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仕事が途切れないフリーランスは、「ギバーとテイカー」どっち?〜ワンランク上のフリーランスになる!〜

「コンサルティング会社で学んだ考え方やビジネススキルは、独立後の自分の事業にも役立つことが多い」と語る、外資系コンサルティング会社出身の清水久三子さん。清水さんは、今まで仕事が途切れたことがなく、各方面で引っ張りだこだそう!

そんなプロフェッショナル・フリーランスの清水さんに、フリーランスとして一皮むけるための極意をご紹介いただく本連載。

今回のテーマは”幸せな人間関係の築き方”について。
『フリーランス白書』でも「最も収入が得られる仕事の7割は人脈から」と記されていたように、仕事が途切れないフリーランスは、人の紹介で仕事を得ているもの。つまり、ワンランク上のフリーランスを目指すなら、良好な人間関係の構築は基本中の基本と言えるでしょう。
人のために動く「ギバー」と自分のために動く「テイカー」を例に、幸せな人間関係を築くヒントを教えてもらいました。

この世には、ギバー・テイカー・マッチャーの3者がいる

皆さんは「ギバー」と「テイカー」という言葉を聞いたことがありますか?これは、全米トップ・ビジネススクール「ウォートン校」の史上最年少終身教授のアダム・グラント氏が提唱した考え方です。ギバーとテイカーにマッチャーという中間の存在を加えた、3者の定義は以下です。

ギバー「与え、与えられる人」 Give & Given 
常に他者を中心に考え、相手の利益や何を求めているかに注意を払う。自分が受け取る以上に相手に与えようとする。

テイカー「奪い、奪い取られる人」Take & Taken 
常に自分を中心に考え、相手の必要性よりも自分の利益を優先する。与えるより多くを受け取ろうとする。

マッチャー「損得のバランスをとる人」Give & Take 
常に自分と相手の利益と不利益をそのつど公平にバランスし、帳尻を合わせようとする。 

ちなみに、統計的に言うとギバーは25%、テイカーは19%、マッチャーは56%の割合で存在しているそうです。

私なりのギバーとテイカーの世界観の違いをまとめたのが図1です。こう見るとかなり両極端であることがお分かりになるかと思います。このように物事の見方や、とる行動が異なると結果も当然変わってきます。

(図1)

ギバーとテイカー、どっちが幸せ?

では、ビジネスという局面で考えたとき、3者のうちどれが幸せだと思われますか?何となく「ギバーは損しそうだな……」と考える方も多いかもしれません。実は結果は異なりました。

最下位から発表すると、ギバー → テイカー → マッチャーという順だったのですが、何とその上がいて、一定数のギバーが1位だったのです。1位は「他者志向的ギバー」、最下位は「自己犠牲的ギバー」、つまり、成功するのも失敗するのもギバーという結果なのです。

ビジネス視点での幸せランキング

1位 他者志向的ギバー
2位 マッチャー
3位 テイカー
4位 自己犠牲的ギバー

同じギバーなのに何が違うのかというと自己利益と他者利益への関心の差です(図2)。自己犠牲的ギバーは他者利益のへの関心は高いものの、自己利益への関心が低いのが特徴です。対して他者志向的ギバーは他者・自己双方の利益への関心が高いのです。

(図2)

「こうしたら良くなりますよ」と提案するのが、他者志向的ギバー

一般的にギバーに抱くイメージはいわゆる「お人よし」、つまり自己犠牲的ギバーではないでしょうか。では他者志向的ギバーとはどんな存在なのかを比較してみましょう。(図3)

(図3)

自己犠牲的ギバーが相手から好かれたいという思いで動くことから表面的な手伝いになってしまうことと異なり、他者志向的ギバーは、仕事の目的達成を考えた動きをします。よって自分か「こうしたらもっと良くなりますよ」という能動的な提案につながります。

自己犠牲的ギバーが相手が好きだからやってあげたいという思いで、一人で抱え込んで稼働が逼迫してしまうのに対して、他者志向ギバーは目的達成のために相手にも何かをしてもらったり、他の人を巻き込んでいきます。

最大の違いは、しかるべき報酬をきちんと受け取るかどうかです。無償でもやってあげたいという自己犠牲は一見尊く見えますが、あまり良い結果につながらないことが多いでしょう。

誰かが無償でしている仕事が存在すると、本人だけではなく、同業者や業界の平均報酬を下げてしまったり、稼働時間が増えることで自分の健康や成長、家族などにマイナスの影響が出ます。
自分の持続可能性が低くなり、ひいてはクライアントにも迷惑をかけてしまうことになりかねません。

また、自分としては「かなり尽くしたから、いずれは報われる」と考えていても、クライアント側が、稼働がどれくらいかかっているのか、持ち出し分はどれくらいなのかなど、自己犠牲の価値を認識していなければ、すれ違いのままです。自分が「もうこれ以上無理です」となってから伝えても、相手は寝耳に水で「だったら言ってくれれば……」とお互いに不幸な結果に終わりかねません。

それと比較すると他者志向的ギバーは他者利益と自己利益の両方へのコミットが大きいのが特徴です。ギバーとしては他者からいただく報酬が多いのは、負担をかけているようで落ち着かないと思われるかもしれませんが、他者志向的ギバーは、利益全体の最大化を目指すため、結果的には相手と自分の双方が得られる利益を大きくしています。
「自分がコミットすることは今言われたことをそのままやることではなく、将来的に相手の利益そのものを大きくするために動くこと」という信念や自信があるからこそ、できることと言えます。

「他者志向的ギバー」になる3つの思考

自分が自己犠牲的ギバーになっていることに気づいた人も多いかもしれません。そういった方はきっとこれまで頑張ってはいるものの、モヤモヤとした気持ちを抱えているかもしれませんね。では、どうやったら他者志向的ギバーになれるのか。以下の3つを意識してみてください。

その1 :目的志向と全体感を持つ

「目の前の仕事をやる・やらない」ではなく、「何のためにやるのか」「どういう状態になったら良いのか」といったように、全体を見るようにしましょう。他者に何かを与えたいというギバーとしての資質は本当に尊いものです。その視点を、短期的な目の前の仕事や業務ではなく、中長期的に相手のためになることは何かを考えるように目的や全体感を広く持ってみましょう。

何か仕事や作業を依頼されたら、「はい、わかりました。喜んで」にとどまらず、「どういう状態を目指したいですか?」「私はこうするともっとよくなると思います」など相手がさらによくなるイメージを追求してみてください。
そのイメージを共有できれば、「だったらこうしてみませんか?」という提案ができますし、あなた自身の価値をしっかりと理解してもらうことにつながります。「自分のことを考えてくれている」と相手に価値を理解してもらっているかどうかで、無償の行動の意味も重みもまったく違ってきますし、報酬や次の機会につながる可能性も高くなります。

その2 :周囲を巻き込む

自己犠牲的ギバーの特徴は、ひとりで抱え込むことだとお話ししました。きっとそれも「他の人に迷惑をかけてはいけない」「自分が頑張れば……」というギバー特有の優しさからくるものだと思います。しかし、それは本当に相手のためになっているでしょうか?

私は色々な相談や依頼に対して、時間がないときでも無理して対応していたことも多かったのですが、ある時、時間がとれず「それは〇〇さんに相談してみたら?」と他の方を紹介したところ、双方から感謝されました。紹介した人からは「こういう機会を与えてもらえてとても勉強になった」と言われ、相談した方からも「良い人を紹介してもらえてよかった」と言われました。

周囲の人も、ギバーを助けたいと思っている人はたくさんいます。自分一人でできることは限られていますし、むしろ自分一人でやらないほうが可能性が広がり、良い方向に行くこともあります。最適な動きは「全部自分が引き受ける」ではないと考えてみてください。自分だけでなく、周囲の人を活かすことを考えることはギバーの喜びにつながるでしょう。

その3 :年間100時間ルール

とはいえ、ギバーとしてはとにかく相手のためにやってあげたい、何とかしてあげたいという思いを強く持つ人も多いでしょう。その時に意識していただきたいのが、自分の時間を無償で使う目安として「年間で100時間以内にする」というものです。週にすると2時間です。

これは、ある実験で週2時間を超えて無償の活動をすると幸福度が下がるという実験結果が根拠としてあります。週2時間を超えるとその活動から得られる喜びや学びとれることよりも、つらさを多く感じるようになってしまうそうです。ちなみに、均等に週2時間にする必要はなく、一定期間限定にしても良いそうです。

いずれにせよ、年間100時間というのは、決して小さな時間ではありません。100時間を超えてでも尽くしたいと思うのであれば、「もっと相手のために良い方法はないのか」、「自分だけでなく相手や周囲の人にやってもらえることはないのか」など、「その1 :目的志向と全体感を持つ」と「その2 :周囲を巻き込む」について、もっと真剣に考える必要があります。

フリーランスにとって稼働時間は商品と同じです。無償で誰かに提供することは、有償で買ってくださる他のお客様にとって失礼なことでもあります。ギバーが与えたいと思うような相手はきっと良い人だと思います。その人も無理をさせたいと思っていることはないはずです。

ギバーであることの3つの意味

最後に、ギバーでいることはどんな意味を持つのかをテイカーとの対比で3つにまとめてみます。

一つ目は世の中をよくしていくことができる可能性です。テイカーは報酬を得ることや評価されることがゴールになっているため、それ以上のことをする気がおきません。そのためやることが近視眼的になってしまい、クリエイティビティを存分に発揮したり大局に立って考えたりすることができないのです。今後はどうしたら他者に貢献できるのかを考え、行動を起こせるギバーが多くの問題解決や革新的な企画の鍵を握ることになるでしょう。

次に、ソーシャルネットワークの普及により、ギバーのしたことが顕在化しやすくなってきたことです。SNS普及前を思いおこしてみれば、テイカーの利己的な振る舞いも、ギバーの利他的な行いも、人々が知ることになるには時間がかかりました。それが今では誰がどんな貢献をして、どう信頼されているのかがクリアに見えるようになってきています。信頼残高はギバー的な振る舞いからしか得られませんが、それが見えるようになってきているのです。ギバーがずっと縁の下の力持ちで日の目を見ることがないということも減ってくるでしょう。

3つ目はギバーでいることが、中長期のビジネス人生においてメンタルリスクを和らげる効果があることです。「他者の役に立った」という思いは、心の健康に大きく役立ちます。これは科学的にも証明されており、人の役に立つ行動をとるとオキシトシンやセロトニンという脳内物質が分泌されます。これらは幸せホルモンとも言われ、気分を改善し、前向きで楽観的な心理状態にする物質で、その心理状態は長く続きます。自分が役に立ったことを思い出すと心が温かくなるという経験は誰でもあるのではないでしょうか。

一方、目標達成や何かを得た時などに分泌されるドーパミンという脳内物質は、強い快感を与え大きく気分を高揚させるものの、長続きせず、次の報酬や刺激を求めてエスカレートしていきます。テイカー的な行動で一時的に優位に立って満足したとしても、その満足を維持し続けるのは難しいことは今や多くの人が気づき始めています。

他者に与えることを通じて心の満足や成長を実感し、より高い視座・視野・視点で物事をみて、自他共に利益や価値、幸福感を最大化できる。そんなギバー・フリーランスが増えていくことを願っています。


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清水久三子
大手アパレル企業を経て、外資系コンサルティング会社にて企業変革戦略チームや人材育成部門のリーダーを歴任し、2013年に独立。ビジネス書の執筆やメディアへの寄稿、講演、研修講師などの活動を行う。国内では20冊、海外翻訳で10冊の著書を出版し、年間登壇は140日を超える。(2022年現在) 
著書は、『プロの資料作成力』『一流の学び方』『リスキリング大全』(東洋経済新報社)、『1時間の仕事を15分で終わらせる』『一生食えるプロのPDCA』(かんき出版)『働くママの成功する中学受験』(世界文化社)他多数。Official HP:https://andcreate-official.com 

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