難病になってしまった父親と息子の野球を通じた友情を描いています ③

「親子」

車イスのアルミから
真夏の太陽からの
照り返しが
僕の目を細くする

すっかり 細く白くなってしまった
父親の足も 日焼けで少し赤くなっていた
83キロの体を支えていた
足の筋肉は 見る影もなかった

長い病院食で
体は標準になっていたから
足の筋肉は 丁度良かったのかも

タクシーでバッティングセンターを
目指せばよかった気もするが

父親の職業は 個人タクシー
障害者になって
個人タクシーを
廃業しなければ行けなくなった

免許証の期限が切れる日
病院のベッドの上で
悲しそうに 免許証を見ている父親を
覚えていた

20歳の俺は父親に
気を使ったのだ

でもね、
そんな 建前もあったけど
本当は 父親と一緒に
同じ目標を目指した日々を
思い出したかったのかもしれない

小学生の頃
キャッチボールや
父親の投げたボールを
打つのが好きだった

もちろんプロ野球選手を
目指していた

そう 同じ目標に向かって歩む
男同士の友情

真夏の炎天下の中
困難に負けず
2人の足でバッティングセンターへ向かう
そんな男同士の友情を 噛み締めたかったのかもしれない

近いうちに訪れる
父親の死

父親との1番の思い出になるかもしれないと
思いながら
バッティングセンターへと近づいていた

平和橋にさしかかると
中川の水面がキラキラしていた

父親と息子が
同じ目標を目指す

久しぶりに光に包まれた時間だった


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