史上最強の哲学入門 飲茶

 哲学に興味はあるけれど、文章が難しすぎて理解できないかなと考える人が多いいと思います。しかし、飲茶さんの書いた「史上最強の哲学入門」はとても読みやすい文章で書かれていて分かりやすいです。この本では、哲学者を4つのカテゴリーに分けて、それぞれのカテゴリーでの著名な哲学者を紹介しています。ここでは、その4つのカテゴリーの中で特に興味深かった哲学者を取り上げていきます。

 まず、この本では哲学者を「真理の「真理」」、「国家の「真理」」、「神様の「真理」」、「存在の「真理」」の4つのカテゴリーに分けています。

1,真理の「真理」

 このカテゴリーでは、4人の哲学者を取り上げます。 
1,プロタゴラス
 
プロタゴラスは、相対主義を掲げた哲学者として知られています。相対主義とは、絶対的に正しいことはこの世の中にはなく、価値観は人それぞれなのだと考える主義のことです。これが「正しい」というのは、所詮自分の価値観を他人に押し付けているのに過ぎないわけです。プロタゴラスは、この相対主義を弁論術に活かしました。上手く「価値」の基準をずらすことで、ひどい主張を素晴らしい主張に見せかけることができるからです。
2.ソクラテス
 しかし、ソクラテスは、相対主義は真理を求める熱い情熱を失ってしまうと危惧していました。そこで、ソクラテスは、弁論術に長けた相対主義者を打ち負かすためにソクラテス式問答を行いました。ソクラテス式問答とは、質問を続けることで相手にボロを出させることで論破するものです。どれほど弁論術に長けていても永久に質問を浴びせられたらいつか答えに詰まってしまいます。そこで、ソクラテスは、あなたも私も共に真理を知らないではないかと問いかけ、一緒に真理を追究していこうと誘いこむのです(無知の知)。しかし、そのような問答は、人々の怒りを買い、とうとう死刑になってしまうのです。死刑宣告を受けたソクラテスでしたが、当時の牢屋は簡単に抜け出すことができたので、弟子たちは抜け出すことをアドバイスしますが、ソクラテスは逃げだすことをしませんでした。ソクラテスは、自分の死で人々に「この世界には命を懸けるに値する真理がある」のだと示したのでした。
3,サルトル
 サルトルは、「人間は自由の刑に処されている」と主張しました。人間には、生きる目的も与えられていないし、明らかにされてもいない。だから、「何をすべきか」を自分で決断しなければいけません。もしも、しょうもない価値観を選んでしまったら人生が台無しになるかもしれない。だからこそ、慎重に、正しい価値観を選択しなければならないのです。サルトルは、どの価値観が正しいかなんて分からないんだから、出来るだけ大きな舞台すなわち歴史に関わるようなことをしてみたらどうかと述べます。どうせなら、理想の世界を作ろうぜというのがサルトルの考えでした。
4,デューイ
 デューイは、プラグマティズムという価値観を主張しました。デューイは、今までの哲学は、結局堂々巡りになっているだけだと考えていました。それらの哲学は、そもそも質問の仕方が悪かったのではないかとの結論に達しました。例えば、「固い」とは何かという問いは、100人いれば100通りの答えが出てしまうものですが、「固い」ということはどういう効果を生み出しているのかのように実用に焦点を当てるとひとたび答えがでる質問のなると考えました。デューイは、思考とは、生きるための道具だという立場をとっていました。

2,国家の「真理」

このカテゴリーでは、3人取り上げます。
1,プラトン
 プラトンは、現実の世界とは異なる究極の理想的な世界(イデア界)があると考えていました。例えば、点とは、面積を持たない座標のみを表すものですが、現実に面積を持たない点を描くことは、われわれにはできません。しかし、われわれは、点というものを理解することができます。この現実には存在しえないが、概念で理解できる現象をイデアと考えました。プラトンは、国家を統治する人は、このイデアを理解できる人であるべきだと考えました。そこで、哲学者が王になるか、または、王が哲学を学ぶ必要があるとの考えに至りました(哲人思想)。
2,アリストテレス
 アリストテレスは、プラトンの弟子でありながら最終的にはプラトンを否定する立場を取りました。アリストテレスは、イデア界は誰も確認することができないのであるから、イデアを理解できる王などは存在しないのだと考えました。そこで、アリストテレスは、政治体制を分析することから始めました。政治体制は、①君主制②貴族制③民主制の3つあると考えました。しかし、それぞれの体制は、万能の物ではなく徐々に腐敗していくと分析しました。君主制は、独裁制になり、貴族制は、寡頭制になり、民主制は、衆愚制になってしまいます。そして、腐敗に民衆が耐えられなくなった時に革命が起こり異なる政治体制に移行すると考えました。
3,ルソー
 ルソーは、「人民主権」という考え方をしました。これは、国家がなくても民衆は生きていけるが、国家は民衆がいなければ存在できないといった発想から生まれました。真の権力者は、民衆なのだと考え、国家は、いつでも取り換えることができるのであるというものでした。このルソーの思想は、後に、フランス革命などにつながっていきます。

3,神様の「真理」

 このカテゴリーでは、2人の哲学者を取り上げます。
1,トーマス・アクィナス
 哲学は、古代ギリシャで盛んたが、その後、ヨーロッパでは、哲学は忘れ去られていました。その当時のヨーロッパでは、哲学ではなく宗教(主にキリスト教)が思想の中心でした。12世紀に入り、ペルシャからギリシャ哲学が逆輸入されると、その明晰な論理展開にヨーロッパ人が虜になり、爆発的な人気を誇るようになりました。それに従って、宗教と哲学の間に軋轢が生じるようになりました。中には、宗教と哲学の調和を取ろうとする人も現れましたが、哲学の明晰な論理の前では、宗教は手も足も出ませんでした。そこに現れたのが、トーマス・アクィナスです。トーマス・アクィナスは、宗教と哲学の調和を取ろうとするのではなく、神学を哲学の上に置くことを考えました。トーマス・アクィナスは、哲学者に対して原因を掘り下げて聞き続けることで哲学者を追い詰めていきました。原因を掘り下げていくと最後は必ず、理性では理解できないところにぶつかります。そこで、この理性で理解できないところは、神の仕業に違いないと論理展開をしていきました。
2,ニーチェ
 しかし、神の存在を真っ向から批判する人も現れてきました。ニーチェは、「神は死んだ」の言葉でおなじみですが、神とは、弱者のルサンチマンが作り出したものにすぎないと考えました。人生には、成し遂げるべきことがある。それが高い障害ならば努力せよ。敵がいるなら打倒して、己の意志を貫く力を持てと主張します。さらに、ニーチェは、神なき世界についても考察しています。神なき世界では、強くなりたいという意志をしっかり自覚し、それから目を背けないことが重要だと説きます。この意志を失った人間を、末人と呼んでいます。末人は、何も目指さずただ浮草のようにボーッとただ生きている人間だと言います。末人にならないためにも超人にならなければなりません。

4,存在の「真理」

 存在の「真理」では、2人取り上げます。
1,ヘラクレイトス
 ヘラクレイトスは、存在は形を変えて、別のものに変化し続けるものであると考えました。これは、現代でいうところの熱力学第2法則のようなものです。例えば、ここにリンゴがあるとすれば、それは「一定の法則に従って変化をし続ける何か」であると考えます。リンゴは、放置すると朽ちていくわけですが、そこに存在の意味があるのではないかと考えました。
2,フッサール
 フッサールは、存在は、思い込みに過ぎないのだと考えました。真偽を知りようがないのに「こうに違いない」というのは単なる思い込みに過ぎないとしています。結局人間が作り出す世界観は、脳内で生じたことに過ぎないのだと主張します。フッサールは、主観的な意識の上に起こるあらゆる体験を現象と名付け、どのような思い込みがなされているかとらえようとしました。

哲学は、難しいイメージですが、この本のように読みやすく書いてくれるととても楽しいものだなと改めて感じました。皆様もぜひ本を手に取って読んでみて下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?