『拝啓 my boyfriend』
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たとえば、そう、じゃあ、
小学生の君はとても小さくて、今より顔もまるくて、スポーツが大好きで、ちょっと好きな子にいじわるしてしまうような、
中学生の君は背の順でもまだ前の方で、けれど少しずついまみたいに顔の輪郭が整ってきたのかな、とか、
高校生の君は背がぐんと伸びて高くて、サッカー打ち込んで、そして好きな子とかできちゃったりして、そして彼女をとても大切にするような、そんな子だったのかな、とか
君が少しずつ、少しずつ、君になっていくあいだを、私だって見れたらよかった。
もっともっと、早くに君に出逢えていたら。
幼馴染とかだったら良かったのに、て、
そうおもう。
知らない君があまりにも多くて、寂しくなるんだ。
だから。どうか。これから先は私の知ってる君でいてほしい。
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「気分はどう?」
「吐きそう」
「うそだろ」
真っ白いお花で装飾された大きな全身鏡の前で、私は同じく真っ白なドレスに包まれた身体を見ながら、自分の胸をさする。
え、コルセットこれ、きつくない?きつすぎない?どれだけ締められたんだろう。
「ケーキ食べすぎを抑える為だろ」
「うるさいなあ」
そんな私を隣で見下ろす、長身のその人。
こちらも同じく真っ白なスーツに身を包まれて、胸には白い薔薇。なんてキザな。
今日専用だろうか、美容師さんにセットしてもらったらしい髪は珍しくおでこが見えている。
コンコン、と控えめに扉がノックされて、スタッフさんが顔を出した。
「失礼しますね、そろそろご準備の方よろしいですか?整いましたので」
「分かりました」
行こうか、と彼が言葉に出さずに手を私へ差し出す。
私は汚れひとつない白いドレスの裾を軽く持ち上げて、右手を彼の手にのせた。
「緊張するね」
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結婚式。
彼と付き合って5年目。出会って8年目。
私は27歳だから、自分の生きてきた人生の1/3程しか彼を知る時間が無かったけれど、もうこれからはずっと彼を知る時間がある。権利が、ある。
扉の前で、緊張しているのか首の後ろを執拗に触る君。その癖を知ったのはいつだったか。大学生の時だっけなぁ。
「ほんとにやばい、俺の方が吐くかも」
「そしたら逃げようね」
「どこにだよ」
「どこへでもだよ」
おかしそうに笑う君の目尻に出来る笑い皺。
それは出会った時に素敵だと思ったのを思い出す。
「それでは、新郎新婦のご登場です。皆さま、暖かい拍手でお出迎え下さい」
扉が開かれると同時に、中から聞こえる司会者兼、彼の親友の声。
「あいつの声の方が震えてるな」
「私も思った」
「緊張ほぐれたな」
「ふふっ」
お互いに小声で言って、また笑う。
そうして手を取り合って、前に踏み出す。
「楽しくて、幸せだね」
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たとえば、そう、じゃあ。
君のことを知れた時間が私の人生の1/3にも満たないとしても。
これから一緒にいるならば。もうずっと君の事を知っていく時間があるでしょう。
嫌なところも良いところも、お互い見つけて、直したり直さなかったり。
素敵なところを素敵だと言って、認め合って、幸せと思える瞬間を積み重ねていけたら。笑って一緒にいれたら。
それは、なんて名前の、幸せですか。神様。
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拝啓、マイ ボーイフレンド。
君の事を愛してます。
これからずっと大切に、幸せにできるよう、私は努力する事を誓います。
だから。どうか。これから先は私の知ってる君でいてほしい。
あたたかな光は、私達にいつも降り注ぐから。
fin.
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