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【小説】「読者レビュー法」で、作品の最初のアイデアをすくいだす【初稿の書き方】

物語って、いったいどこからやってくるんだろう。そう思いませんか。

アイデアがあって、プロットがあって、書くという実際の作業があって……という、その個別の作業に山ほどの方法論がある。でも、「なにか書きたい! でもそのなにかはまだわからない」という状態の、この名づけようのない不思議さ。このときに自分の頭にある物語は、まだ味見をしていないシチューのよう。いや、闇鍋かな。

ここから初稿を書きあげるまでというのが、作品にとって最初の大きな難関になる。闇鍋から、お店に出せるとはいわないまでも家族には食べてもらえるレベルの料理を作るための方法論をまとめておこうと思った。なによりも自分の次の作品のために。

さて私の場合、今の長編小説を書くまで、ほとんど自己流でやってきた。好きな場面だけを数珠つなぎにしただけの二次創作みたいな作品もあるし、ハリー・ポッターを真似て一年ごとの構成にしてみたり、アニメの1クールを参考にしてみたり、ほとんど見よう見まねの世界。小説のていをなしていないもののほうが多いくらい。

今の長編小説からはこの本↓

の影響をおおいに受けている。それで本当に毎回、試行錯誤で書いているとしか言えないんだけど、この本から学んで次の小説でもかならず最初にやるだろうというプロセスがある。

それは、「最初に架空の読者レビューを書く」ということ。

もしプロの書評家がこの本のコンセプトを完璧に読み取ってくれたとしたら――自分が思い描く登場人物やプロット、セリフ、テーマを完全に理解してくれたなら――どんな書評を書いてくれるだろうか?
- 具体的に書く:褒め言葉だけでなく、褒める理由も書く。どの部分が最もよいか? 作品を引きたてている要素は何か? 着想- 構成- 文章- 読後感はどうか?
- 多角的に評価する:考えつく限り多くの角度から評価する。プロット(アーク、ペース、独自性など)、登場人物(性格、アーク、展開など)、セリフ、テーマ、クライマックスなど。
- 絶賛する:これ以上ないというほど絶賛する。賞賛をあらわす形容詞をいくつも並べ、あなたの作品をあなたと同じほど理解して愛してくれる読者の目線で書く。楽しんで!レビューが書けたら作品の方向性が明確になるでしょう。

『アウトラインから書く小説再入門』

自分で自作にレビューを?!って引かれるかもしれないんだけど、原初のスープ状態の作品を客観的に想像できるいい方法なので、気になったかたはぜひ試してみてほしいなと思う。もちろん、この本に紹介されているほかの方法でもかまわない。マインドマップなんかは使っているひとが多いテクニックだと思う。私自身はこの本を読む前からこれに似たことはしていたので、抵抗なく架空レビューを書き、おおいに参考になった。

私自身がやっていた方法は、「自分にその本がプレゼントされたら、どんなふうな感想をもつか」と想像して書いてみるというもの。これも、感想とレビューという違いはあれどほとんどおなじものですよね。

恥ずかしいけど、一例をあげてみる。以下は私が自作に書いた架空のレビュー。当時はまだカクヨムやってなかったので、評価はAmazonレビュー形式です!(←どうでもいい)

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ひ、ひえ~。自作を激賞する恥ずかしさに身もだえる。気力が削られたので、1分休んでいいですか……?? :(´ཀ`」 ∠):

(1分経過)

言いわけをすると、この架空レビューを書いた時点ではまだ本編は構想段階だったのです。だから、まあ、どんな光り輝くベストセラーに想像してもそれは自由というわけで……。(なんなら、これ以外の架空レビューには「アニメ化原作!」とか書いてましたからね。さすがに恥ずかしすぎて載せていませんが)

でも、この恥ずかし自作レビューには、本編を構想からプロットに落としこむために必要な重要情報がたくさん入っています。恥ずかしさに目をそむけず、眼球を洗濯バサミで固定して見ていこう。

まず、想定する読者層。本を読むことがある程度日常になじんでいるような、十代後半~大人女性のイメージ。でも、なかには男性でも面白く読んでくれる人もいるような。ちょっと贅沢か。
⇒実際に読んでくれたのは自分と同世代の、家庭も仕事もあるおとな男女が多かった気がするので、これはちょっとずれたかも。そもそもはヤングアダルト小説のつもりでした。

架空の読者がなにをおもしろく感じたか=作品の売りになる部分。構想段階なので本作とちがうところもあるけど、レビュー内では「イケメン二人との三角関係」がしっかり書かれていて、当時からこれが自作のおもしろい(と自分で思う)ところだったのがわかる。バトルシーンとか故郷の謎とか雑多な内容も入っていて、そのへんは実際、本編でもしぼりこめなかったところがあるなぁとふり返ると思う。

あとは、おおまかなラストも想像がつく。読後感がさわやかならハッピーエンド一択。私はご丁寧にちゃんと「読んでいてほろ苦く、せつない部分もある」と書いていて、そうそう、私の作品はだいたいハッピー寄りのビターエンドになりがちだな。

不思議なことにと言うべきか、じっさいに本編を連載中にもらった感想やレビューのなかには、自分の架空レビューによく似たものがいくつかあった。これって、すくなくとも自分の頭のなかにあった想像上の物語を、想像と近い形で出力できたということになりませんか? よく考えたら、なかなかすごいことかもしれない。あるいは、執筆前に自分が想像していた以上の物語は書けていないということで、がっかりすべきところかもしれない。どちらも言えそうですね。

逆に、予想していなかったコメントとしては「重厚な物語」とか「良質なハイファンタジー」とかいったお言葉をいただいた。それは嬉しかったんだけど完全に想定外で、つまり自分が想定していたようには書けていなかったことになるんだな……。中高生が読んで楽しめるような、かつてのコバルト文庫みたいな、ああいうお話のつもりだったんですけどね。漢字のひらきなんかにも気をくばったつもりだったんですが、たしかに若い読者さんの気配を感じない。序盤のほうとか、いま読むとやっぱり固い部分があるので、そのへんは改稿のときになおしたいところですね。

さて、この「架空レビュー方式」を書いたあとの流れについて。

これも、ほぼ『アウトライン』……からの受け売りだけど、すぐに書きはじめることはせず、まずは全体の構想を書きとめる。物語をふくらませて、書きたいシーンの前後を想像したりキャラクター同士の関係を会話形式で想定したりして、物語のパーツをたくさんこしらえる。で、そのパーツを物語の骨組みのなかにきれいに並べなおして、一枚の連続した箇条書きのストーリー(プロット)として完成させる。あとは、そのプロットにしたがいつつも、ライブ感をもっておおいに脱線を楽しみながら書く! このあたりは、また次回で。

架空レビューを書くコツは、「これから読む、世界一自分好みな物語」を、制約をつけずに自由に妄想して楽しむこと! 自分でも、架空の読者でも、かれらがどんなふうに物語を味わいどんな読後感をもったかを想像して、その素敵な物語をおおいに褒めてやってください。もらったばかりのプレゼントの包装をやぶりながら、その中身を当てるお遊びのような感覚で。

たぶん、楽しく書けると思います。

読者をひきつける冒頭とか、クライマックスにいたる構成とか、感情の演出とか、そういうのは初稿を書いたあとでいくらでも修正できます。料理とちがって、塩がききすぎていたらあとから抜くみたいなこともできる。なので、最初はたたき台を出すつもりくらいの感じで、第一稿は一気呵成いっきかせいに書くほうがいいです。

そして、初稿を書いたらしばらく時間を置いて読み直し、作品のおもしろいところ、ほかとちがう売りになる部分、キャラの好きなところ、テーマになる部分はどこか考えてみる。第二稿は、それを強調するために書きます。そのへんも、また別の機会に。

追記

記事を紹介していただきました。ありがとうございますm(_ _)m

『アウトラインから書く小説再入門』、いい本ですよね。

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