幸福日和 #093「大自然のリズムの中で」
毎日の仕事に、家事に、
日常の雑務にと追われながら、
今日が何日で何曜日かも分からず、
時の流れを見失ってしまうことがあります。
そんな時にこそ、
この日常全体を包み込んでくれている、
大自然の速度やリズムを意識する。
そうして、時間の速度を少しだけゆっくりと調整してみる。
そんな、気持ちの余裕が必要なのだと思うんです。
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自然豊かな故郷を離れ、
都会でもがきながら仕事をしていた頃がありました。
どこまでも広がる高層ビル群の環境の中で、
色彩のない日常の中を、
無機質な時間だけが流れていました。
あの頃は仕事に必死で、
社会人としても認められたくて、
ただただ目の前のことだけを追いかけていたんです。
季節はいつも通りに規則正しく巡っていただろうに、
そんな四季の移り変わりを感じる時といえば、
スマホの中で流れる映像や、
テレビで伝えられる季節の便りだけでしかありませんでした。
そもそも昼間に、空や自然を眺める余裕すらなかった。
日が昇る前に出勤し、日が沈んだ後に帰宅する。
陽の光すら感じられないほどの日常を送る日々だったんです。
故郷の田舎で、
大自然に囲まれて四季を感じて育ってきた自分にとって、
ありえない時間との向き合い方でした。
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そんな無機質な毎日を送っていた
ある時のことです。
当時、僕が住んでいた都内の部屋に
花が届くようになったんです。
ある春に送られてきたのは、
桜の蕾がしっかり付いた小枝。
その小枝を部屋の花瓶にさして出勤して、
疲れた身体で帰宅すると、
小さく開いた桜の花が迎えてくれるんですね。
冬にも同じように、
今にも花開きそうな蕾をつけた椿が送られてきました。
寒い部屋を温めて、冬のひと時を過ごしていると、
その部屋の暖かさに反応するように
蕾がゆっくりと開いてくれるんです。
花だけではありません。
ある秋には、小箱にたっぷりと詰められた紅葉が
送られてきたこともありました。
そんな一枚一枚の紅葉を湯船に浮かべては、
忙しいない日常の中でも、
少しづつ季節への意識を取り戻すことができるように。
季節が巡るたびに、
無彩色の僕の日常に季節の彩りを送ってくれた人。
それは祖母だったんです。
いつかの帰省の時、
いつも身近にあったはずの故郷の山々を、
僕が目を潤ませながら眺めていたのを
祖母は忘れられなかったのだそう。
それ以来、祖母は季節の変わり目に
都会に住む僕に季節を届けてくれたんです。
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自分は少し急ぎすぎてはいないだろうか。
今でも、時にそう思うことはあります。
そうした時に、
あの時のことを思い出します。
時代を支える技術の発展は、その速度を加速させ、
そこに追いついてゆかねばと、
産業やビジネスも速度を増している昨今。
気がつけば、本来ゆったり歩むべき日常の速度までもが
異常な速さで巡ってしまっている気がします。
本来、その場所そのものの速度というものが
あったはずだと思うんです。
例えば、日が昇れば沈んでゆく、この星の規則正しい速度。
また、春には桜が咲き、冬には雪が降りそそぐ、
緩やかな四季の速度。
そうしたリズムを忘れてはいないだろうか。
行き過ぎた速度の中で、
大切な何かを見失ってはいないだろうか。
部屋に一輪の花を添えてみるのもいいかもしれません。
週末に大自然に触れたり、
毎朝の数分、陽の光を浴びるだけでもいいかもしれません。
そんなに急ぐ必要はないんです。
ゆったりと、おおらかに。
自然の速度に合わせながら、
ともに伴走しながら。
毎日と向き合ってゆけたら
どれだけ幸せなことだろうかと思うんです。
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