チャレンジしてよかった。私たちが教育移住で得たもの~連載「母子移住のススメ」第7回~
子どもを通わせたい小学校がある! ということで、東京から長野県佐久穂町に母子移住した私の体験談は、これが最終回です。総まとめとして、移住が私たち親子にもたらしたものを考えてみたいと思います。
<前回までの流れ>
住む場所が変わり、幸福度が上がった私
前回のnoteでは、移住しても仕事の内容に大きな変化はなかったと書きました。でも、それ以外のことはことごとく変化がありました。
・仕事以外で誰かと協働する楽しさを得た
中でも大きな変化は、人とのコミュニケーション量が圧倒的に増えたこと。
特に子どもが通う学校の保護者とは、いろいろなことを話し合い、子どもたちや学校のために活動し、ときには純粋に遊んだりと、かなり濃い付き合いになりました。
私は人付き合いが苦手な方で、東京ではこんな関係づくりがなかなかできませんでした。でも、今いる場所では自然にできているのです。
その理由のひとつは、うちと同じように移住してきた家庭が多いこともあって仲間意識が生まれやすく、互いに頼り頼られる必然性も高かったということがあります。
もうひとつ、今年開校3年目の学校は色々と足りないものや試行錯誤中のことも多く、「学校を良い場にするために私たちも役に立ちたい」というモチベーションが生まれやすいということもあります。
子どもの小学校にはPTA組織がありませんが、保護者による自主的なプロジェクトがいくつも立ち上がっています。
私もそのいくつかに参加し、同じ目標をもつ仲間たちと協働することの楽しさを味わっています。こういう充実感はプライベートではもちろん、個人作業の多いフリーランスライターの仕事においてもなかなか得がたく、これからも大事にしていきたいものです。
・広い古民家が新たなチャレンジを可能に
こちらでは、築100年ほどの広い古民家に住んでいます。
「古民家に住みたい願望」は特になかったのですが、諸条件を検討した結果ここに決めました。普段母子2人で生活するには広すぎるうちですが、結果的にはそれがとても良かったです。
まず、気軽に人を呼べます。「あのお家の中が見てみたい」と来てくれる人もいて、この家は社交下手な私に友人作りのきっかけを与えてくれる存在でもあります。
そして最近は、友人の一人が週に1度、我が家の玄関土間でお店を開いてくれるようになりました。
「せっかくの広い空間を何かに活かしたい」とずっと考えていたので、とても嬉しい!
これ以外にも、小規模なお話し会に使ってもらったり、こちらへの移住を検討する人がちょっと立ち寄れる場なんかにできたら……ということを妄想中です。
・豊かな自然環境が癒しに
ここは浅間山連峰や八ヶ岳連峰に囲まれる佐久盆地。周りに高い建物もないので、いつでも雄大な山々が見えます。山頂に雪が積もれば冬の訪れを感じ、雪が溶けて山肌が見え始めれば春の予感に嬉しくなり、緑でモコモコになると「暖かな季節が来たー!」とウキウキします。
2月、子どもの登校を見送った帰りに撮影した八ヶ岳連峰です。
もう少し近くに目を向ければ、道端に咲く花や畑の作物が日々変化していく姿から、力強い生命力が感じられます。
東京は街路樹が整備されていて公園もあるし、それなりに緑があると思っていました。でも、こちらに来てみると日々目に飛び込んでくる緑の量が全然違うんです。鳥や虫もたくさんいます。
自然豊かな環境って、「お休みの日に遊びに行くところ」というのが以前のイメージでした。日常をそういう場所で過ごすことがこんなにも癒しや刺激になるなんて、思ってもみませんでした。
のびのびと自分を表現するようになった子ども
素敵な人たち、住まい、自然環境に恵まれ、私は総合的な幸福度が上がったな、と感じています。
では、子どもの方はどうでしょうか。
あくまで親から見ての印象ですが、子どもにとっても、移住は本当に良かったと思います。
・内気だった子どもが堂々と意見を言えるように
私が教育移住を決めた一番の理由は、とても内気で、でも頭の中ではいろいろなことを考えている、そんな我が子の良さを伸ばしてくれそうな小学校があったからでした。
実際、イエナプランという教育のコンセプトを実践する大日向小学校に通うようになって、子どもはかなり積極的になったと思います。
先日、学校の子ども、教職員、理事、保護者の代表それぞれが、4者で一緒に取り組みたいテーマを伝え合う会が行われました。オンラインで100名以上が見守る中、子どもは代表のひとりとして会に参加し、たくさんの意見を言っていました。
ただ、今でも初対面の大人が相手だと緊張し、「お名前は? いくつ?」などと聞かれても、黙り込んでしまったりします。
これは、子どもにとって学校が、安心して自分を出せる「ホーム」になっているということだと思います。これからも学校を中心にたくさんの経験をすることで、自信をもって行動できるフィールドが広がっていくんじゃないかな、と期待しています。
・大好きな馬が身近に
自然に囲まれた環境は、子どもにとってもいいことがいっぱいです。田植えを経験したり、天体観測をしたり、都会ではなかなかできない経験をしています。
特にうちの子にとって良かったのは、大好きな馬と触れ合う機会が増えたこと、「馬が好き!」と共感しあえるお友達や先生に出会えたことです。
なぜか小さな頃から馬好きだった子どもですが、東京にいた頃は周りにそういう子がいないことを気にして、「馬が好き」とは言えなかったみたいです。今は学校に馬のフィギュアを持っていって遊んだり、週末に乗馬を習いに行ったり、馬への愛を思う存分発露させています。
お友達と馬のフィギュアの洋服を作って遊びました。
意外と芸術に触れる機会も多い
子育て家庭が都会から地方に移住するとき、気になるのが教育環境、文化的な環境ではないでしょうか。
首都圏などと比べれば、地方は図書館の規模が小さかったり、展覧会やコンサートなどの絶対数も少ないです。習い事のバリエーションや指導者のレベルで見劣りすることもあるかもしれません。
しかし私が住む地域に限って言えば、近くの公民館では地元の音楽家のコンサートなどが頻繁に開かれていたり、公民館主催の教室(書道、いけばな、将棋など)に無料で参加できたりと、気軽に文化芸術に触れる機会がたくさんあります。
子どもの小学校の学童でも、いろいろな特技を持った保護者が教室を開いてくれています。
そういったものを合わせ、うちの子はいつの間にか、バレエ、ヨガ、合唱、書道と4つも習いごとをするようになりました。
学童でバレエを教えてくれている先生が、夏休み中にオンラインレッスンをしてくれました。
たしかに、世界のトップレベルのプレイヤーが来たり、大型の企画展が催されたりということはないし、習い事にしてもその道のトップを目指すとなると地域内の教室では足りないところもあるでしょう。
でも、普段着のまま気軽に文化や芸術に触れられる機会が豊富にあるのは、ある意味とても豊かなことだし、子どもはそこからたくさんの刺激を受けていると思います。
教育移住ならではの難しさも
ここまで良いことばかり書いてきましたが、もちろん大変なことだってあります。
広くて古い家は寒い家でもあり、快適に暮らしていくには防寒対策など色々手間がかかります。
公共交通機関が発達しておらず、どこでも車で行くのが当たり前の地域なので、ついつい運動不足になりがちです。
また、母子移住というスタイルを今後もずっと続けていくの? という課題もあります。
コロナ禍で県境をまたぐ移動がしにくくなったことで、移住前の場所に戻ることを考えた人たちもあったようです。
また、希望して入った学校でも、合うかどうかは個人差があります。「うちの子には合わない」と判断して転校を選んだ家庭もあります。
「せっかく移住までして入った学校なのに?」と思われるかもしれませんが、子どもの教育のために移住も辞さない親だからこその、妥協のない決断だとも言えます。
教育移住の先には、必ずしも理想郷が待っているわけではないのです。それでも、そこになんらかの可能性が感じられ、途中で「違うな」と思えば道を修正する覚悟もあるならが、チャレンジしてみる価値のあるものだと思います。
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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