【フードロス・子ども食堂・貧困】読み物『アゲイン』に込められたもの
みなさん、こんにちは。いなおかです。
みなさんは、「フードロス」という言葉を聞いたことがありますか?
「本来食べられるのに食品を廃棄してしまうこと」を「フードロス(食品ロス)」と言います。
では「子ども食堂」や「フードバンク」という取り組みを耳にしたことは?
これら「食」にまつわる課題や取り組み、そして深く関わりのある「貧困」をテーマとして書かれた読み物『アゲイン』を紹介して、
これらの内容についても少し触れてみたいと思います。
実は身近なお話
これからの季節、どんどん寒くなってくるので温かいものが食べたくなりますね。
お鍋なんて野菜をたくさん食べられるし、比較的簡単に作ることができるし、ぴったりでしょう。
白菜はマストで入れたいし、きのこも種類があって素敵!
大根や牛蒡などの根菜も合うし、あとはお肉かお魚か、
締めはやっぱりうどんかな〜なんて考えながら買い物をしていると
思った以上に買いすぎちゃった。。。
数日後、使いきれなかった食品の一部が冷蔵庫の奥の方からコロリと出てきて、「あぁ、ちょっとしなびちゃっているや」なんて経験、みなさんありませんか?
正直に言えば私は何度も経験しています。
自分では食べてしまいたいと思っていても
家族のために作るご飯だと使うのをためらわれて…(言い訳ですが)
その度に「ごめんなさい」と思いつつ、その食品をゴミ箱へ。
これがまさに「フードロス」の一つと言えます。
農林水産省及び環境省「令和3年度推計」によると、日本のフードロスは年間523万トンもあったそうです。
家庭から出る廃棄だけではありません。
販売期限が切れてしまったコンビニのお弁当、
使われなかった飲食店の食材、
規格に合わなかった農作物など、
捨てられてしまう食品というのは
私たちが想像している以上に多くのところから発生しているのです。
「貧困」と「フードロス」
そして、同時に考えないといけないのは、これほどまでに多くの食品が捨てられているにもかかわらず、
貧困のため「食べたいのに食べられない」人が多くいるという現実です。
OECD(経済協力開発機構)によると、2023年現在日本の子どもたちの約7人に1人が貧困状態にあるとのこと。
参考:https://www.oecd.org/tokyo/statistics/poverty-rate-japanese-version.htm
このような「フードロス」や「貧困」の課題を解決しようと、「子ども食堂」という活動が約10年前から拡がりを見せています。
その定義はさまざまで
「子どもたちが安価でご飯を食べられる場所」
「子ども一人で利用でき、地域の人々が食事を提供する場所」
などありますが、
どれも「お腹を空かせている人々のために」という思いを持っていることは確かだと思っています。
また「フードバンク」もフードロスをなくすための取り組みの一つです。
食べられるのに捨てられてしまう食品を譲ってもらい、
それを必要とする人や施設に届ける活動のことを言います。
これは、農家や食品企業、飲食店などから商品を提供してもらう活動で、
家庭から食べきれない食品を集める「フードドライブ」という活動を行うこともあります。
前置きが長くなってしまいましたが、
「フードロス」
「貧困」
「子ども食堂」
「フードバンク」
など現代社会の問題を子ども目線で描く読み物
『アゲイン』を紹介します。
きっと、また やりなおせる 『アゲイン』
今回ご紹介する『アゲイン』は、
先に記述したような課題について
実際に存在しているフードバンク(宮城県「ふうどばんく東北AGAIN(あがいん)」、兵庫県「フードバンク関西」)に取材の協力を依頼し、
その実情を反映させたリアルな創作読み物となっています。
あらすじ
小学6年生の玉田アオイは、この頃何もうまくいかず落ち込んでいた。
自分の意見をはっきりと言えない性格のせいで、友達との関係はうまくいかない。
お父さんが営んでいるカレー屋さんは、感染症蔓延の影響でめっきりお客さんが減り、お母さんとお父さんはピリピリしているし、中学3年生のお姉ちゃんは受験勉強でカリカリしがち。家の中の空気は最悪な状態。
そんな中、学校の席替えで新しく隣の席になったのは、1年前に転校してきた八神カンナ。いつも堂々としていて人に媚びないカンナは、アオイにとってちょっととっつきにくいタイプ。
ある日、アオイはお姉ちゃんに頼まれて(命令で)コンビニにアイスを買いに行くことに。
すると道すがらカンナを見かける。でもどうも少し様子がおかしい。キョロキョロと辺りをうかがっている様子。
思い切って声をかけると、いつもと違って少し歯切れが悪い態度。声なんてかけなきゃよかった…と辺りを見回してみると、近くには「フードバンクAGAIN」という看板が立っている。
そのままカンナに手を引かれ、AGAINの中に入ったアオイ。そこは子どもたちはタダでご飯を食べることができる「子ども食堂」。壁にはこんなことが書かれたポスターが。
「事情はあとで話す」というカンナは、出されたご飯を威勢よく食べ始める。それをよそに、アオイは
「本当にタダでいいのかな?」
「八神さんの事情って…」
と内心戸惑いつつも出されたおにぎりを食べることに。
ご飯を食べ終えた後カンナは
「本当は知られたくなかったんだけど、実はアタシはゴクヒンでさ」
と自分の境遇を話し出し…。
アオイの変化
カンナとの関わり、そしてAGAINで過ごす時間を通して、
アオイは子ども食堂のこと、フードロスのこと、貧困のことなど
今まで自分が全く知らなかった、でも現実に起きていることについて知っていきます。
そして今まで日和見で、なかなか自分から行動を起こしたことがなかった自分を変えたいと思い始めます。
自分は何ができるのだろうか?
私がやりたいことってなんなのだろうか?
学校での友達とのこと
お父さんのカレー屋さんのこと
AGAINに来ている自分のこと
ひとつひとつの悩みに対し、少しずつ対面していく強さを手にいれるアオイ。
自分で考え、行動することで、きっとまたやりなおせるという思いになっていきます。
もう一つのテーマ
このお話が先に挙げたフードロスや貧困にまつわる様々なことを中心に書かれています。
ですが私個人としてはもう一つ、大事なテーマが隠されていると考えています。
アオイとカンナの他にもう一人、重要な登場人物がいます。
それが、リュウヘイくん。
彼はスラリと背が高く。新品のTシャツにダボっとした黒いパンツを履いて、おしゃれでかっこいい中学3年生。
無愛想でむすっとした感じですが、根は優しく、ボーイズグループに入ることが夢で、様々なオーディションを受けながら、日々イヤフォンで音楽を聴きながらダンスに明け暮れる少年です。
そんなリュウヘイくんは、どう考えても貧乏なわけではなさそう。
それでも彼は「おれ、ここが好きだから」と言い、AGAINに足繁く通っています。
彼のお父さんは単身赴任で遠くにいて、
お母さんも忙しく「今日の晩ごはんは適当に食べて」とメールで連絡がくるような生活を送っています。
アオイがAGAINを初めて訪れた際に見たポスターにあるように、
ここでは、ご飯を食べることができない人だけでなく
”一人で”ご飯を食べなければならない人も歓迎しています。
つまり孤食をしなければならない子どもたちにとって
子ども食堂は、家庭でもない、学校でもない
第三の居場所としての機能を持っているのです。
AGAINに来ているのは子どもたちだけではありません。
子どもと一緒にお母さんが来ていたり、おじいちゃんが一人で来ていたり。
「子ども食堂」というと、子どもたちだけの場所のようの感じてしまいますがそうではありません。
子ども食堂の持つ役割は
リュウヘイくんのように孤食になってしまう人の解消や、
地域住民の交流など、
生きづらさを軽減させ、新しい繋がりを生み出す場であると言えます。
「AGAIN」という言葉
「AGAIN」は本書のタイトルである「アゲイン」と読むことができ
作中に登場するフードバンク「AGAIN」の名前にもなっています。
本書のあとがきに、著者のあんずゆき先生がタイトルにもなっているこの言葉に込めた想いを綴ってくれています。
「AGAIN」という言葉には多くの意味が込められていたのです。
作中では、AGAINに集まった人々が
嬉しそうに食事をする姿が描かれています。
そこに年齢や性別、貧乏かそうでないかの違いはありません。
お腹がいっぱいになれば笑顔もいっぱいになる
そしてまた前を向ける
そんなメッセージが書かれているのでないかと感じました。
最初にご紹介した
「フードロス」
「貧困」
「子ども食堂」
「フードバンク」
などについて、本書の巻末に詳しい説明が掲載されています。
ここまで読んでくださったみなさんのために
特別に公開しますので、
よりこれらの課題について考えてもらうキッカケになれば幸いです。