12回目(M3)のワークショップ前後でウェルビーイングが評価された。
QoL、フレイル、かかりつけ医への受診、入院の有無も評価された。
(※研究方法の詳細については下記画像を参照)20200131_カナダの研究レビュー画像1

20200131_カナダの研究レビュー画像2

【結果】
ウェルビーイングスコアの平均値は、ベースラインと比べると、ワークショップ参加後に(つまりM0からM3にかけて)統計学的に有意に上昇した。
ウェルビーイングにおけるこの変化の大きさは、M0時点を対照とした時に有意であった(回帰係数β=3.11)。
QoLもM1からM3にかけて有意に上昇した(回帰変数-0.50から-2.1)。
活気ある参加者の割合は有意に増加し、中等度にフレイルな参加者の割合はM3のみで減少した(回帰係数-0.70)。

【まとめ】
モントリオール美術館の参加型アート活動は、心身の健康アウトカムに多面的な好ましい効果をもたらした。この結果は、美術館が高齢者を対象としたヘルスプロモーションに関する医療政策を主導する上で、中心的なパートナーとなる可能性を示唆している。

*原文中のp値はすべて0.05以下であり、有意とみなして省略しています。
*研究本文はこちら

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今回調べて最も驚いたのは、すでに日本を含めて10カ国で同様の研究が行われているということです。
国際的に、他施設(しかも美術館!)でアートと健康の相関を分析した研究はこれまでにほとんど無いとのこと。
日本国内でも継続的にアートワークショップを行っている団体は数あれど、アカデミックな観点から健康との相関をみている研究はほとんど無いのではないでしょうか(以前に紹介したWHOのレポートでは、日本から音楽療法に関する研究がいくつか参照されていました)。

すでに効果的なアート活動、ワークショップを行っている方たちにとっては、この研究はどのように映るのでしょうか。
もちろん、アートを「健康」や「効果」などで測ること自体に違和感を覚える方も少なくないと思います。

しかし個人的には、自分たちの取り組みが実際に参加者のウェルビーイング向上に貢献していると客観的な視点で知れる良い機会になると思っています。あるいは、研究として客観的な「効果」を示すことの最大のメリットは、アートによる住民への好影響を自治体や企業にアピールし、経済的支援を得るきっかけになることかもしれません。

今回は要約だけのレビューになりましたが、また色々と読んでいこうと思います。せっかく統計学や臨床研究の実践について大学院で学んだので、いずれこのような研究にも関わる機会があれば良いなあ…


<研究会について>

アートとWell-beingの研究会
UMUMアートラボ ART×Well-being
次回は2020年4月に開催予定!
対象:医療福祉従事者、医療従事者
「Well-being」に興味のある方
「健康」と「アート」の考察を深めたい方
✴︎アート、医療関係以外の方も、テーマが気になる方は大歓迎です!
これまでの企画詳細はこちら👇

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