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巻き込み力を高めるための「利害関係者管理」〜ワンランク上のフリーランスになる!〜

外資系コンサルティング会社を経て、現在、講師業や執筆業など、幅広く発信されている清水久三子さん。

「コンサルティング会社で学んだ考え方やビジネススキルは、独立後の自分の事業にも役立つことが多い」と語る清水さんは、実際、今まで仕事が途切れたことがなく、各方面で引っ張りだこだそう!

そんなプロフェッショナル・フリーランスの清水さんに、フリーランスとして一皮むけるための極意をご紹介いただくのが、本連載「ワンランク上のフリーランスになる!」です。
第3回目のテーマは「巻き込み力を高める術」です。その鍵となるのが「利害関係者管理」にあるそうなのですが……。その理由を教えてもらいました!


「途中で、なぜか反対される」を防ぐには?

  • 順調に仕事を進めていたはずなのに、急に相手が反対しだした。

  • 途中から思わぬ人が出てきて横槍を入れられた。

  • 「その話、聞いてないんですけど……」と機嫌を損ねられ上手くいかなくなった。

仕事を進めていくうえで、色々な関係者に反対されたり、水をさされたという経験はありませんか?これはもしかすると、ステークホルダーをきちんと把握して管理できていないことが原因かもしれません。

ステークホルダーとは、狭義には「株主」を指しますが、広義では「仕事を進めるうえでの利害関係者全般のこと」だと認識するといいでしょう。そして、利害関係者を把握することは、プロジェクトマネジメントの方法論の中で、とても重要な位置付けと言われています。

プロジェクトマネジメントと聞くと、自分は一人で仕事を受けているから関係ないと思われるかもしれません。また、「煩わしい人間関係を考えたくないからフリーランスになったのに」、「周りの人に振り回されずに自分の好きなようにやりたい」と考える人もいるでしょう。

しかし、フリーランスの人は組織に属さず指示命令系統の外の範囲で仕事をしているので、むしろ意識的に利害関係者を把握する必要があるのです!

担当者の上司が「期待すること」を把握する

私が独立して仕事をするようになったときも、この利害関係者管理のやり方はとても役立ちました。
たとえば、ある企業でキャリア開発講座を作成する仕事を依頼された時のこと。直接の担当者からの要望だけではなく、担当者の上司はどのような点に期待しているのかを確認したところ、実は「講座の開催には消極的」ということが分かりました。

更に事情を聞くと、キャリアという言葉に対してネガティブな印象を持っていることが分かりました。理由は、以前同じようなテーマで実施した講座が、受講者に不評だったから。

そこで、今回の仕事は「利害関係者」である上司の方の理解を仰ぐことが重要だと考え、講座の目的や概要を丁寧に伝えることを徹底。上司の方が懸念しているような内容ではないことを安心していただけるように努めました。

すると、その上司から積極的に支持していただけるようになったのです。恐らくあのまま進めていたら、途中で反対されて修正等が入っていたでしょう。

ありがたいことに、受講者満足度も高い評価をいただくことができたのですが、それも事前に企画の意図を汲み取って、修正なしで進められたから。上司の理解を得ずに進めていたら、きっと満足度が低いものになっていたはずです。

では、このような「利害関係者管理」をどう進めていけばいいのかをご紹介しましょう。


Step1:関係者を全員洗い出す

まずは、自分の仕事に関連する人を洗い出します。直接の担当者はもちろん、その人の上司や、紹介者、協業パートナー、自分の仕事の納品物を見る顧客など、思いつく限りリストアップします。

もし、自分ではなかなか思いつかない場合には、担当者や類似の仕事をしている先輩フリーランスの人などに聞くと、自分では気がついていない利害関係者を教えてくれるかもしれません。
私の場合には以下の質問で関係者を洗い出します。

「最終的にGoサインを出す人は誰ですか?」
「この話を耳にいれておいたほうがよい人は誰ですか?」
報告すべき人は誰ですか?」
「検討段階で相談したほうがよい人はどなたですか?」
「この内容に反対しそうな人はいますか?」
「この進め方で一番影響を受ける人はどなたですか?」
「これを実施した場合、懸念を示しそうな人はいますか?」
「この件についてアドバイスしてくれそうな人はいますか?」

よくあるのはこの段階で利害関係者を見落としているパターンです。そうなると不興を買ってしまい、「聞いてないんですけど……」となりがちです。ちゃんと聞いていれば特に反対する理由はないにも関わらず、反対派に回られてしまうのです。

蚊帳の外に置かれると、疎外感を感じて何か一言言いたくなる人は多いものです。そうなってから、「いえ、実は……」などと説明しても効果的ではありません。「先に言えば説明、後から言ったら言い訳」と肝に銘じておくとよいでしょう。

Step2:各利害関係者の期待や興味関心事項を把握する

洗い出せたら、その人ごとに「何を期待しているのか」「何に興味関心があるのか」を把握します。打合せなどで直接聞くのが一番ですが、なかなか会うのが難しい人の場合には周辺の人を介して確認します。私は事前打合せなどで、以下の質問で把握します。

「〇〇さんはどういう状態になっていたら満足ですか?」
「〇〇さんはこれについてどんなお考えをお持ちですか?」
「〇〇さんは特にどのあたりを懸念されてますか?」
「〇〇さんが心配されているのは具体的にどんなことですか?」
「〇〇さんが一番大変になりそうなのはどのタスクですか?」
「〇〇さんが今一番困っていることは何ですか?」
「〇〇さんはどんな反応をしそうですか?」
「〇〇さんが反対されるとしたら、どの点ですか?」

もし、反対派がいるのであれば、この段階で明らかにしておいたほうがよいでしょう。

私は「ダイバーシティ」や「生産性向上」などで講演や研修をするのですが、内心では「女性活躍推進には疑問」「早く仕事をすませるなんて手抜きだ」と思っていらっしゃる方も中にはいますので、あらかじめ、誰が何を考えているのかを把握するようにしています。

また、興味関心事項は仕事の内容以外の場合もあります。たとえば自分の立場や体面を気にするという人もいます。そういう場合にはその人に打診してから、他の人に伝えるなど、その人を立てるようなコミュニケーションを取る必要があります。内容はよくても、反対されたり横槍を入れられることもありえるからです。

更に言うとプライベートの事情が仕事に影響を与えているということもあります。実際にあったのですが、ある担当者がそれまで熱心だったのに急に心ここにあらず状態になってしまったことがありました。

他の方にそれとなく聞いてみると、ご家族が病気になりとても気落ちしているという事情がわかりました。そういった時にこれまでのような頻繁なコミュニケーションをとっても相手の負担になるので、大方針だけをしっかりと合意したうえで、できるだけ負担がかからない進め方に変えたところ、「あの時は助かりました」と感謝され、今も非常によい関係が続いています。

このように、相手の期待や興味関心を把握することで、適切なコミュニケーションにつながり、仕事の成功や良い関係を継続させられます。

Step3:コミュニケーションを計画する

各利害関係者の期待や興味関心事項がわかったら、次はコミュニケーション計画を立てます。各利害関係者ごとに3つの観点で考えます。

①相手の状態を変える必要があるか

もし懸念を持っている人がいた場合、賛成派に変わってもらう必要があるのかを考えます。相手の影響力が大きく、協力者になってもらわないとその仕事は成功しないのであれば、積極的に巻き込むための対応方針を考える必要があります。
相手の影響力がそこまでないのであれば、特に何もしないという対応方針でも構いませんが、あまりにも放置しておくと強硬な反対派に回られる可能性もあります。その場合には定期的に耳に入れるなどの対応をとります。

②コミュニケーションの頻度

定例の打合せだけでよいのか、それ以外でもこまめに連絡をする必要があるのか、などどれくらいの頻度でコミュニケーションするのかを検討します。望ましいコミュニケーションの頻度は人によっても違いますが、初めのうちはこまめに頻度多めにして期待値や興味関心をしっかり把握するとともに信頼関係を築き、慣れてきたら間隔を長めにとるようにします。

③コミュニケーションの内容

各利害関係者に対してのコミュニケーションの取り方を考えます。いくつかパターンをあげます。

・報告? 相談?
「報告」はできあがったあとや決まったあとにとるコミュニケーションで、「相談」は決まる前に意向を確認したり、アドバイスをもらうというコミュニケーションです。「相談」は相手を巻き込みたい時に効果的です。決まったあとに言われると、つい何か物言いをつけたくなりがちですが、事前に相談されると協力したいという気持ちになることが多いからです。「〇〇さんに相談してよかったです。いただいたアドバイスをもとにこうしました」と言われたら、反対しにくいでしょう。

・フォーマルか? インフォーマルか?
フォーマルコミュニケーションとは、会議やメールなどの仕事上の正式なやりとりのことです。インフォーマルコミュニケーションは、仕事を離れた場でのやりとりです。飲み会などもその機会です。相手の価値観を知ることもできますし、距離を縮めることでやりやすくなることも多いでしょう。

飲み会などは無理の場合でも、諦めずに機会をうかがうとよいでしょう。私は会議が終わったあとに、会議室を一緒に出て移動しながら「今の会議で決まったこと、どう思いましたか?」などできるだけ本音や感触をさぐるようにしています。

今はオンライン会議などが多いので難しいですが、会議後にチャットなどで聞いてみてもよいでしょう。フォーマルコミュニケーションだけでは、相手の真意がつかめない場合やフォローが必要な場合には、腹を割って話し合うような機会も考えてみましょう。

・自分から? 人から?
コミュニケーションを考えるにあたり、全部自分の口から伝える必要はありません。各利害関係者は、誰の言葉に一番納得するのかを考えてみましょう。

たとえば、仕事への情熱が熱い人であれば、自分の言葉でしっかりと伝えた方が信頼してもらえます。相手が成果が出るのか気にしているのであれば、「以前仕事をしたお客様はこうおっしゃっていました」などお客様の声をレピュテーションとして伝えるのが効果的です。

あるクライアントで講演内容に対して中々決まらなかった際に、紹介者の人を介して担当者にあどばいすをしてもらったところ、すんなりと決まったということもありました。このように第三者が言ったほうが説得力が高まる場合もあります。

「利害関係者管理」は仕事の関係者だけではなく、家族、友人などの人間関係でも同様です。「今日、仕事が立て込んでて帰り遅いから夕飯いらない」とその日の夕方に聞かされたら、準備していた家族は「聞いてないんだけど」と言いたくなって当然です。自分の仕事を進めるうえで、家族や友人なども必要であれば利害関係者として洗い出し、どうコミュニケーションをとるかを考えておいたほうがよいかもしれません。

「利害関係者管理」というと難しく思えますが、要は「話すべき時に」「話すべきことを」「話すべき人に話す」というシンプルな3点と考えて、巻き込み力を高めてみてください。


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清水久三子
大手アパレル企業を経て、外資系コンサルティング会社にて企業変革戦略チームや人材育成部門のリーダーを歴任し、2013年に独立。ビジネス書の執筆やメディアへの寄稿、講演、研修講師などの活動を行う。国内では20冊、海外翻訳で10冊の著書を出版し、年間登壇は140日を超える。(2022年現在) 
著書は、『プロの資料作成力』『一流の学び方』(東洋経済新報社)、『1時間の仕事を15分で終わらせる』『一生食えるプロのPDCA』(かんき出版)『働くママの成功する中学受験』(世界文化社)他多数。Official HP:https://andcreate-official.com 

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