『おかしのまちのおかしなはなし』作者・いわさきさとこさんってどんな人?③おかしのまちの住人との出会い
いわさきさんの連載、折り返して第3回目となりました。
第2回までは、絵本作家を目指す前後のお話をたくさんお伺いしました。
第3回は、ついに『おかしのまちのおかしのはなし』の制作過程にせまります。
絵本を知ってくださっている方は、ぜひ絵本を手元に、ページをめくりながらご覧ください!
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受賞後の葛藤と、フレーベル館との出会い
第36回 日産童話と絵本のグランプリ大賞受賞以降も出版社に新しいお話のラフを出したりしていたのですが、この時期は葛藤がありました。
大賞をとった場合は出版が確実なんですが、2作目以降が出版できるかは未定なんです。
だから、進みそうで進まない、前が見えない状況がとてもストレスでした。
待ちの姿勢は自分に合っていないなと思って、とにかく攻める姿勢で、それからはどれだけ賞に応募できるかの挑戦をしました。
フレーベル館が共催している、武井武雄記念 日本童画大賞もそのうちのひとつ。
もともと松丘コウさん※の優しい画風が好きで、松丘さんがこの賞の受賞者だと知ったのがきっかけで応募しました。
とにかくいろんな賞に出しまくっていたので、実は応募要項を細かく覚えておらず…(笑)
日本童画大賞の受賞発表当日、見覚えがない番号からの電話が何度もかかってきたんですが、受賞者発表の日だということをすっかり忘れていて。
誰か分からなくて怖い!と思って、最初は電話をとらなかったんです。
それでも何度もかかってくるので、もしかして、と思って応募要項を見返したら、ちょうど連絡が来る日ぴったりだったんです。
夕方またかかってきた電話をやっととったら、なんと「大賞です」って。
電話に出ていなかったら、危なかったですね。。
※松丘コウ:『バジとあかいボール』『バジとばじくん』(フレーベル館)作者。第35回日産童話と絵本のグランプリ絵本大賞受賞(いわさきさん受賞回の1つ前)。『バジとあかいボール』は、第10回(2020年)日本童画大賞絵本部門大賞受賞。
いつもとは違う作り方に挑戦
日本童画大賞の応募作だった『おかしのまちのおかしなはなし』は、ようやく楽しくお話が作れたな、と実感できた作品です。
いつもはお話から先に考えるんですけど、これははじめてキャラクターから先に思いつきました。
おやつにどら焼きを食べていて、どら焼きのイラストを描いてみようと思って。
そしたら意外といいキャラクターができたから、どんどん増やしていって、性格も一緒に決めていったんです。
その作り方が自分に合っていたのかすごく楽しくて、いいのができたなという感覚があったから、入選できるとうれしいなと思っていました。
実は、応募当時の作品では○○でした【ネタバレあり】
『おかしのまちのおかしのはなし』は、和菓子と洋菓子がケンカばかりしているお菓子の町が舞台。そこに見知らぬだれかが引っ越してくるんですが、その正体は、たま・たまおさん!
お菓子の材料として大活躍、みんなが知っている卵です。
最終的に住人たちを仲直りさせ、この作品のカギとなるたま・たまおさんですが、実は応募当時の作品では、たまごじゃなくておいもだったんです(!)
おいもで考えようと思ったきっかけは、娘の保育園であったおいも堀りでした。
その園にはいろいろな国の子どもが通っているんですが、人と関わっていくうえで、子どもたちにとっては人種って関係ないんですよ。
おいも掘りから保育園に帰ってきて、みんなで仲良くしている姿を見た時にすごく感動して、子どもの方が本能的に大切なことを知ってるなと思って。
そのエピソード(おいも堀り)から着想を得てこのお話を描きたいと思ったので、たま・たまおさんの登場シーンは、最初はまとっているアルミホイルをめくったらおいもだった、という展開にしていました。
ただ、それだと秋の季節絵本のように捉えられてしまうし、もうちょっとお菓子の材料として汎用性の高いものにしよう、ということで担当編集さんと話し合って、たまごに変更になったんです。
でも、以前書店でのイベントでこの話をしたら、おいもバージョンも見たいとの声を多くいただいて。
だから、特別に公開しちゃいます!!
結局、 このおいもキャラの他には大幅な変更はしていないですね。
ただ、もうちょっと、和菓子と洋菓子の仲直りするシーンを丁寧に描いたほうがいいんじゃないかという懸念点はあって。
「なんでお互いの良さに気づくのか」といったところをもっと具体的に表現しようと考えて試行錯誤したんですが、今度は和菓子と洋菓子の対立が薄まってしまい…。
元々のおもしろさが崩れてしまったので、結果的に原点回帰というかんじになりました。
出版までかなり紆余曲折はありましたが、その過程はそこまで辛くなかったですね。
ラフ※を描くのは好きなので。
何回描き直しても本番じゃないから、気楽に描けて好きなんです。
※ラフ:絵本になる前のアイデア段階で描かれた、下書きやスケッチのこと
”受賞”という結果がもたらしてくれたもの
受賞するまでは、ずっと自分の作風に自信がなかったんです。
でも、新たな作風にチャレンジしたものが受賞できたということで、自分を素直にさらけ出したほうがいろいろな人に受け入れてもらえる、ということを実感しました。
自分が目指していた“きれいな絵本”とは違うけれど、だからこそ自分らしいユーモラスなものを評価していただけてうれしく思います。
今思えば、気取って描いたものは「皮被ってるな」「誰かの真似してるな」と見透かされていたのかもしれませんね。
その皮を脱ぎ捨てたほうが伝わるものはあるんだな、と。
今回のお話はいかがでしたか??
受賞当日のエピソードや驚きのキャラクター秘話など、盛りだくさんの内容だったのでは…!
すでに絵本を読んでくださってる方も、はじめて知った!という方も、この記事を読み終わった後にページを開きたいと思ってくださったらうれしく思います。
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第3回までお届けしてきたいわさきさんの連載でしたが、なんと次回が最終回となります…(涙)
最後はいわさきさんが絵本に対して考えていることをじっくりお聞きしてきました。
次回も楽しみにしていただけたらと思います!
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