一歩の重みを感じていますか?
何気なく過ごしている一日でも、
誰もがみな、
それぞれの「その時」にむけて、
自分なりのペースでその一歩一歩を
踏み出しているのだと思います。
今日もこうして一歩ずつ。
その重みを、
きちんと意識できていますか?
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数年前、僕がまだ
日本にいた頃の話です。
出張でとある地方都市に
滞在していたことがありました。
宿泊していた場所は、
都市部から離れた、
連なる山々の麓にある旅館。
その旅館裏には小さな山がそびえたち、
古い石段が山頂まで続いた先に
小さな神社があったんです。
山の麓から頂上までは歩いて1時間ほど。
街が一望できる見晴らしのよい景色は
日常の忙しさを忘れさせてくれるほどの静けさに満ちて、僕の心を癒してくれました。
滞在期間中、
週末になればその石段を登り、
山頂の社にお参りをすることが、
滞在期間中のささやかな
楽しみでもありました。
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そんな滞在生活を送っている中で、
神社へ向かう石段の途中で
出会った一人のおばあさんが
いたんです。
お話を聞くと、もう何十年も、
この石段を登り山頂でお参りをしているのだそう。
おばあさんが、幼なかった戦時中も、
空襲警報のサイレンが鳴れば、
市街を離れてこの石段をかけ上がり
街が焼かれる光景を山頂から眺めていたそうです。
それから、戦争が終わり、
時代の流れとともに復興していく街の姿も
同じ場所から眺めてきたのだそう。
今では、すっかり穏やかになった時代の中で、
自然の営みを感じながら
毎朝こうして山頂まで階段を登っていくのが
毎日の楽しみなのだそう。
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「毎日こうして、石段を登られて、
お疲れはではないんですか?」
ふと、
そんなことを訪ねてしまったんです。
もしかしたら失礼なことを聞いてしまってしまっていたのかもしれませんが、
それでもおばあさんは、
にこりと微笑んだあとに一言。
「こうして、一段一段を踏みしめていると、
疲れる間も無く、気がついたら山頂に着いてしまうんです」
その一言に、
心に響くものがあったんです。
当時の僕はといえば、
どこか気持ちがふらついて、
仕事も人生の目標も定まらなかった時期でもありました。
そんな中で、
石段を一歩一歩、大切に登っていくという、
おばあさんの姿勢が、
その時の僕を励ましているようにも感じたんです。
おそらくおばあさんは,
今日までの一日を、
そうして足元を見つめながら、
丁寧に歩んできたのだろう。
戦争をその目に焼き付け、
復興を穏やかに眺め、
幾つもの時代を眺めてきた
おばあさんのその優しい目と言葉から、
何か大切なものが溢れていた気がしたものです。
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人生は一つの山登りに例えられます。
そんな中で、
人は山頂ばかりに憧れて、
一足飛びでそこへ向かおうとしてしまいがちです。
そんな中でも、
忘れてならないこと。
それは、どんな一年も、一生も、
貴重な一分一秒、一日の積み重ねなのだということ。
あの時のおばあさんのように、
一歩一歩を確かめながら
丁寧に石段を登っていくように
目の前の一歩を大切にしたいと思うんです。
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