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SaaSビジネスサイドとUXデザインの『密な関係』

『デザイン』の役割はどこまで拡張されていくのか。

「デザイン経営」、「デザイン思考」などデザインという言葉を頻繁に耳にするようになり、ビジネスにおけるデザインの実装が加速しています。

今回は、今、注目のデザインカンパニー Goodpatchの UXデザイナー國光俊樹さんと、Fringe81 取締役 COO 兼 Unipos 取締役の松島 稔が、SaaSビジネスサイドへのUXデザインの実装について対談しました。

ぜひ、ご覧ください!

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なぜ、SaaSビジネスサイドにUXデザインが必要なのか

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松島:Goodpatchさんとはもう4年のお付き合いになりますね。

國光:そうですね。Uniposの立ち上げ当初は、プロダクトのUXデザインやサービス全体のデザインをお手伝いさせていただき、現在は、組織のインナーブランディングにも携わらせていただいています。松島さんは、なぜ我々のようなデザインカンパニーの助けが必要だと思われたのでしょうか?

松島:Fringe81は、もともと広告技術の事業会社で、大規模な広告配信・アルゴリズム最適化といった領域を研ぎ澄ませていました。新規事業として、2016年にSaaS事業(Unipos)をスタートした際に、LTV(ライフタイムバリュー)を最大化するためには、継続的なプロダクトの利用体験が必要で、自社にないデザインのケイパビリティへの投資が必要だと考えました。

Uniposは、BtoBビジネスですが、ユーザーは顧客の社員の方になるので、実際にはBtoBtoCのビジネスモデルになります。ユーザーが長期的に使い続けてくれるサービスにするためには、UXデザインの考え方を組織全体に実装したかったのです。

國光:松島さんは、かなり早くからデザインの重要性について考えておられたのですね。経営層の方が、最初からそうした熱意を持たれていたことがすごいと思います。

松島:当初はデザインについて何も知らなかったんですよ(笑)。UXチームに権限を委譲したり、良い議論をするには、経営側がデザインについて、ある程度の解像度を持つ必要があります。僕自身も学ばないといけないと思い、UIやUXに関する書籍を読みあさりました。

その中で感じたのは顧客は、プロダクトを体験する前にセールスからの言葉(説明)を聞きます。もし、セールスの言葉とプロダクト体験の間にズレがあれば、顧客不満足につながってしまいます。一方で、セールスの言葉とプロダクト体験が一致していれば、UX全体を高めることにつながります。

國光:企業目線だと、セールスの言葉は説得の道具だと思われがちですが、顧客目線で考えるとサービスが提供する体験全体の中で起点となる1つの要素になりますよね。

UXを高める顧客目線とは

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松島:顧客目線って、ビジネスでは気軽に語られる言葉ですが、僕は、そんなに簡単じゃないと思っているんですよ。ビジネスサイドで起こりがちなのは、自分の部署で見た時のベスト=顧客目線になりがちなことです。本来は、自部署以外でも、顧客が別のビジネスサイドの誰かとコミュニケーションをしているので、「組織全体で一貫した顧客体験を構築する事」と「顧客の個別ニーズをくみ上げる事」を統合して考えなければいけないんです。

社内のマネジメントシステムの中でセールスは、営業管理/数値管理みたいなものが必要です。そこにも顧客目線が宿ると思います。

営業の現場では「読み」という表現が使われることがあります。50%の確率でこうなる、80%の確率でこうなる……という予測をすることです。これってセールスの主観になりがちで、顧客の状態を一切気にしていません。顧客目線になれていないですよね。

いくら顧客目線といっても営業管理の仕組みが顧客目線じゃなかったら、言っていることと、やってる事にズレが生じます。

Uniposでは顧客の状態をしっかりととらえて、そこから営業プロセスを管理する「状態管理」という方法を採用しています。これもUXの観点からです。

國光:UXの観点で営業プロセスも管理をされているのですね。Uniposさんのように顧客目線が根付いた組織って実は世の中にまだまだ少ないです。

顧客体験を向上させるにはプロダクト内の体験だけでは不十分で、オンラインもオフライン(セールスなどの対面・対人コミュニケーション含む)も連携し、体験を繋げていかないと高いレベルでの顧客体験は実現できません。

ただ、人数が増えセクションによって追う指標を分けていくと、どうしても短期に軸足を置いてグロースさせるセクションと、中長期に軸足を置いてグロースさせるセクションを設けないといけなくなります。

そうすると、観点の不一致や共通言語の欠如による連携のギャップや無用な社内での摩擦がうまれ、社内セクションごとの分断がうまれていくのがよくあるパターンなのではないでしょうか。この不一致やギャップを少なくするために必要なのが、その組織に根付いた価値観であり共通言語の存在です。

松島:顧客目線という言葉の表記揺らぎが、組織内で随所に発生するってことですね。それを揺らがないようにするための技術が、UXデザインの考え方だと思っています。技術がないと顧客のことを考えられない。それくらい顧客目線って奥深いですよ。

國光:本当にそうですね。Uniposさんには立ち上げ時から関わらせてもらっていますが、数名だった組織から80名を超えた組織になっても、当たり前のように組織全体として顧客目線で考えることができているのは、とてもすごいことだと思います。4年越しに関わってみて、やはり当たり前の基準値がとても高いと感じています。

組織内の共通言語が果たす役割

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國光:UniposのビジネスサイドにUXデザインを実装する上で、何から始めたのでしょうか?

松島:あえて「デザイン」という言葉を使いませんでした。デザインって言葉を使うと、身構えてしまうじゃないですか(笑)。

國光:それは、意外に大切なポイントですよね(笑)。ビジネスサイドの方からすると、デザインという言葉が身近ではないですからね。

松島:具体的に取り組んだのは「サービスブループリント」の活用です。

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國光:事業がグロースフェーズにあるお客様では、部署をまたいだ共通認識を持つことが課題になることが多々あります。SaaS事業は、機能別に組織が分かれていく傾向にあり、サービス全体を俯瞰してみる職種があまりいないケースも多いため、共通認識をつくるための役割としてサービスブループリントは最適です。

松島:実は、最初はカスタマーサクセスの部門単体で自部門のみをサービスブループリントを描いたのですが、上手くいきませんでした。

受注前のコミュニケーションなどが関わってくることが分かり、カスタマーサクセスを実現するためには、部署間をまたいだ共通のコンテクストが重要だと認識しました。

國光:Uniposさんは「共通言語/共通観点」の欠如が少なく、デザインドリブンな意思決定が他社よりも非常に多いように感じています。セールスもカスタマーサクセスも当たり前のように顧客体験の観点を中心にしてお話されていますよね。

常駐時に一番驚いたのは、カスタマーサクセスなどのデザイナー以外の職種の方が、日常の会議の中で「サービスブループリント」や「カスタマージャーニーマップ」などを使って顧客目線で徹底的に議論をしていたことでした。これには本当に驚きました。

松島:今では、何かあったら「サービスブループリントを作ろう」と言っています。サービスブループリントをもとに、各部署がどのように関わっていくかを議論する形です。「顧客の成功を考えると●●する必要があるよね」といった共通の観点で議論できるのが、サービスブループリントの良さですね。

経営とUXデザインの『密な関係』

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松島:「組織は戦略に従う」という言葉がありますよね。一方で「デザインはビジネス戦略には従わない」じゃないかと思っているんですよ。

「戦略」とは、目的達成のための資源配分の指針だととらえています。どこにヒトとモノとカネを配分するかです。一方、「体験」はユーザーの気持ちなので、最終的にいきつくところは一緒だとしても、見てる目線が違う。

國光:おっしゃる通りで、最終的に目指す目的は一つにしながら、「ビジネス価値」と「体験価値」をそれぞれの視点から考えて織り交ぜる必要があると考えています。

ビジネス価値はどのような資源配分で目的達成をして持続可能性を高めるのか、体験価値はどのような体験を一貫してユーザーに届けることで長期的にユーザーとの関係を構築できるのかという視点です。

先ほど共通言語の話がありましたが、サービス全体をデザインしようとしたとき、どちらか一方の視点に基づく判断だけだと不十分で、サービスとしての一貫性と持続性が保たれないケースがあります。

ビジネス価値と体験価値、それぞれの観点から共通言語をつくり、サービス全体のエコシステムを循環させていく。ここが、面白さでもあり、難しさでもありますね。

Uniposさんは、マーケティングでは、パーセプションフロー®・モデルという考え方を取り入れ、ビジネス価値の創造においても共通言語を上手く、組織内に実装できているのではないでしょうか?

松島:ありがとうございます。経営とデザインの交差点をいかに作っていくかは、経営陣としても頭を悩ませるところですが、我々は顧客の体験価値にコミットしていくつもりです。SaaS事業は、顧客の成功=事業の成功となるので、そこを経営が本気でやる抜く覚悟が必要だと思っています。

國光:今後のUniposという組織についてはどうお考えですか。

松島:デザインという観点だと、これからはプロダクトだけではなく、Unipos社全体のデザインをしながらブランドを強化してくことが必要な段階だと思っています。

一貫したUXを創り続ける上で、ビジネスサイドの存在は非常に大きいと思っています。SaaS事業は時間がかかるからです。プロダクトを提供して終わりではありません。セールスやカスタマーサクセスの言葉一つひとつがUniposブランドに関わってきます。Uniposブランドのエンジンとなるようなビジネスサイドにしていきたいですね。

(文:山田井ユウキ 編集:横山真介)

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